巨大なタケノコの天辺にしがみつくゼンジロウを助けるには、タイキたちでは力が足りない。
デジクロスを用いても、空を飛べない。
それでもタイキは、キリハという少年の言葉に頷くことはできなかった。

「お前は、普通に人助けするヤツには見えない」

直感を述べれば、キリハはどうということもなく笑った。
「よく分かってるじゃないか」
出された条件は、部下になること。
このデジタルワールドの事情はさっぱり掴めていないが、タイキは頷く理由を持たない。
(嫌なヤツだ)
これ以上、会話をする気にもなれなかった。
改めてタケノコに上ろうとキリハに背を向けたタイキは、あっ、というアカリの声にまたも振り返る。
「どうしたんだよ?」
「タイキ、あれ!別の人が居るよ!」
「え?」
アカリが指差したのは、キリハの隣。
薄紫の服とニット帽を被った金髪の少女が、苦笑を浮かべてこちらを見ていた。
タイキたちより、2つ3つ年上だろうか?
金髪の少女は腰に手を当て、キリハへはっきりと言った。

「あんた、ほんっと嫌みなヤツね。絶対友達いないでしょ」

そのままズバリ、タイキたちにもよく聞こえるくらいにはっきりと。
キリハは少女を睨みつけたが、少女の方は応えた様子も無い。
ばかりか、タイキたちからタケノコの上のゼンジロウへ視線を向け、にっこりと笑う。
「人助けっていうのは、善意で行うものよ」
少女は、キリハやタイキとは違う形のデジモンクロスローダーを正面に掲げた。
それがデジヴァイスと呼ばれるものであることを、タイキたちが知る由も無い。

「スピリット・エボリューション!」

宣言と共に少女の左手にデジコードが現れ、彼女はそれをデジヴァイスにスキャンする。
次の瞬間、タイキたちもシャウトモンたちも、目を見張った。
ほんの僅か数秒、デジコードに少女が包まれたかと思うと、そこには…

「「で、デジモン?!」」

蝶の羽を持ち、長い紫の髪を遊ばせた、美しい女性デジモンが居た。
金髪の少女の姿は無い。
彼女はふわりと舞い上がり、崖からタケノコへと飛ぶ。
そうしてタケノコの天辺にしがみついていたゼンジロウを抱きかかえると、軽い動作でふわり、とタイキたちの傍へ降り立った。

「大丈夫?」
「ええっ、あっ、はい?!  ありがとうございました…っ!」

ゼンジロウは思わず背筋を伸ばしてしまう。
…が、このデジモンは誰だろう?
彼へ駆け寄ったタイキとアカリも、女性デジモンを戸惑いながら見上げた。
「あの、あなたは…?」
彼女は長い髪を掬って横へ流し、軽く肩を竦めた。

「私? 私はフェアリモン。…の"スピリット"を纏った、織本泉っていう女の子よ」

スピリットという単語も気になったが。
「「さっきの女の子?!」」
そちらの方が驚きだ。
人間がデジモンになるだなんて、どういうことだろう?
フェアリモンはタイキたちの戸惑いを敢えて無視し、尋ねる。

「ねえ、あなたたち。私みたいにデジモンに変身する子に会わなかった?」

揃って首を横に振る。
その反応は予想していたのか、彼女は残念そうに首を傾げた。
「…そっか」
バサリ、と上空で大きな羽音がした。

「フェアリモン。置いてゆくぞ」

メイルバードラモンがフェアリモンへ声を掛ける。
すでにキリハはこちらに背を向け、歩き始めていた。
「OK。すぐ行くわ」
ふわりと舞い上がりかけた彼女が、タイキたちを見下ろし声を上げる。

「ねえ、あなたたち!  もしデジモンに変身する子に会ったら、伝えてくれる?
"『白い森』で会いましょう"って!」

何のことやら分からないが、タイキは大きく頷いた。
「はい、分かりました!  絶対に伝えます!」
アカリとゼンジロウも、彼女へ大きく手を振る。
「ありがとう、フェアリモン!  …あれ? 泉さん、かな?」
「ありがとうございましたーっ!!」
崖の上へ舞い戻ったフェアリモンがデジコードの光に包まれ、少女の姿に戻る。
少女はそこで足を止めて振り返ると、改めてタイキたちへ手を振った。
「気をつけてね!」


彼女はなぜ、あのキリハという少年と共に居るのだろう?
タイキはふと、そんなことを思った。

Crossed  Enigma



end. (2010.7.21)


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