「あれ?何でここに悪魔がいるの?」


誰かの声が聞こえる。


「ねえ、君。死んでるの?…死んでたらここに来れないよね」
「1人で何言ってやがる」


別の声が聞こえる。


「ん〜?珍しい…というか、初めてのお客さんが来たな〜と思って」
「こいつか?死んでる…わけじゃねえな」


視線を感じる。
でも目を開けることが出来ない。
なぜ?


「黒い髪って珍しいね。あと悪魔でこんなに色白いなんて」


髪に誰かの手が触れた。


「北方に住んでたんじゃないか?確かあっただろ。雪の止まない国とか」
「あ〜あったあった。でも北の方って天使の国ばっかりなんじゃなかった?」
「俺に聞くな」


パシャン、と水の弾ける音がする。


「ああ、これか。元・中立国オーベルジーン」


思い出したくない。
その名前を出さないで。


「元?もしかして今はない…とか?」
「ないな。国はとっくに滅んでる」
「ふぅん…じゃあこの子は…」


誰かの手が体に触れる。
心の中を覗かれたような…嫌な感じ。
声が納得したように言う。


「そっか。だからこの子はここに来れたんだ」


また髪に誰かの手が触れる。


「この子のココロ、真っ白だ。…真っ黒とも言えるけど。
何もないよ。絶望に埋め尽くされてる」


思い出させるな。


「へえ、そーゆーヤツなら来れるのか」
「でもこの子くらい真っ白になるのは…ちょっと不可能な気もするよ?」
「例外?」
「そうかも…。ね、ちょっと勿体なくない?」


何が?


「ならこいつの目を借りればいいだろ。見ること聞くこと、尋ねること。
好きなときに借りられる。便利じゃねーか」
「なるほどね。さっすが♪」


今度は手に触れてくる。
氷みたいに冷たい、誰かの手が。


「君、聞こえてたよね?だから、君は殺さないで下に帰してあげる。
君は世界が生まれて初めての、生き証人になるんだ」


生き証人?
世界?
そこにいるのは一体、誰?


「世界という存在が生み出したモノ。全てを壊し、再生させる存在」


壊す?
再生?
…何を?


薄らと開いた目に映ったのは、この世の者とは思えないヒト。
この世の何よりも綺麗で、何よりも冷たいヒトたち。


「君は生き証人になる。だから、誰もが君に驚く」


何に驚く?


「その証に驚くんだ。君には見えない破滅の証が、君に刻まれてる」


左手に激痛が走る。
破滅の証?


「破滅は君のことじゃないよ?僕らが破滅なんだ」
「世界の上に立つ者に、同じ破滅をもたらすのが俺たちの役目」
「まだ僕らに名前をつけた人はいないけど」
「お前を見たヤツが勝手につける」
「僕らを探し当てられる人がいれば…ね」
「もしそんなヤツが現れたら教えてやるよ。お前にも」



アメジストの炎が目に焼き付く。


忘れた方が良い。
忘れてはいけない。



あの2人は、ダレ?