年中雪に閉ざされるアプサントの中心部には、大きな城が建っている。
城の周りには城下町が、その周りにはさらに町が。
そしてもっとも外側には、要塞を兼ねた壁が。
公式的な場で着る軍服へ着替えると、レイとアウルは城へ向かった。
力ある者は、己の国を守るために。
2人はこの国ではかなり知られた"力ある者"だ。
入城し、エレベーターを使って上層へと上る。
城の上層部は、国を動かす力のある者の集まる場。
「hallo hallo!! Can I help you?」
「レイ、アウル、いつもお勤めご苦労様」
赤く丸いロボット『ハロ』と、桃色の髪をした悪魔の少女が2人を出迎えた。
アウルが尋ねる。
「あのさ、ミーア。今すぐ議長に面会出来る?」
ミーアと呼ばれた少女はきょとんと首を傾げた。
しかしすぐに赤いハロへ何事か話しかけ、次には2人を議会室へ案内する。
「さ、入って。ちょうど議長も2人を呼ぼうとしてたの」
「「?」」
首を傾げる2人の前で、天井まで届く装飾を施された扉が開く。
「レイ、アウル、ご苦労だったね。
ちょうど君たちをここへ呼ぼうと思っていたところだったんだよ」
現在、アプサントの最終決定権を持っているギルバート・デュランダル。
その横には、今や滅んだオーベルジーン国の代表だった、カガリ・ユラ・アスハが座っている。
他はそれぞれの秘書や護衛。
その中で、ひと際目立つ紅い髪を持った天使の少女がいた。
少女はレイとアウルが部屋へ入るなり駆け寄って来て、切羽詰まった様子で聞いてきた。
「ねえ、ねえ!貴方たち、東の国境を見張ってたんでしょう?!」
「そうだけど…?」
アウルが気圧されながら答える。
するとその少女はアウルへ詰め寄った。
「じゃあ、知らない?!黒い髪に赤い眼の、悪魔の男の子!!」
「え?」
アウルはレイを見た。
レイが代わって口を開く。
「失礼ですが、その少年の名は?」
「シンよ!シン・アスカ!!」
「そーだ。あいつの眼、綺麗な赤だったよな」
「?!」
ハッとして目を見開いた少女に、アウルは人好きのする笑みを向けた。
「そいつなら僕らの家にいるよ。大怪我してるわけじゃないからだいじょーぶ」
少女は息を飲み、その目からぽろぽろと涙が溢れ出した。
けれどその表情は微笑みに変わる。
「生、きてた……!シン、が…生きてる…!!」
まるで、張り詰めた糸が切れたように。
ふらりと少女の体が崩れ落ち、レイは慌てて手を伸ばした。
「ごめん、ありがとう。あとは俺がやるから」
眼鏡を掛けた少年がその少女を抱き起こし、部屋から出て行った。
どこか別の部屋で寝かせるのだろう。
しかし訳が分からないままのレイとアウルは、改めてデュランダルを見る。
その当人も苦笑を返すばかりだ。
「ああ、すまないね2人とも。順序が逆になってしまった」
席に着くよう勧められ、2人は空いていた席に座る。
デュランダルはまず、カガリ・ユラ・アスハを軽く紹介した。
彼女もデュランダルも天使だが、悪魔への偏見は持っていない。
だがそれを良しとしない天使の大国が、カガリの国であるオーベルジーンを滅ぼした。
シンは、そのオーベルジーン国の"力ある者"だ。
先ほどの紅い髪の少女・フレイは、同じように家族や友人を失った彼を弟のように可愛がっていた。
中立であるオーベルジーンで、ずっと2人で暮らしていたという。
カガリはレイとアウルへ礼を述べた。
「本当に、感謝している。
1人でも我が国の国民が生きていてくれたのかと思うと…」
カガリが退室したところで、ようやく息をつけた。
レイもアウルも、何を尋ねにやって来たのかうっかり忘れるところだった。
「議長、お聞きしたいことがあるのですが…」
デュランダルとレイ、アウル以外には誰もいなくなった部屋。
そうなるのを待ってからレイは切り出した。
デュランダルは顎に手を当て考える。
「"黒い蝶"か。残念ながら、私の知識では専門外だな…。
それは紋様なのかい?たとえば、家紋と言ったものに近いのか、それとも…」
「歴史書に残るような、特殊なものではないかと」
「ふーむ…」
デュランダルは手元の紙に何かを書き記すと、それをレイへ手渡した。
「それなら、古代学専門のジュール博士とアマルフィ博士を尋ねるといい。
アポイントはこちらから取っておこう」
「ありがとうございます」
下層へ降りると、フレイという少女がレイとアウルを待っていた。
「さっきは…ごめんなさい。あの、無茶なお願いかもしれないけど。
シンに、会わせてほしいの」