この本丸の主は、鶴丸国永が大好きだ。
それは恋愛感情的なものではなく、好きなアイドルを応援して時々不埒な妄想を脳内で爆発させるアレである。
初めて参加した演練で相手本丸の鶴丸国永を見て以来、主の口癖は「鶴丸国永を愛でたい!」になった。
もちろん恋愛感情的なものではなく、所有欲とかそういう類いでもなく(来てほしいのは当然として)。
「ご飯食べて驚く鶴丸さんが見たい」とか「(五虎退の)虎と戯れる鶴丸さんを写真に撮りたい」とか、そういうアレだった。
その影響をもろに受けてしまったのが初期刀である加州清光で、彼は3:20鍛刀のための資材集めに頑張った。
「主、今日の演練相手凄かったね! 鶴丸さんと他のレア四全部いたよ」
「うんうん、隊長の鶴丸さんめっちゃかっこ良かった!」
「俺たちまだ鶴丸さんいるらしい第五合戦場行けないけど、遠征行ってくるからね!」
「ありがとう加州くん…! さにわ、鍛刀頑張るよ!!」
完全にアイドルを追い掛けるアレである。

何本かの打刀の後に来た3:20太刀、いわゆるレア四は一期一振であったが、審神者はめげなかった。
何しろ一期一振は、本霊が鶴丸国永と同じ尊き方の持ち物だ。
「いらっしゃいませ一期一振さん! 早速ですが、鶴丸国永さんのこと教えてください!」
「はあ…」
顕現早々、呆れた顔をしなければならなかった一期一振には申し訳なかったかもしれない。

まあ、そんなこんなでいろいろあった。
レア五の三日月宗近が鍛刀された日にはうっかり気絶し、加州と当刀には随分と心配されてしまった。
「そなたがここでの主となるものか」
「は、はい。面目ない…」
「はっはっは。なに、大事なくて何よりだ」
神々しい程の美貌は天下五剣の称号が、人々の称賛が上乗せの形となったゆえだろう。
「神様こわい…」
これは、所謂『月狂い』と云われる三日月欲しさにおかしくなってしまう審神者が出るのも頷けた。
「ところで主よ。ここに鶴は来ておらぬのか?」
「…はい?」
「鶴丸国永だ。あやつは三条の者にとって弟のようなものでな。永く会っておらぬゆえ、早う会いたいのだ」
「……」
ふぅ、っと何かが抜けた気がした。
「主?! 主しっかりして!!」
どうやら魂が抜けかけていたらしい。
「え? 聞いてないよ?! 担当さんそんなこと言ってなかった!!!」
全力で叫ぶ以外に何かあっただろうか。
(これが本当だったら、あの担当絞めてやる…!)
こちらが鶴丸廃だと知っていながら情報を出し惜しみするとは、と審神者の思考は若干危ない方向へ向かう。
審神者は勢い良く加州を振り向き、その勢いに加州は軽く仰け反った。
「ねえ加州くん、そんな話聞いたことある?!」
「あ、うん。少なくとも同じ三条の刀には聞いたことないと思う。…あ!」
タイミング良く、鍛刀部屋の前を通りかかった者があった。
加州よりもずっと良いガタイに、自慢の長い白練り色の髪を靡かせている。
声を掛けようとした加州よりも先に、審神者の声と手の方が早かった。
「小狐丸さん! ちょっと!」
「ぬし様?」
いきなり袖を掴まれ鍛刀部屋へ引っ張られた小狐丸は、審神者に目を丸くした後(のち)三日月に気づき、目を瞬いた。
「おや、久しい顔ですね。三日月宗近」
「うむ。そなたも久しいなあ、小狐丸」
おっとりと挨拶を交わす三条刀に、待ちきれぬと審神者が小狐丸を問い詰める。
「小狐丸さん、鶴丸さんとお知り合いというのは本当ですか?!」
そういえば、この主は口を開けば『鶴丸』だった。
小狐丸は頷く。
「ええ。京に在った頃は、私に限らず三日月や石切丸もよく会っておりました」
「ガッデム!!!」
何で教えてくれなかったんですか! と喚いた審神者に、小狐丸はきょとんとして。
「訊かれませんでしたので」
審神者は崩れ落ちた。
「灯台下暗しとはこのことか…!」
伊達と織田はサーチしてたのに、と orz となっている審神者の背を、加州は必死に撫でて宥めた。
「主、今からでも間に合うから元気だして!」
「うん…うん、さにわがんばるよ…」
目線が遠くなったのは仕方がない。





