宝石を丸ごと映し込んだような、アメジストの眼。
それはまさに、宝石そのものだった。

感情が映らない。

鳶色の髪の少年がふわり、と代表者たちが集まる長机の上に移動した。
そしてまっすぐにデュランダルを見る。

「貴方は、僕らのことを知っているはずだよね?」

あそこにいる賢い学者さんたちに訊いたんだから、と彼はイザークたちを指差した。
そこであ、と声を上げる。

「ほら、そこの人たち。その2人をそのままにしとく気?」

シンとレイのことだ。
意外にもフレイが我に返り、アウルをせっつくと2人を肩に担いで部屋を出て行った。

何事も、なく。





部屋を出たフレイとアウルは、空いている部屋を探す。

「何なのよ、あれは…!」

奥に空き部屋を見つけて2人を寝かせると、フレイはその場に力なく座り込んだ。
腰が抜け、しばらくは立てそうにない。
それはアウルも同様だった。
何より、シンについてフレイに説明する義務がある。
もう、隠しても無駄なことだ。

「"破滅"だよ。世界を滅ぼす存在だ。あの茶髪の方のヤツが、シンの中に巣食ってた!」
「巣食ってたって…どういうこと?」
「そのままだよ。アイツ、シンの身体使って僕らにそう言った」
「……」
「あーもう!わっけ分かんねえ!!」

アウルはぐしゃぐしゃと髪をかき混ぜた。
その視線はレイに向いている。

「"破滅"は1人なんじゃなかったのか?何でレイの中にも居たんだよ?!
あの黒髪の方は、レイの中にいつから巣食ってたんだ…?!」

それは怒り。
レイの様子に気付けなかった、自分に対しての。
"破滅"が1人だという固定観念に縛られてしまった愚かさに。

フレイがぽつりと呟いた。

「…たぶん、シンのためだわ」
「え?」

フレイもまた、レイを見ていた。

「その"破滅"っていうのが、シンの中にいた。それはレイも知っていたんでしょう?」
「うん」
「だからよ。もし後からレイの中に、もう1人"破滅"が住み着いたなら。
それをシンが知ったら、シンはきっと自分を責めるわ。巻き込んでしまった…ってね。
あの子はそういう子だもの。全部自分のせいだって、自分を許せない子だから」
「……」
「レイは本当に、シンを守って助けてくれてたわ。シンもそうだった。
レイが居ないときのあの子、本当に寂しそうだったから」

アウルはレイを見ていた視線を、シンへ移す。


「…シンを守るため、か」





鳶色の髪の少年は、興味深そうに代表者たちを見回した。

「でも凄いね。まさか数ヶ月分も伸びるとは思わなかったから」
「伸びる…とは?」

デュランダルが尋ねる。
少年はさらに楽しそうに答えた。

「僕らが"実体化"するまでの時間だよ。相当がんばったんだね。
ほら、降りてきて良かったでしょ?【カナード】」

彼は突然、もう1人の"破滅"へ話を振った。
黒髪の彼は【カナード】という名前を持つらしい。

「それは結果論。俺はお前と違って、表には出てないからな」
「僕のせいなの?」
「さあ?」

ククッと笑う【カナード】という名の"破滅"は、非常に冷然とした空気を纏っていた。
1つ1つの動作もまた、鋭い刃のような冷気を含んでいる。
冴え冴えとした、温もりのない美しさとでも言えばいいか。

気のせいか、足元の空気がひやりとしてきた。
【カナード】という名の"破滅"は、イザークたちをちらと見遣り口を開く。

「今死にたくなかったら、動くなよ」

ひゅっ、と足元の空気が流れたように感じた。
しかし感じただけなので、分からない。
アスランが尋ねた。

「お前たちは、何故ここにいるんだ?」
「…疑問を明確にしろ」

どうやら、質問の仕方が悪かったらしい。
アスランは尋ね直した。

「世界を滅ぼす者だと訊くが、何故こんな場所で油を売っているのかと訊いたんだ」

彼はさして表情を変えなかった。

「それは俺じゃなくて【キラ】に訊けよ」
「…【キラ】?」

聞き返すアスランに、彼はもう1人の"破滅"を指差した。

「あれの名前」

鳶色の少年の方は、【キラ】という名前を持つらしい。
【カナード】の方に比べると、無邪気な子供という表現がよく似合う。
しかし無邪気さの中には、いっそ無情なほどの残酷さがある。

【キラ】は小さく首を傾げて、こんなことを言った。



「ただ滅ぼすだけじゃつまんないんだよね。だから、僕らを止められるか試してみない?」