遠くで黒煙が上がっている。
「ここはバグラ軍に先を越されそうですねぇ。ネネ様」
所感を述べたモニタモンに、ネネは同意を示した。
「そうね。確かコードクラウンも、今戦闘が起きている辺りにあるみたいだし」
あまりやる気が無かったと問われたなら、yesと答える。
なぜならこのエリアには、ネネにとって魅力的なものが無い。
長居は無用だ。
「!」
しかし戦闘機のような飛行音に、ハッと顔を上げた。
バグラ軍の偵察デジモンが数体、こちらへ猛スピードで向かってくる。
「人間ダ!」
「人間ガ居ルゾ!」
「人間ハ殺セトノゴ命令ダ!」
フィールドゲートを開く暇はない。
ネネは己のクロスローダーを構えた。

「サラマンダーブレイク!」

上空へ放たれた炎が、急速接近していたデジモンを撃ち抜いた。
「えっ?!」
驚き、周囲を見回す。
今のは、少し離れた林の中からのようだ。
「何ダ貴様!」
急旋回で逃れたデジモンが、林へと砲弾を撃ち込む。
難を逃れたもう1体は、なおもネネたちを狙った。
「危ない!」
「きゃっ…!」
突然に誰かに抱き抱えられ吹き付ける風に驚けば、普段の2倍は地面が遠かった。

「ブリッツモン!」
「分かってる! トールハンマーッ!」

やや離れた位置に飛んでいるのが見えた、青いデジモン。
その拳から光が走る。
他にネネの視界に入るのは、朱い鎧と鮮やかな橙の髪。
稲妻を纏った拳に叩き付けられたデジモンは、データの塵と消えた。

近くの岩山の影に下ろされ、ネネはようやく自分をあの場から遠ざけた相手を見ることが出来た。
どうやら、炎系のデジモンのようだ。
「突然ごめんな。大丈夫か?」
「ええ、ありがとう」
礼を言えば安心したのか、相手も笑みを寄越した。
立ち上がり、彼は上空の青いデジモンへ声を投げる。
「チャックモンは?」
「今戻ってきた! あっちだ!」
指差された林を見れば、白い熊のようなデジモンが滑り出てきた。
そのデジモンはこちらを見つけるなり、声を上げる。
「だいぶ凍らせてきたけど、キリが無いよ! はやくここから離れよう!」
どうやら、バグラ軍がこちらへ向かってきているらしい。
ならば、取るべき手段は決まってくる。
ネネは赤いデジモンへ声を掛けた。
「待って。逃げるならこっちへ」
今度こそクロスローダーを構え、唱えた。

「フィールドゲート、オープン!」

突然に開いた、緑の光を放つゲート。
「なんだ? これ…」
初めて目にしたのか、3体のデジモンたちは目を丸くしている。
「この先の安全は、私が保証するわ」
告げれば、赤いデジモンは信じてくれたようだった。
ゲートへ駆け込んだネネに続き、彼らもまたゲートの向こうへと姿を消す。
後には何も残らない。



辿り着いた土地は、さわさわと風が吹き抜ける美しい丘だった。
「うわ、どこだここ?」
「さっきと全然違うところだね」
着くなり周囲を見渡す彼らに、ネネは告げる。
「ここはグラスコート・エリア。私がコードクラウンを手にしているから、バグラ軍は居ないわ」
しかし納得出来ないのか、彼らはそれぞれ顔を見合わせた。
「うーん、やっぱり随分勝手が違うよなあ…」
そのとき、不思議なことが起こった。
3体のデジモンをデジコードが包み込み、姿が変わる。
「えっ?!」
そこに居たのは、人間だった。

赤いデジモンは、赤い服に帽子を被り、ゴーグルを掛けた少年に。
青いデジモンは、作業着に青いジャケットを着た少年に。
白いデジモンは、クロームイエローの帽子を被った少年に。

「デジモンが、人間になった…?」

ネネの足元から、モニタモンが顔を出す。
「これは初めて見ますぞ、ネネ様」
「デジモンが人間に化ける例は、幻覚以外では見ませんなぁ」
所感を述べた彼らに、ゴーグルの少年が苦笑と共に手を横へ振った。
「違う違う。俺たちは人間。訳あってデジモンになれるんだ」
「デジモンに、なれる?」
意味が分からない。
困惑するネネに、ゴーグルの少年は人好きのする笑みを向けた。
彼は自分よりも年上のようだ。
「俺は神原拓也。高校1年生。こっちは…」
拓也と名乗った少年は、隣の帽子の少年を示す。
「氷見友樹! 中学2年生なんだ。よろしくね!」
こちらは自分と年が同じだろう、とネネも考えていた。
友樹と名乗った少年の隣、作業着の少年は拓也よりも年上のようだ。
「オレは柴山純平。高校2年生だ。君は?」
名乗られた手前、名乗らないわけにはいかない。
「私は天野ネネ。中学1年生よ」

とりあえず、聴きたいことはどちらも山積しているだろう。
ネネは場所を変えることを提案した。
「ちょっと歩いたら、村があるの。あなたたちが私たちの敵でないのなら、招待するわ」
「もちろん! 敵ってのは、あの黒いデジモンたちだろ?
こっちは場所を尋ねただけなのに、問答無用で攻撃してきた」
何だったんだ? と首を傾げる拓也に、このデジタルワールドの事情をほとんど知らないのだろうと推測した。
(デジモンになれる人間…。興味深いわ)
何より、彼らは強そうだ。
「いいわ。助けてくれたから、その言葉を信じてあげる」

こっちよ、とネネは歩き出した。

ハロー、DAYBREAK

>> 後編



(2010.12.12)


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