「暑い…」
もはやその台詞しか出て来ない。
「暑いで合ってるのかな。熱いって言うべきなのかもね」
カイザーレオモンが、自分の背に乗る輝二に苦笑する。
隣を歩くドルルモンの背の上では、キュートモンが沈没しかけていた。
「きゅ〜…」
「…仕方が無い。火山地帯だからな」
なぜこの火山エリアへ来たのかというと、ここが未だ誰のエリアでもないためだ。
コードクラウンを手に入れるために、バグラ軍が捕虜を動員しているのは周知の事実。
つまり、そこにキュートモンの家族が居る可能性が高い。
「ん?」
岩山の向こうから、小型のデジモンたちが幾匹も駆けてきた。
彼らはこちらに気づいて立ち止まるが、輝二の姿を見るなり駆け寄ってきて騒ぎ出す。

「人間だ! ねえ、大変なんだ!」
「ボクらを助けてくれた人間が掴まってしまったんだ!」
「オレたちじゃ力になれないんだ! お願い、助けて!!」

輝二はカイザーレオモンから降り、彼らと目線を合わせるためにしゃがみ込む。
「頼む、順番に話してくれ。お前たちは、どこから逃げてきたんだ?」
落ち着きのある声音に、彼らも徐々に落ち着きを取り戻す。
順を追って話し出した。
「向こうの岩山を超えた、バグラ軍の基地だ。そこで働かされていたんだ」
「…分かった。それで、お前たちを助けてくれた人間っていうのは?」
「赤い機械…ええっと、クロスローダーっていうのを持ってた男の子と、」
「女の子と、」
「もう1人男の子だった!」
「他に、シャウトモンとバリスタモンって言ったっけ」
キュートモンがドルルモンから飛び降り、声を上げた。
「きゅっ! それタイキたちっきゅ!」
カイザーレオモンがドルルモンを見遣れば、彼は道の先を見据えている。
その視線は酷く真っ直ぐで、カイザーレオモンである輝一はおや? と内心で首を傾げた。
プレイモンという名の兎のようなデジモンが、再び声を上げる。
「お願い! ボルケーモンが、タクティモンを呼んでいるんだ!」
真っ直ぐであったドルルモンの視線に、鋭い刃が籠った。
「タクティモンだと?」
どうやら、彼の知っているデジモンのようだ。
輝二はカイザーレオモンとドルルモンを振り返った。
「行こう。とにかく、見捨てるわけにはいかない」
「ああ」
カイザーレオモンは輝二が乗ったと見るや、彼らの示した方向へと駆け出す。
キュートモンはドルルモンの背へ戻る前に、プレイモンへ問い掛けた。
「ねえ、ボクの両親を見なかった? バグラ軍の捕虜にされているんだっきゅ」
あ! とプレイモンが何かを思い出す。
「居たよ、居た居た! 息子とはぐれたって言っていたキュートモンが!」
「えっ!」
「でも、あの人たちはもう、別の場所へ連れて行かれてしまったよ…」
「…そうっきゅ」
また、会えなかった。
項垂れるキュートモンを、ドルルモンが即す。
「落ち込むな。これでまた、両親への手掛かりが掴めたってことだろう」
キュートモンの桃色の耳が、彼の言葉でぴょんと立ち上がった。
「うん!」

辿り着いた先の崖下に、鉄格子の檻が1つ。
炎のようなデジモンがその檻を前に並び、彼らの背後に鎧武者のようなデジモンが居る。
その隣には、丸ごと火山のようなデジモンが。
カイザーレオモンから飛び降り、輝二もガルムモンへと進化して崖下を見下ろす。
「あれか」

檻の中、為す術も無いタイキたち。
クロスローダーを奪われた今、抵抗する手段が無い。
怯えるアカリを後ろに庇い、タイキは拳を握り締める。
(どうすれば良い? どうすれば切り抜けられる?!)
「タイキ、下がってろ! オレたちで持ちこたえて見せる!」
シャウトモンとバリスタモンが前へ出る。

メラモンたちが、檻へ向かって一斉に両手を掲げた。
タクティモンは上げた片手を振り下ろす。

「放てぇ!」

炎が1つでも激突すれば、人間はすぐに死ぬだろう。
シャウトモンには、それが分かっていた。
(守ってみせるさ…っ!!)
ありったけの力と思いを込めて、マイクを構えたその時。

『ソーラーレーザー!』
『シュヴァルツドンナー!』

上方から放たれた白と黒の光線が炎に激突し、衝撃と共に霧散した。
舞い上がった土煙に、誰もが顔を庇う。
「おい、君たち! その場へ伏せろ!」
「えっ?!」
突然聞こえた声の主は、檻の傍。
(黒い、ライオン?)

『ウイングブレード、展開!』

慌てて伏せたその頭上を、何かが一閃する。
ややあって、鉄の檻の上半分が斜めにずれ落ちた。
「なっ…」
檻の反対側には、いつの間にか別のデジモンが居た。
白い、狼のような姿の背から横へ、一直線に白い刃が伸びて輝いている。
(あれで切ったのか…?)
「すっげぇ…」
唖然としたシャウトモンの呟きに、タイキは我に返る。
「あ、ありがとう! 君たちは?」
問うたところへ、上から飛び降りてきた影があった。
「説明は後だ。早く逃げろ! お前たちでは、タクティモンに勝てない!」
「ドルルモン?!」
「キュートモン!」
ドルルモンは白と黒の2体のデジモンを見、視線を受けた彼らは頷いた。
「俺たちが食い止めるよ」
「早く行け!」

ふと、遠くから風を切るような音が聞こえた。

Their crossroad.

>> 中編



end. (2010.9.12)


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