「うーん、やっぱりよく分からないなあ。このデジタルワールドは」
出た結論と言えば、それだけだ。
タイキたちも詳細な事情を知るわけではなく、かといってシャウトモンたちの情報がすべてかといえば、違う。
考え込んだ輝一は、ドルルモンへ尋ねた。
「コードクラウンが全部でいくつなのか、分かってたりする?」
ドルルモンは首を横に振った。
「いや。少なくとも、オレは知らない」
だが、と続く。
「あのタクティモンを含めた幹部連中は、知っているだろう」
「…なるほどね」
ふと顔を上げると、輝二の姿がない。
「輝二?」
「俺はこっちだ」
温泉が湧き出ている場所からは、見えない位置へ移動したらしい。
見に行ってみると、彼は先ほどの戦闘跡に居た。
「どうかした?」
問いつつ、行動を見ていればおのずと予想がついた。
「輝二さん?」
タイキたちも彼らの遣り取りが気になり、輝一の傍までやってくる。
輝二は自身が破壊した鉄檻の、鉄格子を掴んだ。
真っ二つに切断された格子は固定部分も壊れたのか、簡単に取り外せた。
「…よし」
思っていたほど重くなく、長さも丁度いい。
何だろうかと見ていたタイキは、次の瞬間思わず声を上げた。
「すごい…!」
何も無い場所へと移動した輝二が始めたのは、武道の稽古。
あれはおそらく、棒術と言うのだろう。
手にした長物を巧みに操り、いくつかの流れに分かれた型がなぞられていく。
「うわあ、かっこいい…!」
「へええ! あいつ、ホントに強そうだなぁ!」
部活で応援する状態になっているアカリだけでなく、シャウトモンたちも彼の姿に見入る。
すると何を思ったのかゼンジロウが飛び出し、輝二へと駆け寄った。
「輝二さん! 稽古の相手、して頂けませんか?!」
「えっ?」
動作を止めた輝二が見返せば、ゼンジロウは短くなった鉄格子の1つを抜き取る。
そして輝二との間合いを計り、スッと正眼に構えた。
彼の意図を理解した輝二も笑みを浮かべ、構え直す。
「いいぜ」
粟立つ空気が止まるや否や、ゼンジロウの足が地を蹴った。
「ハアッ!」
竹刀ほど小気味よい音ではなく、鈍い金属音が響き出した。
シャウトモンが感心したように声を上げる。
「ほおおー。ゼンジロウのヤツ、意外と強いんじゃねえか?」
「…良い場面に恵まれないんだヨ、たぶん」
バリスタモンは、本人が聞けば本気で項垂れるであろうことを呟いた。
「輝一さんと輝二さんは、これからどこへ行くんですか?」
稽古模様から視線を外し、タイキは輝一を見る。
彼は苦笑した。
「"白い森"っていうエリアがどこか分からないから、何とも言えないね」
となると、闇雲に探すしか無い。
「さっきの…キリハ君だっけ? 彼に声掛けたら良かったな…」
泉の姿はなかったが、十分な話は聞けただろう。
彼はタクティモンが姿を消すと同時に、ゲートのようなものを通って消えてしまった。
「あれもクロスローダーの機能?」
問われたタイキは頷く。
「はい。"ゾーン移動"って言うんです。ゲートを開いて、別のエリアへのトンネルを潜るというか」
ゾーン移動は、コードクラウンが誰の手にも渡っていないエリアへの転送らしい。
どこのエリアへ飛ぶのか、選ぶことは出来ない。
「ドルルモン、ここから隣のエリアへは遠いか?」
タイキの問いに、ドルルモンは首肯した。
「だいぶ距離があるはずだ。少なくとも、エリアが切り替わる地平線は見えない」
「…確かに」
金属を打ち鳴らす音が止む。
肩で息をしているのはお互い様だが、笑みが浮かんでいるのもまた、同じだった。
「ありがとうございました!」
「いや、こちらこそ」
剣道の礼に、輝二も礼を返す。
「ゼンジロウは強いな。剣撃が正確で重い」
自分の手の感覚を確かめながら、そう素直な感想を告げた。
ゼンジロウの顔がぱっと明るくなる。
「ほんとですか!」
「ああ。もっと実戦を積めば、もっと強くなれる」
しかし彼の表情は陰り、その目は下りてきた岩山を見上げた。
「…けどオレ、ほとんど経験ないはずの工藤タイキに負けたんですよ。前の地区大会で」
決勝戦、後で聞けば助っ人であったという、彼に。
ああ、と輝二は眉尻を下げた。
「居るな、そういうヤツは。何でも普通以上に出来るタイプが」
彼がそうなのか、とゼンジロウの視線の先に居る少年を見る。
タイキという名の彼は、異なる意見の者たちを上手く輪の中へ導いている。
まだ言葉を交わした程度ではあるが、輝二はそんな気がした。
…相手を尊重するということは、生半可な覚悟では出来ない。
コードクラウンを集めると決めた信念もまた、生半可なものではないだろう。
だが、それとこれとは話が違う。
「たとえ彼に負けたのだとしても、それは"敗北"とは限らない」
「え?」
「君はずっと剣道をやってきたんだろ? なら、続けてきた自負と信念がある。
それは、彼が決して持っていないものだ」
何でもこなせる人間は、一方で損だ。
出来てしまうがゆえに、一本筋を通すことがとても難しい。
「勝負に負けるのは悔しい。当たり前だ。
でも、剣道への信念の無いヤツに、剣道を語る資格は無い。俺はそう思う」
輝二の言葉は、ゼンジロウには少々難解なものだ。
(けど、オレもそう言えるようになりたい)
ただその確固たる意思を、強さを、自分も手にしたいと強く感じた。
「ありがとう、ございます。輝二さん」
再度口にした礼は、きっと"目標"に対する敬意だった。
どうしようかと考える輝一に、タイキは提案する。
「次のエリアまで、一緒に行きませんか?」
それを耳にしたシャウトモンが、当事者よりも先に賛成を唱えた。
「それ良い考えじゃねーか! さっすがタイキ!」
デジモンに変身出来る人間なんて、そう出会えるとは思えない。
何より彼らは、強い。
強さを求めるシャウトモンは、もっと2人の話を聞きたかった。
輝一がドルルモンを見ると、彼はキュートモンとすでにどうするか決めていたらしい。
「オレたちは別に構わない」
元より風来坊のようなものなので、成り行き任せとも言えるが。
ちょうど、輝二とゼンジロウも下から戻ってきた。
「タイキ君たちが、次のエリアに行くみたいなんだ。
一緒に連れて行ってくれるみたいなんだけど、輝二はどう?」
念のために確認してみると、思った通り彼は同意を示した。
「別のエリアまですぐに移動出来るなら、その方が有り難い」
ならば決まりだ。
「じゃあタイキ君、しばらくご一緒させてもらうよ」
「はい!」
タイキはクロスローダーを掲げる。
「フィールドゲート、オープン! ゾーン移動!」
Their crossroad.
end. (2010.12.29)
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