年末といえば?
「大掃除?」
「掃除というか、本体の手入れしねえと」
「挨拶回り!」
「祭りの準備だよなっ!」
「御節料理の仕込みだね」
「大祓かな?」
「御歳玉を用意せねばなりませんね」
「宴会だよなあ!」
「蟹!」
「年越し蕎麦!」
「酒!!」
「初詣に並ぶ!」

ちっがーう! と審神者が叫んだ。
「ちっげーよ! お前ら知らねえの? 紅白歌合戦!!」
一斉に疑問符が上がったのが目に見えた。
「紅白?」
「歌合戦?」
「歌うの?」
「紅白揃って目出度そう、だな?」
やっぱり知らないのか、と少々肩を落とした審神者に、元気な声が届く。
「あ、僕知ってますよ! 紅組と白組に分かれて、それぞれに持ち歌を歌って審査員と視聴者に評価してもらうんですよね!」
「秋田、正解!」
文句なしの花丸だ! と付け加えてやると、秋田藤四郎は照れたようにえへへと笑った。

某局でテレビ放送している年末の風物詩、歌による合戦。
なんだかんだと驚きの長寿番組で、2204年にも放映している。
「前に主が主催した、『からおけ大会』みたいなものか?」
「あー、そうだな。あれのプロ版みたいな感じだな」
審神者が現世から持ってきた曲媒体を刀たちに渡し、各々がそれをなぞって歌を披露する、という遊びを以前にしたことがある。
それを知っている者たちは、なるほど、と内容に察しがついたようだ。
「…桶、とは?」
もっとも新参である小烏丸が、隣の薬研藤四郎に問い掛ける。
「からおけ、っつってな。歌手の歌曲の曲だけがあって、歌を自分で真似する遊びの一種なんだ」
「ほう…人の子は、愉快なものを考えつくものよ…」
ふむ、と長い指で顎を撫でた彼の様子を見るに、想像が付いたようだ。
「で、大将。その紅白歌合戦がどうしたんだ?」
改めて尋ねた厚藤四郎へ、審神者はビシリと指を立ててみせた。

「余興だよ、年末の! 得意芸の披露も楽しいけど、みんなが同じ題目で発表するのも面白いだろ?」

乗った! と手を挙げたのは、やはりというか鶴丸国永と愛染国俊、太鼓鐘貞宗、それに鯰尾藤四郎である。
「現世の歌ということは、踊りも芸も入っているんだろう?」
「祭りなら乗るぜ!」
「こりゃあ、派手にいけそうだよなあ!」
「楽しそうですよね!」
鶴丸は秋田へ尋ねる。
「秋田、紅白の組はどうやって分かれるんだ?」
「あ…確か女性が紅組で、男性が白組でした」
まあ、分かりやすい。
「しかし主、本丸には女姓は居らんぞ?」
三日月宗近のもっともな問いには、別方向からはーい! と乱藤四郎の弾む声が返った。
「ボクと次郎さんと、加州さんが紅組! どう?」
却下、と駄目出しをしたのは審神者である。
「明らかに人数少ないし、なんかこう…統一感が欲しい」
「えぇっ? ワガママだなあ、主さんは」
統一感、とは。
「じゃあさ、鶴丸と物吉と亀甲と…あと太鼓鐘で白組とか?」
「おっ、装束の色か! それなら山姥切と髭切も白に出来そうだな」
髪の色まで含めれば、小狐丸や鳴狐、骨喰藤四郎も入れられる。
浦島虎徹の提案に名案だと同意したのは和泉守兼定だが、それだ、と意外なところから声が上がった。

「白組ならば相応しい。大将も兄者で決まりだ」

当然俺も白組だ、と膝丸が至極真面目な顔をして言うもので、審神者は(゚Д゚)ハイ?という顔をする。
「え、なに、どういうこと?」
早々に察したのは、歴史の長い刀が多かった。
仕方がないですねえ、と肩を竦めたのは今剣だ。
「ひざまるがいうならしかたありません。ぼくもしろぐみにはいってあげましょう!」
「がははは! それならば俺も白組に就こうぞ!」
あ、と察していない者たちも察した。

