「…あ…ぁ……」
揺れる国。
割れる大地。
死に絶える天使たち。
「うわああああああっっ!!」
否応無しに流れ込んで来る映像。
自分では追い出せず、整理も消去も出来ない。
シンは両手で頭を抑え、流れ込んで来る映像を振り払うように強く頭を振る。
けれど、映像は流れ込み続けた。
「シン!ねえ、シン!!どうしたのっ?!」
フレイは必死にシンを抱きかかえるが、シンは固く目を閉じて首を振るばかり。
彼が何を見ているのか、フレイには分からない。
だから抱きしめるしかなかった。
どうしてシンがこんな目に遭う?
どうして私は何も出来ない?
なにも出来ない歯痒さに、フレイはぎゅっと唇を噛み締める。
シンは泣いていた。
家族を奪ったアラバストロの、あまりに呆気ない最期に。
自分たちヒトの脆さに。
"破滅"の、あまりの残酷さに。
「!」
ふっと何かを感じた。
シンはハッと顔を上げ、それにつられてフレイも顔を上げる。
「レ…イ…?」
ゆっくりと、閉じられていた蒼い眼が開かれた。
身を起こそうとしたレイは、途端に走った激痛に低く呻いた。
フレイが慌てて手を貸す。
何とか起き上がったレイは、ぽつりと言葉を落とした。
「…次は、パルーデ…か」
聞き返そうとしたフレイを制し、レイは口には出さず目で言った。
シンと2人きりにしてくれ、と。
悟ったフレイはシンを見た。
すでに泣き止んでいた彼は、先ほどのように取り乱してはいない。
後ろ髪を引かれる思いだっただろう。
しかしフレイは、状況を見守っていたイザークやミーアと共に静かに部屋を後にした。
部屋にはシンとレイの、2人だけ。
「レイ…俺、どうしよう…?」
シンはたまらずレイに抱きついた。
その衝撃でまた痛みが走ったが、レイはあまり動かない腕でシンを抱き返す。
止まっていたはずの涙で、シンの赤い眼は濡れていた。
「あんな国、滅べばいいと思ってた」
「……」
「俺の家族を殺して、姉さんのお父さんも殺して……あんな奴ら、死ねばいいって思ってた」
「そうか…」
「うん。でも、あいつらがちょっと力を使っただけで、あんな簡単に滅んだよ」
俺たちは、なんて弱いんだろう。
口には出さず、シンはそう笑った。
レイはただ黙って、彼を抱きしめる腕に力を込める。
いつの間にか、勝手に流れ込んでくる映像は途切れた。
入れ替わるように、シンはレイの心臓の鼓動の弱さに気づく。
それはきっと、
「俺たちが、先に死ぬってことは…ないのかな」
シンはまた力なく笑った。
"破滅"が言ったことは、おそらく"絶対"だ。
滅びを見届けろ、と言ったあの言葉は、"絶対"に違いない。
「…先に死にたいのか?」
レイは聞かずとも分かることを、敢えて聞いた。
それが分かっているシンも、敢えて答える。
「他の人が…姉さんやアウルやミーアたちが死ぬのなんて、絶対に見たくない」
"破滅"のことを知っているのは、ほんのわずかに過ぎない。
誰も自分が死ぬなんて、微塵も思っていないだろう。
知らない方が良いこともある…と、思う。
「レイ、動けるか…?」
「…おそらくな」
「じゃあ…」
ここを出よう。
この国が滅ぶ様なんて見たくない。
そんなものはもう、たくさんだ。
それは誰のためでもなく、自分のため。