< 第一話・季節外れの転校生 >
「ほら、つらら早く!遅刻するよ!」
「ちょっ、若!早いです…!」

「あ、リクオ君に及川さん!おはよう!」
「おはよう、カナちゃん」
「おはよう」

「あ、花開院さんおはよう!今日は早いね!」
「(?!)」
「お早う。うちかて、毎日ぎりぎりってわけやないよ」
「…あれ、及川さんどしたの?」
「な、なんでもないです!」
「つらら、もうちょっと普通にできない…?」
「無理です…!」

「やあ、おはよう諸君!」
「あ、おはよう清継くん」
「おはよう」
「聞いたかい?今日、2年生に転校生が来るそうだ」
「え、こんな時期に?」
「耳が早いなあ。さすが生徒会長」
「しかもこれが、物凄い旧家のお嬢様らしくてね。逆に先生たちが気をつかいまくってるんだ。
今日は全体朝礼だろう?そこで紹介するってさ」
「へえ…」
「てゆーか、旧家なら奴良君とか花開院さんとこも旧家だよね」
「陰陽師やったらどうしよう…」
「いや、それは無いんじゃない…?」



ざわざわざわ。

体育館には、浮世絵中学校の全生徒が集まっている。
転校生が来るという話はすでに広まっているようで、話し声の大半はその予想話だ。
何せ、こんな中途半端な時期に転校してくる学生自体が少ない。
しかもこのような全体の場で紹介されることも、滅多矢鱈には無い。
あるとすれば、夏休み明けくらいだ。

いつもならば眠くなる校長の長話も、今日は短かい。
他の教師の注意事項やお知らせなども、必要最低限。
そうして、いつもの朝礼が終わる。
壇上の校長は舞台袖を気にしながら、集まる生徒たちへと声を投げた。

「皆さんご存知かと思いますが、今日は転校生を紹介します」

ざわっ、と体育館全体が浮つく。
「なぜこのような場で紹介するのか、不思議に思った生徒も居るでしょう。
一つは時期が微妙であるため。もう一つは、当人の申し出です」
誰もが『?』マークを脳内に浮かべた。
リクオたちも例外ではない。
「どういう意味なん?ただの目立ちたがりか?」
「そんな…清継くんじゃあるまいし」
「2人とも、なにげに酷いこと言ってるよね…」
「本人はあっちだから聞いちゃいないけどね〜。生徒会長って目立ちたがりがやるんじゃないの?」
壇上の校長が、舞台袖に何事か合図を送った。
ざわついていた生徒たちが、一瞬で静まり返る。

「彼女が2年5組に編入する、京羽衣(みやこ・はごろも)さんです」

登場した少女に、誰もが息を呑んだ。
…ある2人と、生徒ではない複数人を除いて。

少女は、指定の制服ではなく紺色のセーラー服を着ていた。
漆黒の髪は腰下まで届き、今では珍しい艶やなストレート。
色白の肌はそれこそ白磁のようで、まさしく日本人形という表現が相応しい。

紛うこと無く、美少女だった。

誰もが見惚れ静まり返ったその中で、思わず立ち上がった生徒が2人。
「あ、あんた…!」
ぱくぱくと声にならない声を絞り出す、彼女は花開院ゆら。
「嘘だろ…?!」
目を丸くして壇上の少女を凝視する、彼は奴良リクオ。
生徒たちの視線は壇上から彼ら2人へ注がれるが、そんなことを気にする余裕は無い。
壇上の少女は2人の姿を認めて、それは愉しげに微笑んだ。

「どうした?化け物を見たような顔をして」

お前がな!!と突っ込んだ人数は、果たして何名だったろうか。



09.11.25

閉じる第二話 >>


>>  え?羽衣狐様は高校生じゃないかって?
だって、羽衣狐様が「ここが良い」って仰ったから。(狂骨)