低い電子音が鳴った。
「うわあっ!!」
複数の悲鳴が上がったかと思うと、どさどさと何かの落ちる音が続く。
スタッと涼しい音で降り立った数の方が、少なかった。

「ここは…」

見回せば、森。
すでに10mも先が見えない、暗闇に包まれている。
「やけに、静かだ」
それは誰が発した言葉だったか。
声で判断出来なければ、誰なのかも見えづらい。
「…あれ?」
アカリが首を傾げた。
続けてキュートモンとドルルモンが、同じように疑問符を上げた。
「どういうことだ?」
言われた当人である輝二は、苦笑を返すしか無い。
「どうって言われてもな…」
輝一を除いた面々は、輝二を見て目を丸くしていた。
…この真っ暗な中でも、彼だけははっきりと姿が見える。
まるで、彼自身が光を放っているかのように。
「…それは、"光の闘士"の力か?」
ドルルモンの仮定に、首を傾げることで答える。
「前にも言われたが、分からないな」
とりあえず足を進め始めたタイキたちの後方で、キュートモンとドルルモンが同時に耳を峙(そばだ)てた。
「!」
輝一も同じ方角を見つめ、気づいた輝二が足を止める。
「どうした?」
1人と2体は同じ方角を見つめていたが、揃って口籠る。
「…いや、何でもないよ」
「物音がしたような気がしてな」
「きゅ」
彼らは気のせいだと結論付けたらしい。

先頭を歩くタイキは、周囲の温度が下がっていることに気がついた。
「なんか、寒くないか?」
バリスタモンも樹々を仰ぎ、頷く。
「気温、下がってル」
アカリは腕を摩り、幽霊が出そう、などと呟いた。
「ゴースタイプのデジモンならいるぜ!」
「ええー…やめてよもう…」
シャウトモンの言葉に、本当に出たらどうするのかと返す。

『ーーー!』

ゾッとした。
「な、なに?!」
何かの声が、響いてきた。
続いて重い轟音と、前方を照らし出す閃光。
「何かが戦ってる?!」
そちらへと駆ければ、程なくして森の切れ目に大きな河が見えてくる。
「うわっ!」
キィン! と何者かが上空を通り過ぎ、突風に煽られた。
「あれ、メイルバードラモンじゃないか?!」
始めに顔を上げたゼンジロウが叫び、視線を河に戻せば向こう岸に城が見えた。
河を挟んで、デジモンたちが撃ち合っている。

「あれは…バグラ軍だ!」

河のこちら側に居るデジモンを見上げ、ドルルモンは声を荒げた。
(アイスデビモン…確かアイツは、リリスモンの)
見れば周囲だけでなく、河も凍りついている。
その凍った河を、ゴツモンの集団が渡ろうとしていた。
「あの城に攻め入る気だ!」
タイキはクロスローダーを構える。
「メイルバードラモンは、あの城を守ろうとしてるんだな」
青いドラゴン型デジモンは上空を高速で旋回し、ゴツモン軍を薙ぎ払っていた。
「タイキ、アイスデビモンをやれ! アイツが指示を出している!」
ドルルモンの言葉に頷き、叫んだ。

「デジクロス!」

クロスした光と、赤い剣撃。
それは城からも見て取れた。
「あれは…タイキたちか」
キリハはクロスローダーを通じ、メイルバードラモンへと指示を出す。
「アイスデビモンを追い込め」
程なくして、再び赤い剣撃が走った。
剣撃の先でゴツモン軍も吹っ飛ばされ、散り散りになる。
隣で門前の戦いを見守っていた泉が、肩を竦めた。
「うーん…、ちょっとやり過ぎじゃない?」
「徹底的にやらないと、バグラ軍はまた攻めて来る」
コードクラウンが、誰の手にも渡らない限り。
(そうなんだけど…)
それは尤(もっと)もなのだが、ここまで破壊してしまうと復興も大変だと思うのだ。
「あ…」
朦々と空へ吹き上がっていた煙が、晴れる。
河向こうに見える子供たちを遠目に見つめて、泉は息を呑んだ。
「あれは…輝二と輝一だわ!」
叫ぶなり、彼女はフェアリモンへと進化する。
「おい?」
止める間もなくフェアリモンは飛んでいってしまい、キリハは仕方が無いと首を振った。
メイルバードラモンを呼び寄せ、彼女の後を追いかける。

こちらへ飛んでくるデジモンに気づいたのは、キュートモンだった。
「きゅ! 誰か来るっきゅ!」
彼女の声にハッと空を見上げ、輝二と輝一は目を見開く。
「フェアリモン?!」
「泉!」
地に足を付けるなり、フェアリモンの姿は元の少女の姿へと戻る。
「輝二! 輝一!」
泉は勢いのままに駆け、懐かしい2人へと抱きついた。

「やっと会えた…っ!!」

本当に、泣き出してしまいそうな声だった。
輝二と輝一は、どちらからともなく苦笑を交わす。
「泉も、無事で良かった」
そっと肩に手を置けば、泉はようやく顔を上げる。
彼女の浮かべたあまりにも嬉しそうな笑顔に、思わず2人も微笑んだのだ。

彼らの様子をぽかんと見つめていたタイキたちは、近い飛行音に振り返った。
「キリハ!」
メイルバードラモンから、キリハが飛び降りてくる。
「城の防衛、助勢に感謝する」
タイキは苦笑で答えた。
「礼なんていらないよ。あれ、絶対ワザとだろ?」
アイスデビモンを、わざわざX4の方へ追い込んだのは。
指摘に対し、キリハはフ、と意味ありげに笑っただけだった。
彼の視線はすぐに泉たちへ向けられる。
双子であろう、2人の少年に。
「あの人たちも、デジモンに変身出来るのか」
尋ねられ、タイキは頷いた。
「ああ。物凄く強いぜ」

輝一の視線が、キリハを見つける。
「キリハ君…だよね。ありがとう、泉と一緒に居てくれて」
偽りない感謝を告げられ、戸惑ったのはキリハだった。
「…礼を言われるようなことは」
何もしていない。
困惑した彼の姿に、輝一はそれが誰かに似ているような感覚を覚えた。
「あ、」
河の向こうから、橋が下りてくる。
輝一の声に誰もがそちらを見れば、河に橋が架かり、騎士型のデジモンが走ってきた。
「キリハ殿! バグラ軍はすべて撤退したようです!」
どうやら、城を守護するデジモンのようだ。
「バステモン様がお待ちです。そちらの加勢くださった方々も、どうぞおいで下さい」
もう、夜も深い。
タイキたちはナイトモンと名乗ったデジモンの後を付いて、河向こうの城へと足を踏み入れた。

闘士たちの来訪

>> 中編



(2011.1.8)


ー 閉じる ー