着いた場所は高級住宅街。
それも上の上をいくような高級邸宅が並んでいた。
シンはミーアに手を引かれながら周りを見回す。

「レーイー!いるんでしょ?ちょっと来て!早く来て!!」

ミーアは玄関から家に入るなり、家の奥へ呼びかけた。
その声はよく通りよく響く。
すると、うんざりしたような顔の少年が奥から出てきた。
…金色の髪に蒼い目。
後ろから覗き込むようにしていたシンは、その少年とパチリと目が合った。
それに気づいたミーアはその少年へ嬉しそうに笑う。

「ね、どう?綺麗でしょう?」





-紅玉のイノチと青玉のアカリ・後編-






このミーアと言う人物は、先ほどから『綺麗』という言葉を連呼する。
…何がそんなに嬉しいのかよく分からない。
金髪の少年は怪訝そうな顔でシンを見ていたが、ツイ…と視線を外してミーアを見た。
「どこから拾ってきたんだ…そいつ」
不審も露な声。
ミーアは無邪気な笑顔を浮かべる。
「あ〜やっぱり♪レイも気に入ったのね、この子」
明らかに、答えになっていない。
レイと呼ばれた金髪の少年はミーアを睨みつける。
しかしミーアはどこ吹く風。

シンには2人の間にバチッと鋭い火花が散った…ように見えた。

先に視線を外したのはレイという少年。
彼は小さくため息をついてミーアに尋ねた。
「…名前は?」
ミーアは一瞬きょとんとし、そして複雑な声を上げた。
「あ、う〜んとね、教えてくれないの。一言も喋ってくれないんだもん!」
シンは視線をレイからミーアへ移す。
…微々たる非難を込めて。
「お前が信用に欠けるからじゃないのか?」
レイの言葉にああ、この人よく分かってるんだな、と思う。
ミーアは不機嫌そうに頬を膨らませていたが、家に上がるとまた笑みに戻った。

「じゃあこの子はレイにあげる。だってレイも"綺麗なもの"、好きでしょ?」





何だかよく分からないうちに、シンは風呂へ入れられた。
体が冷えきっていたのでぬるま湯ですら熱かった。
そして指定された部屋へ行く。
以外にシンプルな部屋。
ベッドサイドに見慣れたものが置いてあった。
…淡いピンク色の携帯電話。
シンはそれを手に取り、じっと見つめる。
持ち物と言える物はこれだけ。

「ちゃんと髪を拭かないと風邪を引くぞ」

後ろから聞こえてきたレイの声に、扉を開けっ放しにしていたことを思い出した。
レイはシンが肩に掛けたままだったタオルを取ると、シンをベッドに座らせる。
そしてそのままシンの髪を拭き始めた。
(…見た目キツいけど…優しいな、この人……)
大人しく髪を拭かれていたシンはふと思い出す。
…よく、父や母に同じことを言われて、でも同じことをしてくれた。
違うけれど、同じくらいに暖かい温もりを。

「…ありがと」

自然と感謝の言葉が口をついて出た。
ピタリ、と髪を拭く手が止まる。
振り向くと、レイが少し驚いたような顔でこちらを見ていた。
「お前…話せるのか」
「?」
「"話さない"じゃなくて"話せない"のかと思っていた」
確かに。
ミーアの前では一言も喋っていない。
「だってあの人…ワケ分かんないし」
「…まあ、否定はしないが」

レイはまた手を動かしてシンの髪を拭く。
…けっこう癖があるが、さらさらと流れる黒い髪。
「お前、出身は?」
名前ではなく、あえてそう聞いてみる。
「………オーブ」
少しの沈黙の後に答えが返ってきた。
…家族はいない、帰る場所はない。
"オーブ"という言葉で、その理由が分かった気がした。
「あいつの気まぐれに巻き込まれたのは、運が悪かったな」
レイは立ち上がり、髪を拭き終わったタオルを椅子に掛ける。


ぽたり、と雫がひとつ落ちた。


『オーブ』と口に出したことで、閉じ込めてきた感情が堰を切ってしまった。
…涙が止まらない。
「おい…?」
レイの困惑したような声が聞こえる。
シンは何も答えられず、ただ差し伸べられた手に縋った。
そして声を殺して泣く。
…ただ、ひたすらに。
レイは黙ってしたいようにさせた。
時々ぽんぽん、と子供をあやすように彼の頭を撫でて。





パタン、と扉を閉める。
廊下の向こうからミーアがやって来た。

「どうしたの?服、濡れてるけど…」
そう言われて自分の服を見てみると、腕と胸の辺りが染みになっていた。
「…いきなり泣き出した」
簡潔にそれだけ告げる。
すると、何か変なことしたの?などと抜かしてきたため、レイはミーアを睨んだ。
「シン・アスカという名前らしいぞ」
「えっ?」
彼が泣き疲れて眠ってしまう直前に、感謝の言葉と一緒に教えてくれた。
ミーアは目を瞬かせ、次にはまた頬を膨らませた。
「レイには教えて、何で私には教えてくれなかったのかしら?」
…信用に欠けるからだろ。
言ってしまうと目の前の彼女は騒ぐだろうし、そうすると寝付いたシンを起こしてしまう。
そのため、レイは思うだけに留めた。
ミーアの目に悪戯っぽさの混じる光が宿る。

「ねえ、綺麗でしょ?あの子」

それは玄関先での会話の続き。
彼女はおそらく、分かっていて聞いてくる。

光を最も吸収する"黒"と、原色の"赤"。

シンは、そんな髪と眼の色を持っていた。
…コーディネイターでも初めて見た組み合わせのような気がする。
涙に濡れた赤い眼は、光に揺れるルビーのようだった。
ミーアは笑う。

「レイも原色ね。サファイアみたいに蒼い眼。あの子はルビーみたいに紅い眼」




けれど彼女の言う通り、"綺麗"だと思ったのも本当・・・














END












あとがき

これはレイシンだ!と言い張ってみる。
出会いとか書くの好きだな私。一目惚れも書くの好きらしい(笑)
初レイシン小説。
ついでに初王道BLCP小説(爆)だってアスキラは1本もないし。
ここまでくれば、きっと意地でも置かないんだろうな(笑)
ほのぼの系なお話目指したはずなのにどこか仄暗い…。
ミーアが黒そう。レイもどことなく黒そう…。シンは黒くなってくれない。
とりあえずレイシンも書こうと思えば書けると分かりました。
連載はたぶん無理でしょうが。
カナキラと混ぜれば書けるかもしれない(…)

2005.1.5


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