そんなこんながあって、この本丸にも念願の鶴丸国永が顕現した。
三日月宗近から遅れて三ヶ月、その瞬間は加州と思わず抱き合って喜んでしまった。
「うわあああ! やったよ加州くん、ついに鶴丸さんが来たよ…っ!!」
「うんうん、良かったねえ主! 真っ白で本っ当に美刃(びじん)だよね!!」
彼らがあんまりにも喜んで騒ぐので、さすがの鶴丸も驚きを通り越してそれが収まるのを待つしかなかった。
「あー…遅くなってすまなかったな…?」
「いいえ、とんでもない!」
見た目にそぐわぬハスキーボイスは、演練で見掛ける豪快な立ち回りを思わせる。
「声のギャップやばい…イケボ過ぎる…」
「わーっ! 主しっかりして!」
ごめんね鶴丸さんもうちょっとだけ待って! と眉を下げる打刀の少年に、鶴丸はやはり頷くしかなくて。
「…こりゃ驚きだねえ」
大人しく待っていた。

「で、きみがここでの主となる人間かい?」
「は、はい、面目ない…」
「あっはっは。まあ大事がなくて良かった。良い驚きを貰ったしな」
あれこれデジャヴ、と審神者は思った。
加州が自己紹介をする。
「俺、加州清光。この主の最初の刀で一番近侍を勤めてるから、今日は俺が案内するね」
と言いつつ、彼は鶴丸へ近づきまじまじとその顔を見つめた。
鶴丸がきょとりと目を瞬く。
「どうかしたかい?」
「んー、なんかねえ、もう…繊細! って感じの美しさっていうの? 真っ白でほんと綺麗」
歪みのない賛辞に、鶴丸はにかりと笑った。
「ははっ、ありがとよ。きみも中々に可愛らしくて美刃だと思うが」
そうして加州の頭を幼子にするように撫でるもので、加州はうっかり照れた。
「えっ…可愛い? 俺、鶴丸さんから見ても可愛いの?」
頬を染めて食いつく加州は幼さの滲む表情で、その光景に審神者は無言でこんのすけを腕に抱き上げた。
「撮れた?」
「バッチリでございます、審神者様」
このこんのすけ、カメラとビデオの役割が出来るのである。
式神か便利スマホなのか不明だが、便利過ぎた。
そういえば二百年ほど昔のスマートフォン黎明期、そんなCMがあったような。
ちなみに現代、スマートフォンは指輪サイズの本体から液晶画面を呼び出すタイプだ。

