クロトの作った機械と、アスランが映像機能をコピーしたピンクのハロ。
町の東西にある建物の内、最も高い場所にそれを置く。
カチカチ、とハロは目のライトを点滅させた。

「あとはミーアが気づいてくれれば…」

アプサントに居る彼女の持つハロへ、簡単なテキストを送った。
こちらの意図が正確に伝われば、議長であるデュランダルは難民の救助に全力を挙げてくれるはずだ。


作業は何とか10分以内に終わった。
カーミンの町の映像を、本物よりも数kmパルーデに近い側に映す。
上空300mくらいから偵察されれば一発でバレてしまうが、彼らがそれを実行するのは早くて10分後だ。
映像の町に入り、人っ子一人いないということに先に気づくか。
壁や石段をすり抜けてしまうという、映像でしか成し得ない状況に気づくか。
早くに気づいたとしても、パルーデとカーミンの間には大きな森が自然の城壁として存在している。
上空から来るにしても地上から来るにしても、時間稼ぎに一役買ってくれるだろう。
そして自然の城壁は、カーミンの北側にも大きく広がっている。
こちらは国1つ分はある大きさだ。
森の中を行けば、そう簡単には殺されない。

あちらが無茶苦茶なことをしなければ、だが。


シャニはステラと共に『北北西へ向かうこと』と『樹木よりも高く飛ばないこと』を伝え回っていた。
北と南の境界線を越えれば強烈な寒波に身を切られるが、まだ耐えられるだろう。
すでに住人の1/3近くが脱出した。
先に出たラクスとそう距離は離れていないはずで、うまく行けば彼女が道案内をしてくれる。

あとは、自分たちが無事アプサントに辿り着ければ。


アスランは西にいるのか東にいるのか。
シャニとステラが迷っていると、西の方からクロトが飛んできた。
ほんの数秒遅れて、アスランが東からやって来る。
もうスイッチは入っているのだろう。
シャニはアスランに言った。

「俺たちは最後に行く。あんたは早くラクスって人のとこに」

その言葉にアスランも頷く。

「ああ。君たちも無茶はするな」

3人は同じく頷き返し、アスランは他の住人たちと同じように北へと飛び去った。
クロトはしみじみと呟く。

「この町なくなるんだな…結構住み心地よかったのに」
「でも、ラクスがアプサントも良いところだって言ってたよ。…あ!」
「「?」」

ステラがふいに声を上げ、何事かと首を傾げる。
彼女は集会所の2階へ入ると、クローゼットから適当に羽織れるものを3着取ってきた。
その内の2着をシャニとクロトへ手渡す。

「あのね、ラクスが『向こうは雪がいっぱい積もるから寒い』って」

2人はそれを礼を言って受け取った。


・・・この町が滅ぶまで、あと数十分。





シンが目を覚ましたとき、ちょうどフレイが城から帰ってきた。
途中で買ってきた食料品を片付けながら、彼女はシンへ声をかける。

「シン、調子はどう?大丈夫?」
「…うん」

曖昧な返事を返し、シンはベッドから下りる。
なるべく鏡の方を見ないようにして。

「レイは…?」

リビングでお茶を入れ始めたフレイに尋ねる。
フレイは表情をわずかに固くした。
シンへ告げるべきか否か、一瞬の攻防があった。
数秒の間を置いてようやく口を開く。

「招集されたわ。パルーデが、カーミンって町を滅ぼそうとしてるって」
「?!」
「この国の歌姫って人が、カーミンの人たちをこの国へ避難させようとしてるらしいわ」
「…それで?」

フレイは即答しなかった。

「レイとアウルは南の国境よ。…行くんでしょう?」

悲しげな、それでも笑顔を浮かべて。
自分を心配してくれていることが痛いほど分かる。
けれどもシンは首を縦に動かした。
迷いなく。