その翼に、くちづけを
(白と黒の翼は、誓いの御旗)
ある頃から、一風変わった集団の名が囁かれるようになった。
彼らは武器と戦略を持つ兵士であり、彼らを支える戦わぬ者たちの集まりだった。
名を、『調査兵団』と云う。
彼らは軍ではなく、この広い世界を探求することを目的としていた。
驚くべきは人間と翼人が、いがみ合うこと無く共に暮らし、生きていることだ。
彼らは自らを示す紋章を、"自由の翼"と呼んだ。
人間の科学力を示す盾の上に、翼人の象徴たる両翼の翼が重なる紋章が描かれている。
だが描かれた白い右翼に対し、左翼は夜空のように黒かった。
調査兵団を立ち上げ率いる隻腕の男と、研究部門を纏める科学者は、懐かしそうに目を細める。
…彼らは"自由の翼"と同じ色の翼を持つ翼人に、命を救われたのだと云う。
そして調査兵団随一の強さを持つ人間の兵士は、淡々と告げた。
『人間と翼人が一緒に暮らしているのは、奇跡じゃない。全員の努力の結果だ』
彼は白と黒の翼を持つ翼人と、約束をしたそうだ。
共に暮らせる場所を創り、必ず迎えに行くと。
"自由の翼"とは、その翼人が自由に翔べる世界を創る誓いの形であるのだと。
* * *
偵察に出ていた小隊からの報告を聞いた後、調査兵団では直ちに作戦部隊が組まれた。
拠点である町の北門を開き、作戦に組み込まれた分隊が出立の合図を待っている。
「チッ、面倒くせぇ…」
隠さず舌打ちしたリヴァイに、彼の後ろで控えていた直属の部下たちが苦笑いした。
「出立5分前!」
先導班の声が聴こえる。
リヴァイの纏う空気がすぅと尖り、研ぎ澄まされた刃のような気配が濃厚になる。
彼は静かに目を伏せ、右の拳で己の心臓をトン、と叩いた。
その様を、部下たちは息を呑み見つめる。
…いつだったか、誰かが聞いたらしい。
『なぜ、いつも出立前に、右の拳で自分の心臓を叩くのですか?』
リヴァイは彼にしては穏やかに、こう答えたという。
『俺の心臓は、アイツに預けてあるからな』
誰もが、最強と謳われる彼の想い人を思う。
"自由の翼"と呼ばれる翼人に向けられるリヴァイの声は、いつだって愛おしさに満ちていた。
「調査兵団、出立!」
団長であるエルヴィンの号令の元、人間と翼人の混成部隊が任務へと出立する。
…もう少し、もう少し。
逸る心を抑えつけ、リヴァイは馬の手綱を握り直した。
ーーーエレンの世界を、色づけたい。
負の感情に囚われることなく、金色を翳らせることなく、…"自由"に。
end.
2014.4.20
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