閑話休題。

「おーい、大将。悲鳴っつーか黄色い声が聴こえたが、大丈夫か?」
鍛刀を終えたことで鍵の空いた扉を、ガラリと誰かが開けた。
「や、薬研くん薬研くん! 見てよほら、鶴丸さん!! 本物!!!」
「お、おお…大将、落ち着け?」
大きく揺さぶる勢いで肩を掴んできた審神者を、薬研藤四郎は両手を前に出して落ち着かせる。
審神者の向こう側を覗けばはしゃいでいるらしい加州と、彼と談笑する見覚えのある白い御仁。
「ようやくここにも来たかい、鶴の旦那」
声に心当たりがあった。
鶴丸は随分と遠い記憶を掘り起こす。
「きみ、薬研藤四郎か…?」
加州の頭をもうひと撫でして、鶴丸が薬研に近づいてきた。
「その刀は、現存しないと聞いていたが」
「ああ。俺っちのこの本体は、人の記憶に残り続けていたがゆえの存在だ」
存在するが、存在しない。
半分が常世にあるような、このような事態であるから存在出来る者。
「俺っちの他にも、何振りもそういう刀がいるんだ。ここだけの、それこそ現(うつつ)の夢なんだが」
千歳(ちとせ)を身を損なわずあり続けている鶴丸も、黄泉の世界は知っている。
目の前の彼や彼の言う他が、黄泉にいるかは知らないが…。
「それじゃ、益々以てよろしく、と行こうじゃないか」
なあ薬研、と眼差しを細めた鶴丸は、戦刀としての本質を覗かせ不敵に笑う。
頭を撫でられるのを甘受して、薬研もまた同じような笑みを返した。
「ああ。よろしく頼むぜ、鶴の旦那」
にしても、旦那は久々に見ても惚れ惚れする美しさだなあ、と薬研は宣う。
(えっ、さっきまでのシリアスどこ行った? ていうか口説いてる??)
審神者がうっかり胸中でツッコミを入れる程度には、唐突な台詞だった。
「ありがとよ。きみは相変わらず漢気溢れてるな!」
「ははっ、旦那は伊達男にも磨きが掛かったなあ」
審神者の隣へ移動してきていた加州が、軽い応酬を交わす二振りに感嘆の息を吐く。
「美刃で男前とか、惚れる要素しかなくない?」
審神者は全力で頷いた。

「よっ、鶴丸国永だ。突然俺みたいのが来て驚いたか?」

大広間に集まった全刀剣(審神者が鍛刀する時間帯は必ず皆が集まるルールだ)は、現れた新たな刀に三種類の反応を見せた。
これは誰が顕現してもあまり変わらない。
黙って相手を観察する者。
話してみたくてそわそわしたり、傍の者と印象を話し合う者。
そしてその刀剣が知り合いであるがゆえ、名前を呼ぶ者だ。

「鶴丸じゃないか」
「鶴丸様!」
「ようやくきましたね!」
「おぬし、遅かったなあ!」
「鶴丸殿でしたか」
「お前にしては遅かったな」
「あなたでしたか…」
「あれ? 見覚えのある刀だなあ」
「おや、久しいね」

審神者は彼の名を呼ぶ者の多さに目を見開く。
「……知り合いめっちゃいますね??」
「ははっ! 一つ処に留まれんかったからなあ」
無論、呼びはせずとも懇願のように取れる強い視線を向ける刀にも気づいていた。
しかし誰もの前をす、と横切る夜の色。

「鶴」

ふわ、と藍色に白が包まれた。
「そなたと最後に逢うてから二百年。長かったぞ」
目の前を藍色に染められた鶴丸は、ぱちぱちと瞬きしてから自分が抱き締められているのだと察した。
「きょとん顔の鶴丸さん可愛い…」
「こんのすけ、撮った?」
「はい、加州殿」
間近で見られる可愛さプライスレス!
胸中で叫ぶ審神者と、その補佐を立派に勤めている加州とこんのすけである。
「きみ、三日月か?」
言わずとも分かるのだが、つい確認してしまった。
見上げてくる望月の目に、三日月はたっぷりと情愛を込めて微笑む。
その威力は、目撃した誰もが何らかの感嘆符を上げるほどだった。
「うむ。久しいな」
ふぅわり、と。
応えた鶴丸の眼差しが、鳥の羽毛のように柔らかく細められた。

