シンをきちんと寝かせてから、レイは議会室へ赴いた。
議会室には、デュランダル以外にも他国の代表が大勢集まっている。
オーベルジーンの代表であったカガリ・ユラ・アスハが、その筆頭だ。
他国とは言っても、やはり滅んだ国ばかり。
代表がすでに死んでしまった国もある。
こちら側からはアスランとラクス、イザークとニコル、ミーア、そしてレイとアウル。
カーミンの代表としてシャニ、ステラ、クロト。
どうやらパルーデもアラバストロも、大した衝突は起こさず引き上げたらしい。
大国同士、戦う意志があるわけではなかったのだろう。
今はまだ。
しかし残っている大国は、その両国を除けばアプサントのみだ。
悪魔の国はアラバストロに、天使の国はパルーデにほとんどが滅ぼされたと言っていい。
あとは点々と存在する小さな町や村。
中でも大きかったカーミンが滅ぼされたということになる。
逃げ延びた住人は、シャニたちを含めて30人程度。
かなりの人数が、パルーデ軍に追いつかれて殺された。
オーベルジーン程ではないとはいえ、やはり悲惨なものだ。
会議という名の報告会も終わり、出席者たちはそれぞれ引き上げ始めた。
ミーアはシャニたちを宿屋まで案内するために、彼らと出て行った。
…デュランダルを除くと、代表格の中で最後まで残っていたカガリ。
彼女はずっと何か迷うような表情を見せていたが、覚悟を決めたらしくレイへ尋ねた。
「あの、シン…は、大丈夫か?」
聞いて良いものか、随分と迷っていたのだろう。
レイはわずかに笑みを浮かべて答えた。
「大丈夫です。力の使い過ぎで疲労しているだけのようですから」
「そう、か。良かった…ならいいんだ。ありがとう」
「いいえ。こちらこそご心配頂き、ありがとうございます」
心底安心した様子で、カガリは議会室を後にした。
部屋に残っているのは、大体いつもの顔ぶれだ。
カガリの後に出ようとしたアスランとラクスを、イザークが引き止めた。
「アスランとラクス嬢、それから議長。少しお時間を頂けますか?」
「ふむ。別に構わないが…」
「わたくしも構いませんわ」
「俺もいいが…どうしたんだ?ニコルも」
ニコルは曖昧に微笑み、レイとアウルにも残るよう言った。
つい先程まで他の代表者たちが使っていた長机に集まり、イザークは分厚い資料を1冊取り出した。
アウルがあっ、と声を上げる。
「それってこの前、俺たちが見たやつじゃん。ファイ…なんとかって遺跡の」
「ファイアーンス」
「そう、それ」
レイが律儀に訂正し、その名前にアスランやラクスも反応した。
「あの"世紀の大発見"って言われた…?」
「古代の神殿跡…でしたわね」
デュランダルが、改めてイザークとニコルに尋ねる。
「その遺跡がどうかしたのかね?」
2人は顔を見合わせ、ニコルが口を開いた。
「これからお話することは、つい最近の出来事とこの遺跡の時代…つまり何千万年も過去のことです。
結果的にはおそらく、アラバストロやパルーデのことよりも深刻なことでしょう」
"黒い蝶"のこと。
それが、"破滅"という存在の象徴であること。
"破滅"とは、世界を滅ぼし再生させる者であること。
遺跡に残る"黒い蝶"が、その証であること。
遺跡を創った天使や悪魔たちが、滅びの道を歩んだこと。
滅ぼした存在が、"破滅"であること。
「そして僕らは…つい先日、"破滅"に遭ってしまいました」
"破滅"は言った。
もう遅い、と。
動き出したものを止めることなど出来ない。
諦めるか無駄に足掻くか。
道は2つに1つだと。
そして…それは自業自得なのだと。
『どれだけ滅びの日を伸ばせるか、やってみたらどう?』
退屈しのぎに遊んであげるから、と。
"破滅"はそう言った。