シャニたちは、気付けば進行方向を除く3方向から攻撃を受ける事態に陥っていた。
左右から来る光の帯を避け、背後からのものを相殺する。
しかしキリがない。
迫る光の中に、黒い影が見え隠れする。

「くっそ!本体まで追いついてきた!!」

3〜4個中隊、おおよその数はそんなものだろう。
だが、こちらはたったの3人だ。

ふいに光の帯が角度を変え、攻撃のほとんどがステラに集中した。
ステラは大部分を避け、後方へ力を放ち相殺する。
しかし相殺し切れなかった光がまともにぶつかった。

「きゃあっ!!」

ぐらり、とステラがバランスを崩した。
それに追い討ちをかけるように、光の帯がさらに放たれる。

「「ステラっ?!」」

視界に捉えたその光景に驚愕し、シャニとクロトは隙を作ってしまった。
別の方向から光の帯が放たれ、その光に乗って悪魔たちが姿を現す。
パルーデの前線を担う軍隊。
彼らは、シャニたちのかつての同僚だった。

「「「裏切り者には死を!!」」」

高々と叫ばれたその声は、他の音を押しのけてよく聞こえた。


逆方向からの光の帯がステラを狙う。
それを遮るように、上空から水色がかった光が槍の雨のように降ってきた。

「させるかよっ!!」

上空から急降下した人物はステラを後ろに庇うと、突然のことに動きの止まった悪魔たちへ第2撃を放つ。
ステラは幻かと思わず目を擦った。

「アウル…アウルだ!」

シャニとクロトがその声を聞く前に、今度は横から青みがかった光が悪魔たちを吹っ飛ばした。
レイがアウルとは逆に回り込んでいたのだ。

「レイ!ナイス!!」

アウルが歓声を上げた。
それを聞いたシャニとクロトは彼を瞬時に味方だと判断し、また北へ飛ぶ。
レイとアウルは彼らの後ろを。
だが、レイの姿が相手の戦闘意欲を倍増させてしまったらしい。
…この中では、レイだけが天使。
諦めることなくパルーデの軍隊は彼らを追いかける。



ただ翼が違うだけの種族。
この世界には、天使と悪魔以外の人型種族はいない。
それが何故、ここまでいがみ合うのか。
どこでこうなってしまったのか。



アプサントの国境近く。
パルーデの軍隊はそこで猛攻を仕掛けてきた。
無数の光の帯が、一直線に5人を襲う。
そのほとんどはレイに向けて、だ。

レイは応戦するが、やはり多勢に無勢。
向かってくる力を相殺し切れず、何発かがそのまま飛んでくる。
樹木を盾にやり過ごせれば良かったのだが、その内の1発が翼に当たった。

「っ!!」
「レイッ?!」

大きくバランスを崩され、レイは落下した。
重力に従うそのコースに向けて、再び無数の光の帯が襲いくる。

しかし、それがレイに届くことはなく。

上空からの赤い光が、光の帯もろとも悪魔たちを一閃に薙ぎ払った。
間髪置かずに赤い光は縦に一閃し、斬撃のように悪魔たちに降り注ぐ。

レイを救ったのは、瞬く間に消えた十字の閃撃。


その瞬間は、アウルやシャニたち、そしてレイも見た。
わずか1秒ほどの力の交錯を。
地面に落ちる寸前に体勢を立て直したレイは、赤い光の主に驚きを禁じ得なかった。

「レイっ!大丈夫か?!」
「シン…?!」

驚きが抜けず、レイは何とか名前だけを返す。
赤い光の主は、家で眠ったままであるはずのシンだった。
彼は不安に揺れた目でレイを見つめる。
しかしふと、違和感を感じた。

シンの赤い眼が、紫がかっているように見えた。


「シン!レイ!早く!!」

アウルの声にハッと我に返り、2人はアプサントの国境を越えた。
そのまま飛び続け、城が見えるまでは後ろを振り返らずに。