「相変わらず美しいなあ、三日月の兄様(あにさま)」

その破壊力たるや。
閨に持ち込まれているはずの短刀たちがあの今剣や薬研ですら朱くなり、年若い刀たちは一斉に顔を背けた。
(えっ、…別に夫婦刀とかじゃないよね…?)
鶴丸をよく知っているがゆえに、ダメージが大きかったのは大倶利伽羅と一期一振。
彼らはテーブルに突っ伏しており、頭の上に「重症」の文字が見えたような、見えないような。
一方で、普段から涼々としている面々はお茶を片手ににこにことしていた。
「やれやれ。これで三日月の『鶴はまだか』こーるから解放されるね」
「鶴、あまり三日月を甘やかすでないぞ」
石切丸と小狐丸が、呆れを混じえながらも祝福する。
三日月から離れた鶴丸が意外そうな顔をした。
「俺はそんなに遅かったのかい?」
彼の目は近侍である加州へ向き、加州は隣の審神者と一緒に力いっぱい頷いた。
「同じレシピで三日月さんの方が早かったもん」
「そうですよ!」
たぶん私の物欲センサーのせいですけど…、という審神者の呟きは、鶴丸には聴こえなかったようだ。
「物欲センサーって、欲しい欲しいって思ってると来ないんだっけ?」
「そう、それ」
長かった…、とまた審神者の目線が遠くなった。
しかしようやく念願の鶴丸国永が顕現したことで、審神者の目標のひとつが前進するのだ。
(これで鶴丸さんを愛でられる!)





鶴丸はリアクションが良い。
これはどこの本丸でも同様だろうが、何をするにしても驚いてくれるし、的確な意見を述べてくれる。
ゆえに、彼は特に調理当番の刀たちに重用されていた。
「ほんっと、美味しそうに食べてくれるんだよね…!」
伽羅ちゃんは美味いか不味いしか言ってくれないんだよ! とは燭台切光忠の言。
「味付けについてだけでなく、盛り付けや器にも意見を述べてくれたりするからね。武骨者が多い中で、彼は中々に雅だよ」
悪戯や驚きを差し引いてもね、とはあの歌仙兼定の太鼓判だ。
「この間お菓子をお裾分けしたんですけど、そしたら遠征で美味しいお饅頭を差し入れてくれたんです」
結構細やかな方ですよね、と笑ったのは堀川国広。
他にも料理好きとなった刀剣は何振りかいるが、彼らは総じて試作品を作ると鶴丸の処へ持っていくのである。
彼が食が太いわけではなく、太刀の中でも細身であることも母性的なアレが騒ぐのかもしれない。
いや、父性か。
…とか思っている間に。
「こんのすけ、スタンバイ」
「イェッサー!」
縁側で休憩中の審神者が隣のこんのすけへ告げれば、彼も慣れたもので即時に録画撮影モードへ移行し、対象へそのつぶらな目を向けた。
「鶴丸さーん!」
審神者とこんのすけの視線の先は廊下の角。
涼むついでにシーツを干す大和守安定を手伝ってやっている鶴丸だ。
そこへ建物に隠れる角から現れたのは、白いジャージの物吉貞宗だった。
「お、物吉。どうした?」
「はい! さっき陸奥守さんと新しい料理に挑戦してみたんです」
ほら! と鶴丸へ差し出されたのは、フライドポテトとオニオンリングの山。
審神者にはすぐに分かったが、おそらく鶴丸は初見だろう。
現に、初めて見るものに彼の目が輝いている。
「ほう。天麩羅かと思ったが、この輪っかはトンチキだな…」
「へへっ、何だと思います? 食べてみてください!」
「それじゃあ頂くか」
物吉がケーキで使う小さなフォークを手渡す。
丸い方を頬張った鶴丸は目を丸くした。
「こりゃ驚いた、玉ねぎか!」
「正解です!」
オニオンリングって言うそうですよ! と笑う物吉と、それを楽しげに聞く鶴丸。
「…ハッピーサプライズ組尊い……」
審神者の呟きの意味を、こんのすけはちゃんと知っている。
フライドポテトとオニオンリングはその後、大和守と審神者、おつかいから戻ってきた加州にもお裾分けされた。
もちろん、美味しくいただきました。

