アプサント同様、常に白い雪に閉ざされるオーベルジーン国。
シンは"力ある者"として、国を滅ぼそうとやって来た大国アラバストロの軍隊と戦った。
けれど、所詮は大国対小国。
オーベルジーンはあっという間に炎に呑まれていく。
その様を、シンは戦いながら上空から見下ろし愕然とした。


すべてが消える。
皆、死んでいく。
まだ、自分は生きてるのに。

ドウシテ…?



「シン!!」

部屋に駆け込んで来た人物に、シンは目を見開いた。
それは紅い髪の少女。

「フレイ…姉さん…?」

度重なる戦いで、唯一の肉親であった父を亡くしたフレイ。
その戦いのうちの1つで、家族のすべてを亡くしたシン。
天使と悪魔という種族の違いはあった。
けれど偶然出会ったお互いに、家族の面影と同じ悲しみを見て。
フレイは自分1人しか住まなくなった家に、シンを招き入れ。
シンはそうやって世話を焼いてくれるフレイを、姉のように慕い。
ずっと2人で生きてきた。

「良かった…オーベルジーンを脱出してからはぐれて…!
本当に、死んじゃったのかと思ってた…!」

自分に抱きつき涙を流すフレイを、シンはそっと抱き返した。
そう、まだ独りじゃない。

「大丈夫。俺、まだちゃんと生きてるよ…」


皆、消えていった。
何も、生きているものは残らなかった。

ドウシテ、生キテイル…?



レイとアウルは2人の様子を静かに見守っていた。
アウルが小声で尋ねる。

「なあ、オーベルジーンの生き残りって、何人くらい?」
「…議長の話だと、両手で余るほどらしいな」
「な?!」

10人にも満たない、という意味だ。
代表であったカガリが生き残ったのは、ほとんど奇跡に近い。
それは、最後まで戦っていたシンの力の大きさを物語っている。
国の中心にいる代表が脱出可能なだけの時間、死んでいく他の仲間の分も戦っていたのだから。
泣きたいだけ泣いて落ち着いたフレイは、シンの左手の包帯に気がついた。

「怪我…してるの?」
「あ、これは…」

シンはフレイの後ろに立つレイを見る。
そのレイは首を横に振った。

「えと、大丈夫。ちょっと凍傷になってるだけだし…」

しかしシンの言葉が信じられないらしく、フレイはレイとアウルを振り返る。
アウルが苦笑した。

「ホントに大丈夫だって。大げさに包帯巻いといただけ。
それよりあんた、難民手続きとかまだやってないんじゃない?」
「あ!」

フレイは声を上げ、壁に掛かる時計を見た。
今は午後4時、窓口は5時まで。

「シン、動ける?それなら一緒に行きましょう。その様子だと、まだなんでしょ?」
「あ、うん…」

シンはフレイに支えてもらいながらベッドから降りる。
すると玄関のベルが鳴り、アウルが応対に出向いた。

「はいはーい…って、ミーア?何でここにいんの?」

玄関を開けたアウルは、思わず素っ頓狂な声を上げる。
防寒具でしっかり寒さガードを固めたミーアが、ハロを手に立っていた。
ミーアは立ち位置を少し横へずらす。


「カガリ・ユラ・アスハ様が、シン・アスカさんに会いたいんだって」


ミーアのすぐ後ろには、同じく防寒具を着込んでいるカガリが居た。
人物が人物なため、アウルは一瞬考えた。

「あ〜…えーと…、じゃあ入って…?」

仮にも一国の代表だ。
失礼な態度を取るわけにはいかない。

話が拗れるような予感を持ちつつ、アウルは2人を家の中へ入れた。