白は、源氏の色だ。

「惣領かぁ。懐かしいなあ」
髭切はおっとりと笑う。
ここでようやく、審神者も何の話なのか理解することが出来た。
「あ、あー…なるほど。…ん? けどそうなると、紅って平氏だよな?」
平氏の刀なんてこの中に居たか? と呟いた審神者に、うっふっふと含み笑いが聞こえた。
他の刀たちより一段と人間離れしている相貌が、面白そうに審神者を見つめる。

「主よ。そなたはもう少し、率いておる者を知るべきよな。我は平氏の重宝ぞ」

あ、と審神者は間の抜けた顔をした。
(やべ、これ地雷ってやつじゃ…)
あれが生まれる前より生きておるがなあ、と小烏丸は愉快げに続ける。
「源氏の子が白組として立つなら、この父は紅組の大将として立とうぞ」
どうだ? とゆるりと首を傾げて彼は髭切へ水を向ける。
審神者の心配を他所に、髭切も愉しげに返した。

「良いんじゃないかな。源平歌合戦。…おお、語呂も良いねえ」

のんびりしている場合ではないぞ! と膝丸が彼に詰め寄る。
「兄者、平氏が相手では負けられん! 勝つために仲間を集めるぞ!」
小烏丸は集まっている刀剣たちをぐるりと見回した。
「…ふむ、そうか。それぞれに仲間を集め、紅と白に分かれたら良いのだな」
「てことは、30ずつくらいか?」
ざっと頭数を数えた獅子王が、にっと笑って小烏丸を見下ろす。
「じゃ、俺はあんたの紅組についてやるぜ。なんたって"じっちゃん"だもんな?」
「ふっふ、良いぞ良いぞ」
思った以上に朗らかな会話に審神者が目を丸くしていると、他の者たちもわいわいと騒ぎ始めた。

「兄弟は髪が白だから、白組に行きます? 俺も一緒に行きますよ!」
「…そうだな」
「俺、紅組行こっと。安定は?」
「うーん、そうだなあ…他の人は?」

これは楽しくなりそうだ。
皆を眺めていた鶴丸へ、不意に声が掛かった。
「これ、鶴丸や。そなたは白ではなく紅であろう?」
「……? え、俺か?」
常に白を纏う鶴丸はすでに白組のつもりだったが、告げてきた小烏丸に目を瞬いた。
彼は三日月とはまた違う、鷹揚な笑みで頷く。
「平家にそなたが在ったこと、この父は知っておるぞ?」
(…そういえば)
そうだったかもしれない。
ならば紅組でも、と思ったところで、また違う方向から制止の声があった。

「駄目だよ。国永は白だろう?」

長机を挟んだちょうど正面に座っていた髭切が、まっすぐに鶴丸を見ている。
(…困った)
これでは即答が難しい。
茶のおかわりを淹れた鶯丸が、湯呑みを鶴丸へ差し出した。
「さすが、人気者は辛いな」
困った。
小烏丸と髭切の視線は鶴丸に刺さったままで、他の刀たちは鶴丸がどちらに就くか期待の眼差しだ。
「!」
そこで打開策を思いついた。
「なあ、主。何も現世の歌合戦とまったく同じじゃなくても良いよな?」
「へっ? あ、ああ、みんなが楽しめるならもちろん!」
よし! と鶴丸はやおら立ち上がる。
歩み寄った先に居るのは。
「申し訳ないが、紅組も白組も俺は断る」
不思議そうに鶴丸を見上げた者たちを、がばりと後ろから抱き締めた。
「っ、おい!」
「わっ?!」
「えっ?!」
驚きの声を上げたのは、大倶利伽羅に太鼓鐘、燭台切光忠だ。

「なぜなら、俺は伊達組で出るからな!」

巧いっ! 座布団5枚! と審神者が手を叩いた。
次いでわっ! と場も盛り上がる。
「いっそ新撰組で良くねえか?」
「それじゃいつもの面子じゃん!」
「アタシは紅組行こー! 兄貴はどうする?」
「そうですね…。私も紅組に参加させてもらいましょう」
「三条の縁です。私は白組に就きましょう」
「いち兄! 粟田口組でどう?」

うんうん、と盛り上がる皆を見渡していた審神者は、ハッと気付く。
「いやちょっと待て、俺は?!」
「主は審判だろ?」
「えーっ!!」

今日も本丸は平和だった。


年の瀬へ向け仕込みは上々

(伊達はおそらくおだて黒田連合。粟田口はもちろんAWT48で)



16.11.19

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