アスランが打開策を出してから、ちょうど4時間後。
集会所に町の見張りの1人が駆け込んできた。
「パルーデが軍隊出してきやがった!!」
切羽詰まったその声に、集会所の中は一気にざわめいた。
ラクスはステラとの他愛ないお喋りを止め、シャニを見る。
そのシャニはすでに階段を駆け上がっていた。
ステラは立ち上がると、通報者と共に集会所の外へ飛び出す。
2階の目当ての扉の傍へ来たとき、突然その扉が勢いよく開かれた。
もう少し早ければ、もろにぶつかっていただろう。
出てきたクロトはシャニの姿を認めるなり、歓声を上げた。
「出来たぜ!!」
それが何を意味するのか、聞き返している暇はなかった。
後に出てきたアスランも、シャニの表情に嫌な予感を悟る。
「10分で何とか準備して」
シャニはただ一言だけ言うと、階段を引き返した。
クロトとアスランは顔を見合わせて頷くと、窓から外へ飛ぶ。
もはや、一刻の猶予もない。
ラクスは降りてきたシャニに、アプサントの位置を地図で指し示した。
「短くはない距離ですわ。けれどここから北北西へ進めば必ず、見えてきます」
「…分かった。あんたは先に行って。アスランって奴もすぐに行かせるから。
これを何とか全員に伝えて、俺たちは最後に行く」
自分の力の限界を、ラクスはよく知っている。
下手に残ると言ってしまえば、それは彼ら"力ある者"の生存率を著しく下げることになり兼ねない。
ラクスは頷き、集会所を出た。
自分の役目は、このことを一刻も早くアプサントへ伝えること。
「Hallo hallo!
Urgent reception! Urgent reception!(緊急受信!緊急受信!)」
忙しなく飛び跳ね目のライトを点滅させるハロに、ミーアはただならぬ事態を感じた。
「まさかラクス?!ラクスとアスランに何かあったの?!」
ハロは変わらず飛び跳ねながら、受信内容を大声で喋る。
「The present place is Carmin.(現在地はカーミン)」
「Palude attacks it!!(パルーデが攻めてくる!!)」
ミーアの顔がサッと青ざめた。
パルーデは天使排除を掲げる悪魔の大国。
カーミンは、それに反発した悪魔が作った町であるはずだ。
ラクスとアスランは、カーミンにいる。
「ラクスとアスランが行ったことで…カーミンを攻め落とす理由が出来たのね!」
素早く彼らの状況を推測して身を翻すと、たった今下りてきたばかりの階段を上る。
向かうは議会室。
早く手を打たなければ。
ミーアの報告を聞き、デュランダルはすぐさま軍の指揮官たちを集めた。
そこには当然、レイの姿もある。
「ラクス・クラインとアスラン・ザラの安全が最優先だ。
報告によると、パルーデがカーミンを攻め滅ぼそうとしているという。
おそらくは、カーミンの住人たちもここへやって来る」
それはシンの…オーベルジーンのときと同じ。
今度は何としても、1人でも多く救わなければ。
誰もがそんな使命感を持っていた。
「部隊の半数は南の国境付近へ。他は、特にアラバストロの動きに警戒を」
「「「はっ!」」」
部隊の待機所へ向かいながら、レイはシンへの連絡をどうしようかと思案していた。
彼はまだ眠っているだろう。
パルーデの軍隊がアプサント近くまで来た場合、力の波動で気づく可能性がある。
レイの個人的な意見としては、シンに戦ってほしくないというのが本音だ。
不安定な精神状態と、あの"黒い蝶"。
どちらも戦いにおいてプラスにはならない。
「…っ!」
ズキリ、と頭痛が走る。
レイは左手で頭を抑え、しかし足は止めなかった。
ちらりと視界に入る右手を、挑むように見つめる。
あの存在に、操られるわけにはいかない。