白い輝きの側では、木々が融けていく。
"燃える"のではなく、融けて蒸発していた。
雪もすべて水へ、そして蒸発して気体となり消える。
蒼い輝きの側では、音もなく木々が粉々に砕け散っていく。
一瞬のうちに粉々に砕け飛び、地に落ちた。
雪はすべて氷よりも固く、大地は永久凍土へと様変わりする。
光がぶつかる方角の城壁から、アスランとアウルはその様を眺めていた。
もう、驚愕に声も出ない。
光がぶつかっている位置は、アプサントから数十kmは離れている。
だが、凛冽な冷気と灼熱の熱気が断続的に吹き付けて来る。
風に乗って届くのではなく、大気を震わせる波動として。
「これが…"破滅"の力なのか…?」
アスランがようやく声を絞り出した。
そこへ熱風が吹き付け、咄嗟に顔を腕で庇う。
アウルは忌々しげに舌打ちした。
「冗談!あいつら絶対遊んでる。あんたも議会室で見ただろ?
【キラ】ってヤツの火と、【カナード】ってヤツの風をさ!」
今度は冷気が押し寄せてくる。
アスランたちは為す術もなく、耐えるしかない。
アウルの言う通り、彼ら"破滅"の力はこんなものではないだろう。
つい先程、突然にアラバストロとパルーデの戦闘が止んだ。
何事かと偵察を派遣すると、そこには何も残っていなかったという。
在ったはずの森も、居たはずの軍隊も、何もかもがすべて消えていた。
残っていたのは、雪の解けた凍土のみ。
吹き付ける寒暖の風と弾ける光。
白蒼の光が引き起こしている現象を目の当たりにし、それが何か理解出来た。
あの2人は"世界"の有する限界、『プラズマ』と『絶対温度』を持っている。
原子の動きを最小限にまで止めてしまう、絶対零度。
爆発的な破壊力を持った核融合反応を起こす、プラズマ。
おそらくは本人たちですら、力の全貌を知らないのだろう。
すべてを放てば、"世界そのもの"まで跡形もなく消えてしまうのだから。
そして、あの風や火。
伝説や夢物語としてなら、そのような"世界を構成する力"を操れる者の存在がある。
だから、実際には居ないはずだった。
しかし存在する。
"破滅"という、"世界"が生み出した"世界"を守るための存在として。
では、『世界』とは何だ?
アスランは緩く首を振り、今まで考えていたことを追い払った。
そうでもしなければ、深みに嵌ってしまいそうだった。
アウルを見ると、彼は未だぶつかりあう2つの光…"破滅"を睨みつけている。
どうにも出来ないことが、どうしようもなく悔しい。
「あの2人は…」
徐(おもむろ)に口を開いたアスランに、アウルは意識を"破滅"から外した。
「シンとレイは、まだ目覚めないのか…?」
アウルはまた"破滅"へ視線を戻した。
その拳は固く握られている。
「…ずっと意識のないままさ。もう丸2日経ったのに」
「そうか…」
「あいつらが起きないのは、絶対あの"破滅"のせいだ。あれが巣食ってた反動だよ」
「どういうことだ…?」
アウルはアスランを見た。
「【キラ】って名前の方が、シンを使って言ったんだよ。
『この子は"器"にちょうど良い』って。レイにもそう言ってた」
「"器"…?」
「実体化する時間が…とか言ってたから、たぶんそれのこと」
つまり、実体化するためには"器"が必要だったということだろうか。
実際に生きている、人型の"器"が。
"破滅"のいる方角から、眩いほどの光が弾けた。
「消えた…?!」
アウルは城壁から身を乗り出して、そちらに目を凝らす。
白い光も青い光も黒い影も、何も見えなかった。
あるのは、いつものどんよりとした雲。
そしてちらつき始めた雪。
"破滅"の姿は、どこにもなかった。