ゆら、と水が揺れた。
水面に映るのは、アプサントの城。
「あ〜楽しかった♪今度は彼らの前で言ってみようかな」
1人の少年が、映る城を眺めてクスクスと笑った。
宝石がそのまま埋め込まれたような眼を輝かせ、楽しげに。
色の白い手を水面にかざすと、ゆらりと景色が変わる。
「いまさら遅いのに、ここの住人はがんばるね」
ちらりと一瞥しただけで興味を失ったらしく、地上を映す鏡から離れた。
映っていたのは、パルーデの北にあるカーミンの町。
少年はその場からふわりと移動する。
その背で羽ばたく翼は、黒い天使の羽。
移動した先にいるもう1人の少年に抱きつき、その手に触れる。
抱きつかれた方の少年は気分を害したのか、眉をひそめた。
「冷たい…」
抱きついた方の少年はその少年を見上げ、ぽつりと呟いた。
見下ろす側の少年は触れられた手に改めて触れて、気のない返事を返す。
「下に降りてるからだろ」
「ーーーは降りないの?」
名を紡いだはずの声は霧散し、音となる前に消える。
しかし、互いしか居ない存在に名は要らない。
呼ばなくても応じることが出来るのだから。
少し背伸びをして、目の前の彼に口付ける。
「…やっぱり冷たい」
離れてもその冷たさは残った。
鳶色の髪の少年は不機嫌な声に変わる。
「このままじゃ…触れなくなっちゃうよ」
そしてきっと、"実体"を持つ時期も変わってしまう。
対する黒髪の少年は、やはり気のない言葉を返すだけ。
「たった数時間でこれなら…まあ、そうなるな」
「僕があの子と同調してたら?」
「それだけ早くなるに決まってんだろ」
「…じゃあどうするのさ?」
長い黒髪は、黒い翼とまた別の色を持つ。
不機嫌な顔でその長い髪に触れる目の前の少年に、彼は口の端をつり上げた。
「ならお前が探せよ。俺の"器"として耐えられる奴を」
鳶色の髪の少年はパッと表情を輝かせた。
「あ、いい考え♪あの子の周りってそんな候補多いよ。たぶんすぐ見つかる」
「だったらそれで満足しとけ」
「うん。そうする」
再び交わす口づけは、先ほどよりも深く。