ヴァンパイアパロ
(始祖エレヒスとエレンの眷属なリヴァイたち)
ヴァンパイアの弱点は日光。
食料は血液。人間のものでも動物のものでも。
同族の血は好き嫌いが激しく、またドラッグのように依存性が強い。
よほど差し迫っているか、契った相手以外とは血のやり取りはない。
ヴァンパイアは血族を残す力が弱く、数が少ない。ゆえに滅多なことでは同族で争わない。
幾つかの派閥に分かれ、人間の中で不自由なく生きていた。
派閥はそれぞれに特異な能力を有している。
その内の1つはすべてのヴァンパイアの原種であり、かつてはすべてのヴァンパイアを統率していた。王族と呼ばれる(エレンの一族)
また、常に人間と寄り添い共存共栄してきた一族もある。穏健派と呼ばれる(ヒストリアの一族)
ある時、人間は下位種と蔑む一派がヴァンパイアを神と崇める人間の一派と手を組み、他の派閥を襲い始めた。
特にエレンの一族とヒストリアの一族は、その特異性ゆえに執拗に狙われた。
エレンとヒストリアは、ほぼ年代を同じくして産まれた。出会ったのは随分と後だが。
互いの家族がヴァンパイアとしては百年ぶりくらいに顔を合わせ、絶望的な状況が露になる。
他のヴァンパイアの一族は、ダンピールも含めてほとんど殺されたという。
生きて捕らえられたものは生物実験の土台とされ、『TITAN』と呼ばれる生物兵器が誕生した。
『TITAN』は土台となったヴァンパイアと同じ血筋の者を喰らう。
ダンピールもすべて根絶やしに、他のヴァンパイアの派閥は全滅かと思われた。
しかし『TITAN』と化したヴァンパイアの中に、エレンの一族の血を引く者がいた。
彼は植え付けられた殺戮本能に全力で抗った。
殺戮衝動を生物兵器の研究所へ向け、研究所は壊滅。
同時に研究成果でもあった『TITAN化薬剤』が街の水源へ流れ込み、その水を口にしたすべての生物を巨大化させた。
二足歩行で人型をしている生物以外は、その毒に身体が耐え切れずすぐに死んだ。
しかし人間とヴァンパイア、ダンピールで水を口にした者は、巨大化し自我を亡くし、ただ同胞を喰らい続けた。
ヴァンパイアであった者はヴァンパイアを、人間であった者は人間を。
ダンピールは元は人間であったので、TITANと化したダンピールは人間を襲う。
そしてエレンの一族の血を引いたTITANは、ほぼ唯一といえる血族であるエレンを殺戮本能のままに捜し続けた。
* * *
いつしか時は遥かに過ぎ、『TITAN化薬剤』もすっかり薄れて消え去った頃。
TITANの襲撃を免れていた小さな村に、1体のTITANが現れた。
武器を手に警戒する村人たちへ、何とTITANが声を発した。
「オウ…オウ、ヨ。我ラガ、血族、ノ、始マリ、ヨ」
血族、という言葉を使うのはヴァンパイアだけだ。
村は、あるヴァンパイアにより命を長らえたダンピールたちの集まりだった。
「…ハンジ、エレンを呼んできてくれないか」
「分かった!」
エルヴィンたちもまた、そうだった。
立体機動装置のボックスからブレードを引き抜いたリヴァイは、1人TITANへ近づく。
「お前は、エレンの何だ?」
TITANはじっと、村の奥を見つめている。
何かを見ているようで見ていない、そんな目をしていた。
その目が、不意に何かを映す。
「…俺を呼んだのは、お前か?」
ハンジと共にやって来たのは、黄金の眼をした少年だった。
いや…少年に見えるだけで、彼はこの村の誰よりも遥かに長く生きている。彼の許嫁も同様に。
黄金の眼の少年…エレン…は、リヴァイのすぐ傍までTITANへ近づいた。
「お前の云う『王』が、かつてヴァンパイアの始祖であった一族を指すなら。俺を指名するのは正答だ」
TITANが片膝をつき、深く頭(こうべ)を垂れた。
「オウ、ヨ。我モ、同ジ血、ニ、連ナッテイタ者」
「我…ノ、自我…ガ…失、セル前ニ。我ノ知ル、全テヲ…、貴方、ヘ」
TITANが人語を話すなど、聞いたこともない。
ましてやこのTITANが、自分と同じヴァンパイアであるなど。
エレンは僅かに眼差しを伏せ、次いでまたTITANを見上げた。
「良いだろう。聞いてやる、お前の話を」
待て、と言葉を発しようとしたリヴァイを、先にエレンが指先で留めた。
「対TITANのスペシャリストばっかり居るこの村で、他に心配ごとはないだろ?」
違うか? リヴァイ。
薄っすらと敷かれた笑みと合わせて問われれば、リヴァイに反論する余地はない。
胸中で毒づき、ブレードを地面へ突き立てた。
「エルヴィン。一字一句逃さず記録出来るか?」
続いてエレンに問われ、エルヴィンはざっと村の中の資産を思い浮かべる。
「紙とインクの問題はないな。人員を複数交代にすれば可能だろう」
10分待ってくれないか。
エルヴィンの進言に、頷いた。
「じゃあ、それで頼む」
今度はハンジがてくてくと寄ってくる。
「ヒストリアとおチビちゃんたちは、ミケに引き続き頼んでおこうか?」
「そうだな。相当時間が掛かりそうだし」
「りょーかい。伝えてくるね!」
TITANは、真正面…腕を伸ばしても届かない位置に立つエレンを見下ろして。
エレンは、TITANの腕が届かない位置から静かに見上げて。
「話せ。お前の知っていることを、すべて」
その黄金がひたりと据えられ唇がゆっくりと紡がれるのを待ってから、TITANは語り出す。
途方もなく永く、そして酷い世界の話を。
End
2014.7.20(ラスボスっぽいエレンが書きたかったんだ…)
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