この穹(ソラ)に願いを
8.xxx
そろそろ日も落ちる。
店にCloseの札を下げ、サンダルフォンはグランたちと在庫の確認や売上の計算をしていた。
「わぁー! サンダルフォンさん、メロンとスイカが完売です! それにルルーシュさん発案のアイスカフェオレが残り4杯でしたよ!」
何だかんだと、珈琲(温)も含めて強気な売上げだった。
ルリアの歓声が上がり、ついサンダルフォンの口許も綻んだ。
「そうか。彼にも、感謝してもしきれないな」
KMFを使う以外の戦いは苦手なようだから、天司長の加護でも渡しておこう。
「残りのカフェオレ、君たちで飲むか?」
「良いの?!」
「やったぜ!」
「ありがとうございまーす!」
グランとビィも合わせて歓声を上げ、そういうところは年相応だな、と思う。
*
賑やかな声を少し遠くにしていたルシオの目の前に、薄茶色で満たされたグラスが突き出された。
「…えっ」
珍しく、本当に珍しく、ルシオは気づいていなかった。
すぐ傍までサンダルフォンが来ていたことに。
「ふ、君のその顔を見るのは良い気分だ」
ルシオの驚く顔を見て、サンダルフォンは上機嫌に笑う。
そして彼が持つ、そのグラスの中身は。
「ランチタイムの代理の礼だ。有り難く飲むと良い」
ルルーシュに助言を受けたサンダルフォンが、この海の家のために設けたメニュー、アイスカフェオレだ。
「サンちゃんの珈琲…」
そっと薄茶色に口をつければ、まろやかな甘味と少しの苦味が口内に広がる。
「……美味しいです」
アイスゆえに暑さの中で喉越し良く、一方で、海で疲れた身体にはミルクの甘味が優しい。
そう感じるのは、おそらく。
「混ぜ合わせる珈琲が美味しくなければ、これは商品として成り立たないのでしょうね」
サンダルフォンの淹れる珈琲が美味しいからこそ、ルルーシュはカフェオレにすれば誰でも飲めると進言した。
珈琲の味を覆うのではなく、引き立てるための脇役にミルクを使って。
一気に半分ほど飲み干したルシオは、夕日の海を眺めるサンダルフォンを呼ぶ。
「サンダルフォン」
ビクリ、と彼の肩が震えた。
(…だから、)
だからルシオは、彼を『サンちゃん』などと呼ぶのだ。
もちろん親しみを込めて、お近づきになりたいのだと込めながら。
それでも、名をきちんと呼びたくても、それは彼の創造主の紡ぐ『音』であり、サンダルフォンにとってルシオの声ではない。
案の定、こちらを振り返った彼の瞳は揺れていた。
解っていても駄目なのだろうと、ルシオは理解している。
「解ってはいるのですが。それでも私は、君の名を呼びたい」
「…は?」
一瞬にしていつもの輝きに戻った双眼を、頬を包み込んで覗き込む。
「私は、あるがままに君を愛したいのです。サンダルフォン」
この男は何を言っている?
停止したサンダルフォンの思考を焼き切るように、唇に違う熱が触れた。
End?
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2019.7.29
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