「!!」


ハッと目覚めると、冷や汗を掻いていた。
ぞわりと寒気が走り、ギュッと自分を抱きしめる。
気温が低いから寒いとかじゃなくて、恐怖からの寒気がする。

「随分と魘されていたな」
「…っ?!」

いきなり額に手を当てられて、思わず体が強張った。
でもその手は温かくて。
どこかホッとした。

「…熱はなさそうだな」

金色が太陽みたいに眩しい。
そうだ。
何でこんなとこにいるんだろう…?



「ここは…?」

シン・アスカは、改めて目の前の人物に尋ねた。
自分を看てくれていたらしいその人は、金髪に蒼い目。
翼は隠されているが、どう見ても天使だ。
対する自分は天使ではなく、悪魔。
お互いを完全に排除したがる者たちの争いで国を亡くしたシンは、少なからず人間不信になっていた。
しかし目の前の人物の目には、そのような光が宿っていない。

「ここは中立勢力下のアプサント。お前を助けたのに他意はないから安心しろ」

レイ・ザ・バレルと名乗った少年は、ぽんぽんとシンの頭を撫でた。
シンの目から、不信の光が消える。

「あ、ありがと…」

根が素直でないシンは、お礼1つ言うにも苦労する。
レイはシンのそんな様子に、クスクスと笑みを漏らした。
バタン!と部屋の扉が勢い良く開かれる。

「あ!目、覚めたんだ!」
「え?うわっ?!」

反応する間もなく、誰かが突然に駆け寄って来た。
水色の髪が青空の色のようだ。

「…アウル。相手は病人だぞ」

レイの声が横から聞こえる。
するとその水色の髪の持ち主は、ぶつぶつと文句を言いながらシンから離れた。
かなりの癖っ毛で眼は翠色の、名はアウル・ニーダと名乗った。
シンと同じ、悪魔の少年。

「でも良かった。
僕とレイがお前見つけたんだけど、そのまんま目覚めなかったらどーしよーかと」

国境近くで、彼が倒れているのを見つけた。
レイとアウルはちょうどその辺りの警戒についていたのだ。
黒い髪と黒い翼は、雪の中では目立つ。
だからこそ見つけられたし、オーベルジーンの難民だということも薄々分かった。

「あ、そーだ。手、大丈夫か?」
「手?」
「そう。すごい凍傷…つーか、火傷…みたいになってた」

アウルに言われて自分の左手を見ると、白い包帯が手首から手の甲にかけて巻いてあった。
レイがそれを丁寧に外していく。

「…?」

シンは首を傾げた。
凍傷や火傷といった痕は、どう見てもない。

首を傾げるシンに、レイとアウルは顔を見合わせる。

「ひょっとして…痛くないのか?」
「痛いって…何が?」
「ちょっと待て!これが痛くないって…」

シンの左手を掴んだアウルを、レイが制した。

「レイ?!」
「ちょっと黙ってろ」

アウルを黙らせ、レイはシンの左手の甲を見る。

「お前にはどう見える?」
「は?」
「お前の左手が」

そう言われて、シンはもう一度自分の左手を見た。
別に何の異常もない。

「だから、怪我なんてしてないって」
「……」

アウルはまたも開きかけた口を閉じ、黙ってレイを見つめる。
何を思ったのか、レイはシンの左手の甲を自分の指でそっとなぞった。

「ーーーっ?!!」

シンの口から、悲鳴にならない叫びが上がる。
レイに手の甲をなぞられた瞬間、手に、頭に、激痛が走った。
痛みに耐え切れず、シンはレイに縋り付く。



『君ニハ見エナイ破滅ノ証ガ、君ノ手ニ刻マレテル』



「だ、れ…?」
「「シン?!」」

記憶から浮かび上がった、誰かの声。
シンはそのまま気を失った。