(そういえば…)
こんのすけも交えフライドポテトをもぐもぐしながら、審神者は思い出す。
「鶴丸さんが来てから、意外な一面な刀(ひと)結構居るなあ」
隣でオニオンリングをもぐもぐしていた加州が、呑み込んでから相槌を打った。
「例えば?」
「倶利伽羅くん」
「あー…」
だよねえ、と加州と審神者は二人でうんうんと頷く。
「やっぱ身内ってことなんじゃない?」
「二百年って言ってたもんね。倶利伽羅くん、燭台切さんとも結構初めから馴れ合ってたし」
こういうの何て言うんだっけ、と審神者は脳内を検索した。
「あ、『人見知り』だ」
「…っwww」
加州は頬張ったフライドポテトを噴き出すところだった。
すんでのところで行儀が悪いことを堪えた代わりに、草を生やす。
「あとは宗三さんかなあ」
織田の傾国、なんて巷では呼ばれていたりするが、この本丸の宗三左文字は程よく毒舌で程よく世話焼きだ。
巷ではオール塩対応もあるそうだが。
「宗三? どの辺が?」
審神者はフォークを持った手の人差し指を立てた。
「たま〜に見掛けるんだ、宗三さんと鶴丸さんがお茶してるの」
「え? …え?! 宗三と鶴丸さんが?!」
二人でお茶飲んでるの?! と加州は叫ぶように問い返してしまった。
織田信長の時代に顔見知りだったとは聞いたが、この本丸内で親しそうにしているのは見たことがないのだ。
「うん。たぶん、私はほんと運良く見掛けただけだと思う。江雪さんと小夜くん以外は知らないんじゃないかな…」
「へえぇ…」
それは意外だ。
鶯丸が鶴丸とお茶しているのは見掛けるが、それと同じように宗三と鶴丸がお茶をしているとは。
審神者は続ける。
「そうそう、一期さんも意外だった」
鶴丸に弟のように可愛がられているのは、打たれた年代を思えば不思議ではない。
「でもさ、一期さんが驚いてるのよく見掛けるじゃない?」
「主に鶴丸さん関連で?」
「そうそう。倶利伽羅くんも似たようなものだけど、世話焼きなのもびっくりしたよ」
「確かに…」
ただ、あれは相手が限定されているように思える。
(一期さん、三日月さんには世話焼かないもんね)
他の者が先に世話を焼くせいかもしれないが。
加州があ、と言いかけた。
「そういえば鶯丸さんが、『世話焼きに磨きが掛かったな』って一期さんに言ってたよ」
ということは。
「もしかして、御物組の中ではあれが普通…?」
「かも」
加州が返した途端、審神者はすっくと立ち上がった。
驚くほど機敏な動作であった。
「よし、証人を捜す! ホシは道場にいる!!」
犯人ではないのだが。
平野藤四郎のことだと察した加州は、最後のフライドポテトに手を伸ばす。
「ちょっと行ってくるね!」
「はーい。主、転けないようにね」
縁側に備え付けの草履を履き、審神者は道場目指して駆け出して行った。
見送った加州の後ろから、くすくすと笑い声が聴こえる。

「元気だなあ」

話題の当刀、鶴丸だった。
加州は呆れたように肩を竦めて笑い返す。
「もー、元気も元気。鶴丸さん来てから、絶好調というかメンタルが鋼になったカンジ」
「心臓に毛が生えているより強そうだな」
そりゃ驚きだ、と笑った鶴丸は彼の隣に腰を下ろす。
「畑仕事はどう? もう慣れた?」
今日の彼は伊達の面々と一緒に畑当番だったはずだ。
鶴丸は苦笑する。
「刀が畑仕事とは、未だに驚きばっかりだぜ。先週に来派の奴らが種を蒔いた一角、もう芽が出てきたぞ」
「そっか、最近天気良いもんね。大雨が降らなければ根っこも定着しそう」
そこで加州は気づいた。
(伊達の面子と畑仕事ってことは…土いじりはしてなさそう)
鶴丸の白い指先や白い内番服が汚れることに、一番抵抗感があるらしいのが伊達の彼らだった。
ちょっとしたこだわりというか、加州もその気持は分かるので少し注意するだけだ。
馬当番も、鶴丸が伊達組として固まると同じ結果になる。
「あ、そうだ。鶴丸さん、端末は使えそう?」
端末というのは、審神者から各部屋ごとに支給される電子機器のことだ。
料理好きの者たちはレシピを検索し、戦に熱心なものは様々な戦術を調べて学ぶのに使用している。
使用者によって千差万別の使い方をされているそれは、非常に便利な現世の代物だった。
「おお、あれか。便利に使わせてもらってるぞ」
加州はファッションや化粧品のチェック、流行り廃りを追うのに使用しているが、鶴丸はどのように使っているのだろうか。
尋ねてみると、まあいろいろだ、と返ってくる。
「そうだなあ。この間は短刀たちと折り紙をしていたんだが、難しい折り方を教えてくれる動画を見たな」
「そっか、文章で書かれるより解りやすいもんね」
他にもあんなのが、こんなのが、と一緒になって話していたのだが、鶴丸がふと言い出した。

