ARC-Vパロ

(ARC-V世界でカードになっちゃった面々)




榊遊矢(さかき・ゆうや)はたった今、デッキから引いたばかりのカードをセットした。
「オレは、手札からこのカードを召喚する!」
レベル4、調査兵団第104期生エレン・イェーガー!

軍服に似たカーキのジャケット、深い緑色をした外套。
現れたのは、遊矢たちとそう歳の変わらないように見える少年だった。
「えっ、何あのカード?!」
私初めて見る!
「うむ、俺も初耳だ」
「かっこいいね〜あのカードさん」
「モンスターカードって感じじゃないよなぁ?」
普通の人間みたいだ…。

「このカードの召喚に成功したとき、カードの特殊効果が発動!」
手札に"調査兵団幹部"のカードがある場合、リリース無しで召喚可能!
「レベル8、調査兵団兵士長リヴァイ・アッカーマン!」

さすがに目を見開いた。
「れ、レベル8?!」
新たに召喚されたカードは、エレンと同じく普通の人間のように見えた。
少し背が低い?
召喚されたにも関わらず、2体のカードは未だ目を閉じている。

>>エレン・イェーガー
攻撃力1600/守備力1000

>>リヴァイ・アッカーマン
攻撃力3100/守備力2500

「えっ、何あのカード。チート? チートなの?」
しかも融合やエクシーズでもない、通常カードが!
紫雲院素良(しうんいん・そら)が手元のキャンディの存在を忘れるくらいには、目の前のデュエルはおかしい。

「おーい、エレン! リヴァイ兵長! 起きてくれ!」
遊矢が呼び掛けると、2体のカードはようやく目を開けた。
『えっ、うわ、何これ! 何このファンシーな場所!』
『どうやら、"でゅえる"とやらの最中らしいぞ』

「「「ウワアァアシャベッタアアアア!!!」」」

一昔前の流行り言葉を使ってしまうくらいには、驚愕した。
「……榊遊矢、聞いても良いだろうか?」
遊矢の対戦相手である赤馬零児(あかば・れいじ)が、額を押さえながら問うてきた。
「? なに?」
「その2枚のカードは何なんだ…?」
「え? 拾った」

「「「拾ったぁ?!!」」」

もはや、場外のツッコミは一致である。
「土手を散歩してたときにさ、声が聴こえた気がしたんだ。
朝早くて周りに誰も居なかったし、ちょっと探したらエレンのカードが落ちてて」
デッキにセットしてみると、声がはっきりと聴こえてきた。
『兵長、兵長…。どこ行っちゃったんですか、兵長!!』
そのカードは泣いていた。
遊矢は胸元のペンデュラムを見せるように掴む。
「オレ、失せ物探しは得意だからさ。エレンの言う"リヴァイ兵長"を探したんだ」
ダウジングの行き先は川の対岸、そこにリヴァイのカードが落ちていた。
『…ほう、泣きながら俺を捜していたのか』
なあ? エレンよ。
にやりと悪い笑みプラス流し目を寄越され、エレンはぞわっと鳥肌が立った。
『うわああ、遊矢のバカ! 何で兵長の前でバラすんだよ?!』
「は? え? いや、」
ガクガクとエレンに肩を揺さぶられ、遊矢はまともに受け答えが出来ない。
『まあ良い。この"でゅえる"が終わったら、心身共にじっくり聞いてやるよ』
『俺より年下ばっかなところで何言ってんですかアンタは?!』
お巡りさん、兵長です!!

この光景を何と呼ぼうか。
「……まだ君のターンだ。榊遊矢」
フリーズし掛かっていても、零児はまだ目的を見失ってはいなかった。
自軍のペンデュラム召喚により、存在するのは3体のDDDモンスター。
遊矢のフィールドではリヴァイのみが、かろうじてその攻撃力を上回っている程度だ。
(他のエンタメイトモンスターを用いても、倒すには足りない)

エレンの相手を一頻り楽しんだリヴァイは、相手のモンスターを見上げて眉を寄せた。
『おい、遊矢。あの棺みてぇのはきな臭ぇ。手札にアイツ居たろ』
「え? あ、そうか。分かった」
遊矢はもう1枚、手札からカードを引き抜いた。
「エレンの特殊効果でもう1枚、調査兵団幹部を召喚!」
調査兵団分隊長、ハンジ・ゾエ!

遊矢から見て左からリヴァイ、エレン。
そのさらに右にもう1人、同じ服装をした人物が現れた。
『いやっほぅ! 何これすっげぇ! 私浮いてる? ていうかあのでっかいの何? 巨人?!!』
マシンガントークを繰り出した…女性? に、リヴァイの蹴りがヒットする。
『てめぇは煩ぇんだよ』
『ひっどいなあ、好奇心は閉じ込めちゃ駄目なんだよ!』
ねえそこの君! と呼び掛けられ、零児は平静を装った。
「…何でしょうか?」
『その上のでっかいやつ、君の化け物なんだよね? 研究したい! 解剖させて!!』
(((カードがどうやってカードを解剖するんだ?!!)))
そろそろツッコミに疲れてきた外野である。

>>ハンジ・ゾエ
攻撃力2400/守備力2000

またもリヴァイの蹴りがハンジへヒット。
『おい、遊矢。さっさと続けろ』
「はい!」
ハンジ分隊長の召喚に成功したとき、このカードの特殊効果が発動!
「相手フィールドのモンスターの特殊効果を、開示した上で無効にする!」
「なに?!」
開示された、零児のモンスターの特殊効果。
「同一種族が倒された場合、その攻撃力が残った同一種族に上乗せされる…。なにそれ!」
「あのまま考えずに倒してたら、残りのやつが攻撃力6000になるところだったね」
素良の解説に、柊柚子(ひいらぎ・ゆず)たちはゾッとする。
同様に背筋が寒くなった遊矢だが、ここはリヴァイの進言に感謝するしかない。
(これなら、行ける!)

