喰らう神殺し

<解説>






□本作長義…以下五十八字略(本霊山姥切)
山姥、つまりは豊穣の神を斬り、その呪いが人の子へ向かわぬよう引き受けた結果、自然物から上手く自身の糧となる神気を取り込むことが出来なくなった。出来ないわけじゃないけど効率が悪い。
昔は妖怪や幽霊、亡霊引っくるめた『化け物』を斬って喰らって神気を補っていた(文字通り食事)が、段々と世の中が明るくなり妖怪や幽霊が存在しにくくなって彼らの数が減り、結果としていつも腹ペコリーヌな状態に。「なんかお腹減ったなー」がデフォルト。それがさらに近代になってさすがにお腹減りすぎて不調(存在が危うくなるとかではなく、前はもっと颯爽と動けたなーみたいな)が出てきて、写したちが「本歌様が腹ペコ?!」って察して「じゃあ私を食べて!」とやって来てしまった。「ええ、確かに美味しいだろうし向こう百年は満腹になるだろうけど…」丁重にお断りした。
本歌のために打たれた写しは、本歌の存在維持にもっとも適した存在。本歌のための存在だから。食べてもらいたいのが写しの本能で、腹ペコだと写しを喰らいたいのが本歌の本能。でも食べちゃったらこうして話している付喪は長義の腹に収まって消えてしまう。それは淋しいので、写しを喰らうのは本当の最終手段。だから自分に近づけさせない。本能を理性で繋ぎ留められる程度には心が強い。ちなみに刀工の最高傑作でもある国広の写しは、喰らえば向こう200年くらい満腹になりそう。
集中力が切れそうなレベルでペコリーヌになったときは、南泉一文字に神気を分けてもらっている。え? ちょっと接吻して流し込んでもらうだけだよ。

□山姥切国広(本霊)
他の写したち同様に本歌の腹ペコ具合を察して、自分が最高傑作であることも自負しているので「俺は絶対に美味いぞ!」と本歌に会いに行った。でも「お前たち喰うのは最終手段だから! 俺に! 近づくな! 食べたくなるだろ!」って拒否された。悲しみ。本歌に喰われる(物理)なら本望なのに…。
それはそうと南泉一文字、お前何やってる? は? 本歌の腹ペコ緩和? 接吻が??? ふざっけんなそれは俺(写し)の役目だぶった斬ってやる!!!
今日も元気に徳美保管庫で南泉と斬り合ってる。刀工堀川保管庫の兄弟たちは「本歌さん大変そうだなあ…」「元気が良いのである!」とにこにこ。そのうち菓子折り持って挨拶に行くよ。

□南泉一文字(本霊)
例によって巻き込まれたけど、自分から巻き込まれに行きましたよね? とは鯰尾の談。
500年の腐れ縁ゆえに、特に長義に対する面倒見が良い。尾張徳川の段階で、彼の呪いに依る空腹を看破していた。こっちも呪い持ちだからね。
同じ場所にあり続けて200年くらい経った頃、同じ場所にあり続けたせいで互いの神気が似通ってしまったことに気づいちゃったのが運の尽き。「性格悪いけど見目は綺麗だしな…」って自分を納得させちゃって、接吻ならまあ減るもんでもなし、こいつが呪いに負ける方が大問題だと応急処置を施してしまった。自分で泥沼に足を突っ込んだよ。もう最後まで面倒見るしかないかもしれない。
今日も元気に殴り込みかけてくる国広の写しと斬り合ってる。「まさか俺の本歌とまぐわってなどいないだろうな?!」って訊かれて「まだそこまではしてねえ! にゃ! …あっ」って口を滑らせちゃったのを、家政婦(違)鯰尾と物吉が見ていた。

□山姥切長義(刀剣男士)
本霊がああなので、こちらももちろん腹ペコリーヌ。時折「お腹へったな…」が口癖の者も現れる。
お腹ならいつも空いてるよと打ち明けられた政府職員たちの心痛はいかに。なぜこうなった! と職員総出で大事な同僚たちについて調べたら、まさかの山姥の呪い。「ねえ遡行軍食べて(物理)みても良い?」と尋ねられた政府職員たちの心痛はいかに。絶対不味そうお腹壊しそうやめて! って説得したけど駄目だった。「妖怪や幽霊の方が美味しいけど、不味くはないね」という結論を出されてしまい、徳美保管庫最優先で政府に顕現ー! と大号令が出された。人間には荷が重すぎました、本当に申し訳ない。なので政府には徳美刀剣が最初から全振り揃っていた。なお、源氏兄弟も妖斬り先達として早くに政府に顕現されたので、彼らと仲良し。
刀剣男士に三大欲求が備わってしまっているのは周知の事実だが、このうち性欲が食欲に駆逐されてしまっているのがこの刀。個体差関係なく例外もない。相性が良ければ本霊のように、直接的ないわゆる霊力供給が可能らしい。しかしこの子、勃つしまぐわいも気持ちいいけど、それよりお腹へったって言っちゃう。そういうこと言われてもめげない強い心があれば長義と恋仲のようになるのは難しくない。が、如何せん長義自身、相手に対する欲求が食欲なのか恋情なのか判別出来そうにないので前途多難。焦られても急かされてもどうにもならない。
ちなみに、彼が遡行軍を食べだしたおかげで遡行軍の研究が進んだという、頭の痛い成果が出ているのが実情。ついでに注釈だが、おばけも遡行軍ももぐもぐしちゃう刀剣は他にも居る。

□山姥切国広(刀剣男士)
長義が『偽物くん』と呼ぶことで写しと本歌の本能を抑え込んだため、「本歌に食べてもらいたい」という本霊同等の意思は奥の方に眠らされている。基本的には。それを審神者が本歌を否定したり冷遇したりすることでぶっ壊せば、もちろん本能全開。逆のパターン(本歌を優遇して写しを蔑ろにする)だと本歌が先に本能全開になる。本能が勝ると本霊が為し得ていない『本歌に喰われて本歌の力になって本歌とひとつになる』という夢(?)を叶えるために、結構何でもやってしまう。国広がこうなってしまうと長義も本能に引き摺られてしまうため、事が起きると100%、長義だけがそこに立っているという結果になる。国広が極めていようがいまいが関係なく、この図式は成り立ってしまう。なお、物理的にばりむしゃぁされるわけではなく、刀解と同様に花弁を模した霊力の塊となって本歌に取り込まれる仕様。光景は驚くほど美しいという噂。
政府へ赴くと、たまに国広の同位体を喰らった本歌を見掛けることがある。何というか、肌艶が良いというか絶好調な感じがするというか、見れば分かる。そんな本歌を見掛けると、喰われた同位体が羨ましくて仕方がない。「俺も本歌に喰われたい…」と無意識に呟くので、彼を政府への供に選んでしまった審神者はドン引きする。さらに「どういう意味?」なんて聞こうものなら、よくぞ訊いてくれた! とばかりにいつもの口下手はどうしたレベルで本歌はいつも腹が減っていて云々と延々と語られる。ドン引きどころじゃない。その審神者のところに本歌が居れば、本人から詳細をきちんと聴くことが出来る。居なければ詳細の把握に努める必要がある。怠れば地獄を見るのは審神者です。



これだけ書いても書ききれていない設定の多さよ…。


2019.2.28
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