深い森はしん、と静まり返り、敵意も感じない。
輝二と輝一は人間の姿へ戻るが、揃って足元がぐらついた。
「ははっ、さすがにキツいね。輝二、大丈夫?」
「少し休めば、な」
苦笑する彼らに、ドルルモンとキュートモンは首を傾げる。
「きゅ?  大丈夫っきゅ?」
心配そうにこちらを見上げるキュートモンに、輝一は大丈夫だと笑みを返す。
「大丈夫。デジモンに…特にビースト型に進化するのって、かなり体力が要るんだ」
「5年も無関係に過ごしていたしな」
輝二の言葉が腑に落ちず、ドルルモンは尋ねた。
「お前たちは、以前にもデジタルワールド(以下DW)へ来たことがあるのか?」
2人の返答には、やや間が開いた。
「うん。あるんだけど…」
「もしかしたら、このDWではないかもしれない」
輝一の言葉を輝二が続ける。
彼らの置かれた立場はタイキたちとは似て非なるものだと、ドルルモンは結論付けた。
それよりも。

「お前たち、なぜデジモンになれるんだ?」

特に差し迫った危険は無く、小休憩を兼ねてドルルモンは腰を落ち着ける。
輝二と輝一も手近な樹に背を預け、座り込む。
キュートモンはドルルモンの背からぴょんと飛び降りると、僅かに迷ってから輝二へ飛びついた。
輝二は少し驚いた様子を見せたものの、慣れた手つきでキュートモンを撫でる。
「なんか、懐かしいな」
言葉の先は無く、しかし双子の片割れは微笑んだ。

輝一はドルルモンに見えるように、黒いデジヴァイスを差し出して見せた。
数度のボタン操作で、デジモンのホログラムが画面から浮かび上がる。
「俺たちが進化…この表現が合ってるかは分からないけど。
とにかくデジモンになれるのは、伝説の十闘士の"スピリット"を纏うからだ」
「スピリット?」
「そう。意志を持った鎧というか、なんというか。
5年前はそうだったけど、今は俺たちに力を貸してくれている感じだね」
輝一のデジヴァイスから映し出されているのは、先ほど彼が変身したカイザーレオモン。
同じく輝二も、ガルムモンのデータを表示させた。
「俺たちの他に、4人居た。あの時の仲間は、みんなここに来ている」
予期せぬ事態が起きて、バラバラになってしまったけれど。
輝二はデジヴァイスを見つめ、ぽつりと声を落とす。

「あれはたぶん、本当にルーチェモンの声だった」

勢いよくドルルモンが顔を上げた。
「おい、今『ルーチェモン』と言ったか?」
「ああ。それが?」
キュートモンも輝二を見上げていた。
「ルーチェモン?  ルーチェモンって、あのルーチェモン?」
あのルーチェモンって、どのルーチェモンだろうか。
明後日なことが思い浮かぶが、敢えて口には出さない。
「知ってるのか?」
キュートモンを見下ろせば、彼はドルルモンを見つめていた。
そのドルルモンは、考え込むように視線を泳がせている。

「…かつて、ヒューマンデジモンとビーストデジモンは、互いを憎み合っていた。
それを和解させ世界に平和を齎(もたら)したのは、ルーチェモンという名の天使デジモンだった。
だがやがてルーチェモンは暴走し、世界は闇に墜ちその支配下となった」

沈黙を挟んでドルルモンが口ずさんだのは、デジモンならば誰もが知っている古代の歴史。
目を見開く輝二と輝一をキュートモンは交互に見比べ、ことりと首を傾げた。

「ルーチェモンを倒したのは、伝説の十闘士。
彼らは古代より受け継がれてきた、『世界を構成する力』を身に宿していた。
その百年後、本来の心に戻ったルーチェモンは、闘士たちと共に再びDWへ平和を齎した。
…これが、ボクたちみんなが知ってるルーチェモンの伝説っきゅ」

疑いようも無い。
輝一は自身の持つ十闘士のエンブレムをデジヴァイスに表示させ、彼らへと示す。
「君たちの言う十闘士に、こういうマークを持ったデジモンが居なかった?」
あ!  とキュートモンが手を叩いた。
「きゅ!  闇の闘士の印っきゅ!」
続いて輝二も、自身のエンブレムを彼らへ見せる。
「じゃあ、これは?」
そのマークも、ガルムモンの肩部にあったものだ。
なぜ、そのときに思い当たらなかったのだろう。
「…光の闘士」
唸るように告げたドルルモンは、立ち上がる。

「お前たちは、伝説に語られた十闘士なのか?」

輝二と顔を見合わせた輝一が、首を横に振った。
「さすがに、それは分からないな…。同じ名前の、違うデジモンかもしれない。
人間界とDWの時間は違うし、君たちが話してくれた"伝説"の時間軸もあやふやだ。
十闘士の力は、エンシェントデジモンから形を変えて受け継がれていたみたいだし」
でも…、と口籠った彼の言葉の先を、輝二は知っていた。
自身の白いデジヴァイスを見下ろし、数日前に聴いた声を思う。

「…でも。後にも先にも、『ルーチェモン』は1人だけだ」

早く、『彼』を捜さなければ。
だがこのDWで、どこを捜せば良いのか見当もつかない。

押し黙る彼らに何を思ったのか、キュートモンがドルルモンへ声を掛けた。
「ねえドルルモン。コウジたちと一緒に行こうよ!」
え?  と予想外のことに驚いたのは2人だけで、ドルルモンは分かっているとばかりに頷いた。
「そうだな。この2人なら足手纏いになりそうもない。
それに、オレは今の話にも興味が湧いた」
パッと顔を輝かせたキュートモンは、自分を抱き上げてくれている輝二を見上げる。

「ね、一緒に行こう!  ボク、両親を捜してドルルモンと旅をしているの。
もしかしたらその途中で、コウジとコウイチの捜してる人に会えるかもしれないっきゅ!」

突然の提案に戸惑いはするが、それは有り難い。
顔を上げれば、その視線に応えて輝一が軽く頷きを返す。
輝二はキュートモンとドルルモンへ笑みを向けた。

「ありがとう。これからよろしくな」

気高き獣たちの邂逅



end. (2010.9.5)


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