「エレン、リヴァイ兵長、ハンジ分隊長で"DDD"を攻撃!」

はあ? と声を上げたのは、LDSの光津真澄(こうづ・ますみ)だった。
「何をやっているの? "エレン・イェーガー"も"ハンジ・ゾエ"も、赤馬さんのDDDの攻撃力を下回っているわ!」
しかし誰もの予想を裏切り3体のDDDが破壊され、赤馬のライフは残り100。
「な、何で?!」
今の攻撃で、彼は合計2600ものダメージを受けたことになる。
「"調査兵団"と名のつくカードは、相手フィールドに体高2mを超えるモンスターが居る場合、1体につき500ポイント攻撃力がアップする!」
「「「はああああ?!!」」」
何だそれチート! どう考えてもチート!!
つまり今現在、エレンの攻撃力は3100、ハンジは3900、リヴァイに至っては攻撃力4600である。
「言っとくけど、」
遊矢は零児を見、そしてガラス越しにLDS理事長・日美香(ひみか)を見た。
「このカードは柊塾長と一緒に、偽造かどうか全部調べたんだ」
バーコードに通る、デッキが認識する、偽造防止の透かしやホログラムだってある。
…そもそもの発端は、遊矢によく似た人物によるLDS塾生の襲撃だ。
「オレじゃないって言ってるのに、あんたたちは俺だけじゃなくてこの遊勝塾まで巻き込んだ」
だから、俺だって手段は選ばない。
「遊勝塾はオレが守る! そんな理不尽な理由で渡してたまるか!」
リヴァイ兵長の特殊効果発動!
「リヴァイ兵長の攻撃で相手モンスターの破壊に成功した場合、このカードはもう一度攻撃することが出来る!」
『まあ、悪く思うなよ』
切り裂かれたような感覚が零児を襲い、ライフがゼロになる。

ーーーWINNER / YUUYA SAKAKI!!

サーカスフィールドが、消えていく。
『ねえエレーン。ここで巨人化って出来ないの?』
『試したんですけど、無理でした。俺の巨人体、別のカードになってるんですよね』
『えっ、何それマジで! ちょっ、遊矢くんエレンの巨人体見せて!!』
おかしい。
ソリッド・ビジョンシステムが停止し、バトルフィールドは消滅した。
…にも関わらず、先のデュエルで遊矢が召喚した3体の"調査兵団"カードは、そのまま残っている。

『そういえば、私たちみたいに話せる子は他に居ないのかい?』
「うーん、居ないかな…。時読みとか星読みは、目を見たら何となく言いたいことが分かるけど…」
ハンジに問われ、遊矢は思い出しながらもエレンに関連するカードをデッキから探す。
「あ、あの! エレン・イェーガーさん!」
『?』
名を呼ばれてエレンが振り返れば、硝子向こうに居る黒髪の少女が呼んでいた。
(ユミルみたいに肌が浅黒い…)
エレンと目が合った彼女は、これでもかと言わんばかりに目を輝かせる。
「…っ、すごい! 本物の宝石よりも綺麗な眼…!」
彼の眼は、珍しい金色をしていた。
『…えっと、ありがとう?』
ぐい、とエレンの襟首が後ろから引かれる。
『おいエレン。てめぇ、人を誑かすのもいい加減にしろ』
やや怒りの篭った声音で以って吐かれ、エレンはムッと眉を寄せた。
『意味分かんないです。ちょっと、苦しいんで離してくださいよ兵長!』
リヴァイは遊矢たちの元までエレンを引きずり、そこでようやく手を離した。

『おい、そこの。眼鏡のガキ』
零児は不意にリヴァイに話し掛けられ、内心で動揺した。
「…私ですか?」
『てめぇ以外に眼鏡掛けてるガキは居ねぇよ』
レオ・コーポレーションの社長として、数多の大人たちと駆け引きをしている。
そんな零児であるが、ここまで威圧感を醸し出す人物に相対するのは初めてだ。
『お前は他の連中より、余程このカードと"でゅえる"に詳しいようだな』
「…そうかもしれませんね」
少なくとも、ここの塾生よりは相当知っているだろう。
リヴァイは少し考える素振りを見せた。
『なら聞くが。俺たちのような存在は、他に在るのか?』


この数日後、零児は屋外で『中央第一憲兵団/ケリー・アッカーマン』と描かれたカードを拾うのだが…。
それはまた、別のお話。
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2014.6.20(ARC-Vパロ)

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