政府直轄本霊直属独立部隊《鏡》

<とある日の彼らの小話>




新たに開いた合戦場は阿弥陀ヶ峰。
ようようと引き上げてきた《鏡》分霊部隊のうち、宗三左文字がふと足を止めた。
「宗三くん、どうかしたかな?」
気づいた山姥切長義(以下、長義)に、宗三はふるりと首を横へ振る。
「いえ、久しぶりに『僕』が折れたようなので」
感覚が久々すぎて驚きました、と言う彼に長義も思い返してみた。
確かに最近は、折れた刀剣男士の魂が来る頻度は下がっていたかもしれない。
「極めていない僕を編成したんでしょうかね」
「極めると耐久度が上がるんだっけ」
「ええ。ただ、機動は極めていない方が速いようですよ」
「それ、何度聞いても腑に落ちないなあ」
隊長を務めていた和泉守兼定が解散を告げ、各々が戦装束を解くために自室棟へ向かう。
すると一室から浦島虎徹が顔を出した。
「おかえり〜! ねえねえ山姥切さん、今日の夜食作るのって山姥切さんと日向さんだよね? リクエストって出来る?」
「おにぎりの具なら聞いておくよ」
「やった! じゃあねえ…」
自分も頼んでおこうか、と浦島のリクエストが終わるのを待っていた宗三は、自室棟に繋がる向こうの廊下から誰かが駆けてくるのを目に留める。
「山姥切! 山姥切!!」
猛スピードである。
それが誰かを即座に判別した宗三と浦島は、迅速に長義から1歩離れた。

「山姥切っ!」

どしん! と勢いを殺さず飛びつかれたのは長義で、咄嗟の受け身を取っているのはさすがだが、相手もろとも後ろへ尻餅をついた。
こんなことを実行する相手は、確認せずとも一振りしか居ない。
目を開ければ、予想に違うことなく布を被ったその刀。
「…お前ね、国広の。傷を負わずに帰ってきたのにお前のせいで軽傷になるの、勘弁してくれないかな」
「っ、うっ、すまない本歌…手伝い札は差し入れる」
「そうじゃなくてね…」
「あんたのっ、あんたの同位体が、また一振り戻ってきたんだ!」
また俺が初期刀の本丸だった、と涙声で語る山姥切国広(以下、国広)に、長義のみならず宗三と浦島も疑問を覚える。
「折れてない…ってことは、政府に帰ってきたってことだよね」
「おかしいのでは? 聚楽第の接続はもう何ヶ月も前ですよ?」
同じ疑問を感じていたので、長義は国広を見返す。
「み、三日月が話を訊いていて、又聞きだが…。ずっと、寝ていたと」
それは随分と…、と零した長義の言葉の先を、宗三が繋いだ。
「相当に図太い個体だったんですね、その山姥切長義」
人型で閉じ込められていたのか、あるいは顕現を再度解かれたのか。
まあ、大方。
「次に目が覚めても同じ状況なら帰ろう、とでも思っていたんじゃないかな」
「…一定期間で強制送還する緊急装置にすべきでしたねえ」
そうだね、と返した長義の言葉は、呆れに塗れている。
「それで? お前は何を泣いているのかな」
どこかの刀剣男士山姥切長義が政府に戻ってきた、という話は終わったのに、国広はまだ長義に縋り付いて泣いている。
「っ、う〜…」
「国広の」
「うっ…そこ、そこの本丸の俺が、極だったんだ…!」
あー、と宗三と浦島は天井を仰いだし、長義は今度こそ溜め息を吐いた。
山姥切長義の本丸配属によって発覚した人間の諸々に続いて、《鏡》でもっとも話題に上る話だった。
「極の刀は本霊とは別物になってしまっているのだから、理解出来ないのは当然だと言っているだろう?」
「そ、それでも! 本歌が、本歌への対応がおかしいと気づいていたはずだ! なのに通報も何もしない、なんて、アレが俺の同位体だったなんて思いたくもない!!!」
長義の極はまだ検証も始まっていない。
彼に限らず日向正宗や南泉一文字等、本丸実装から2年以上経っていない者たちは極という存在が無い。
なので極が実装されている者たちの苦悩は、想像の域を出なかった。
「…仕方がないね。手入れ部屋で聞いてあげよう」
ぽんぽん、と長義が布を被った頭を撫でると、ようやく国広も顔を上げた。
そのまま長義に手を貸し、共に立ち上がる。
「ごめんね、宗三くん。おにぎりのリクエストはメッセージでお願いできるかな」
「ええ。分かりました」
宗三と浦島は国広に手を引かれて去る長義を見送った。
「…いつも思うんですけど。山姥切、あれ避けれますよね」
浦島が苦笑する。
「俺、前に訊いたんだけどさ。『俺が避けたら国広のが軽傷になるだろう?』って不思議そうに言われたよ…」
「…まったく、そういうところですよねえ」
やれやれ、と肩を竦めた2振りは、時間も良いので食堂まで出向くことにした。

「あ、そういえば2週間前の呪い人形の件、犯人の尋問始まったよ」
「早かったですね。うちからは誰が入ってるんです?」
「大和守さんと一期さんだってさ」
「一期一振の尋問ってえげつないんですけど、相手、正気保てるんでしょうか…」
「えっ、宗三さんがそれ言っちゃう?」



End.
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(次ページはこの小話に出た刀の簡易設定)


2019.2.17
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