「そういや主の書き込みを見たんだが、主には俺はあんな風に見えてるのかい?」

天使やら可愛いやら、そういうのは短刀か女人に言うべき言葉だと思うんだが。
と苦笑する鶴丸に、加州は思考が停止した。
「………え?」
残念ながら、思い当たる節があった。
(書き込み? 書き込みってまさか…)
まさか。
「あの、鶴丸さん。つかぬことを伺いますが、書き込みのタイトル思い出せる…?」
「墨カッコ鶴丸国永墨カッコ閉じ、うちの鶴丸さんが一番!、墨カッコ尊い墨カッコ閉じだったぞ」
「アーーーッ!!!」

ーーー【鶴丸国永】うちの鶴丸さんが一番!【尊い】

叫んでしまったのはもう、不可抗力だ。
どう考えてもアレだ、偶に加州が代理で書き込んだりしている、ひたすらに語っていくあの『掲示板』だ。
いや、しかし。
(普通にネット検索してもそんなの出てこないよ?!)
やってみた自分が言うのだから、間違いない。
「え、えと、検索したら出てきたの…?」
「いやいや。信濃がな、面白ものがあるって教えてくれたんだ」
(信濃ーーーー!!)
お前何やってくれてんの!!! と加州は内心で叫ぶしかなかった。
確かに彼…信濃藤四郎は、この本丸内で一二を争う電子機器マスターでもあるが。
(ヤバいヤバいヤバい、これ主が知ったら恥ずか死んじゃって部屋に籠城するやつ!)
見るからに慌てている加州に、鶴丸は首を傾げた。
「もしかして、俺は見ない方が良かったか?」
(そりゃ萌え語りの対象者に見られたら恥ずか死ぬって!)
と言い掛けたものの、すでに見てしまっている鶴丸に言っても意味はない。
「え、ええと、出来れば主には見たこと黙っておいてくれる…?」
本人は誰にも知られてないと思っているから、と続けると、そういうことならと彼は頷いてくれた。
ありがたい。
(…あれ?)
そこで加州ははた、と気づく。
「鶴丸さん、その書き込みって全部見た…?」
「一番新しいのと、その中にりんく?が貼ってあった3本程を見たな」
再びまさか、と危惧した加州に対し、鶴丸は少し照れ笑いになった。

「きみにまでああも褒められてしまうと、何というか気恥ずかしいな」

(@^$G$ふじこ#*%ー!!!)
加州は両手で顔を覆った。
偶に、加州も書き込んでいるのだ。
写真を確認していて手を離せない審神者の代わりに、当該エピソードを書き込んでいたりするのだ。
つまり、鶴丸についての自身の主観や意見も書き込んでいるのだ。

もはや、恥ずかしすぎて言葉もない。
「…お願い、鶴丸さんの心に秘めておいて……」
「お、おう」
顔を上げられない加州に返す鶴丸の声は、困惑に満ちている。
彼が悪いわけではないので、申し訳ない。
(どうしよう…)
加州は顔の熱が引くのを待ちながら、考える。
つい先刻、鶴丸に口止めしたばかりだが。

(あんまりにも阿呆すぎて、バレたって板に暴露したい)

そして加州は、ちょっと可愛いポーズで謝れば審神者が許すことを知っている。



End.

あるじ、ごめんね?
(小首を傾げて上目遣いに手を合わせてくる加州くんを想像してください)


鶴丸さんを可愛がりたい!

(タイトルがすべて)



17.11.10

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