連合の新型MS三機の猛攻にキラは苦戦していた。
いくらフリーダムが核エンジンを搭載していてパワーが違うとは言っても戦い方が違いすぎる。
・・・キラ自身は相手を殺さないように戦う。
・・・しかし相手は殺すこと前提で仕掛けてくる。
一対三の戦闘にだんだんと疲労が溜まってくる。
「……っ」
そんな時の…ほんの一瞬の隙だった。
もの凄い衝撃に意識が薄れていく。
それでもキラの手はキーボードの上を走った。
・・・コノ"データ"ダケハ渡スワケニハイカナイ……
-自由の鳥-
ドミニオンの格納庫。
戦闘に出ていた機体が次々に帰ってくる。
アズラエルはそこでMS三機を待ちわびていた。
・・・何しろ今回、ようやく強敵であるMSを捕らえたのだから。
撃墜したのではなく捕らえた、これが最も重要なことだ。
ガシャンッと音を立ててカラミティが最初に入ってきた。
続いてレイダー、フォビドゥンと帰艦してくる。
ここまではいつもと変わらない。
違うのはフォビドゥンが別の機体を持って帰ってきたこと。
オーブ襲撃の際にも散々邪魔をしてくれた白いMS。
これこそアズラエルが待っていたものだった。
ざわざわと周りに集まった整備士やパイロットたちが見守る中、白いMSのハッチが開かれる。
ざわり、と一層大きなざわめきが漏れた。
コクピットで気を失っていたのは少年だった。
年齢はおそらく連合のMSを操るオルガ、クロト、シャニと同じくらいだろう。
連合のMSを駆る三人のパイロットたちはアズラエルと同じく、コクピットに一番近いところでその様子を見ていた。
「…こんな細い奴がコレに乗ってたのかよ?」
オルガは眉をひそめた。
・・・いくらなんでもイメージと違いすぎる。
「あ、コイツ連合のパイロットスーツだ」
ふとクロトが呟いた。
・・・彼らが着ている物とは少し違うが。
「そういえばそうですねえ。ザフトかと思っていたんですが…」
アズラエルは首を傾げた。
この白いMSが核エンジンを搭載しているとすれば、ザフトが打ち込んだNジャマーを無効化するシステムが必要。
それを開発できるのは打ち込んだザフトのみ。
どこか矛盾するような気がする。
「…まあ、調べる時間は多々ありますからね。まずはこのパイロットの顔を拝んでみましょう」
そう言って傍にいた整備士の一人に、少年のヘルメットを外すよう命じる。
指名された整備士はおそるおそる近づいて、そっとヘルメットを外した。
さらりと流れたのは鳶色の髪。
閉じている目から瞳の色を伺うことは出来ない。
しかし一見して少女に見間違えても仕方がないような、綺麗に整った顔をしていた。
誰もが"信じられない"という顔だった。
・・・特にオルガとクロトは。
こんな奴に苦戦していたのか、と言いたげだが事実なのだから仕方ない。
アズラエルも彼ら同様、そんな様子だ。
・・・コーディネイターであろう事は予想の範疇だったが。
「…あ……」
一人シャニだけが別の反応を示した。
「おや、知っているんですか?」
全員の目がシャニに集中する。
「オーブに行った時に会った」
・・・この人物はあの日、何故真夜中にあんな場所にいたのだろう?
今更ながらにそんな疑問がふと頭をよぎった。
・・・敵と分かっていながらその敵に背を向ける。
そんな変わった奴。
シャニがその少年の名前を思い出そうとした時…
『トリイ!』
何だか聞き覚えのある鳴き声が響いた。
「「「うわあっ!!」」」
コクピットから突然飛び出してきた"何か"に驚いて整備士たちが後ずさった。
「あ、あの時の変な鳥」
『トリイ!』
高く舞い上がってもう一声鳴くと、ソレはシャニの肩へと舞い降りた。
「うわ、すげーなコレ…。ロボット鳥?」
「へえ〜こんな小さいのに飛べるんだ。どんなプログラムしてんの?」
オルガとクロトはその"変な鳥"に興味津々だ。
シャニはそんな二人をうざったそうに見ていたが、そのロボットが飛び立たないのでどうにもならない。
一つため息をつくとシャニは鳥の持ち主を改めて見た。
あの時、自分に対して不敵に微笑んだその眼は閉じられている。
この白い機体のパイロットにはとてもじゃないが似合わない。
・・・名前は確か『キラ・ヤマト』
覚えていたことに少し驚きつつ、自分が名前を聞いたんだったと思い出す。
・・・他人に興味を持ったのは初めてだった。
「…じゃあこのパイロットの世話係はシャニにお願いしましょうか」
「………は?」
記憶を探るのに以外と時間がかかったらしい。
いつの間にやら話がめんどくさそうな方向へ進んでいる。
「おや、聞いてなかったんですか?」
「全然」
シャニの返答にアズラエルはこんなに近くで話していたのに、と首を振った。
「この機体のデータにロックが掛かってましてね。そう簡単に解けそうにないんですよ。
まあ、とりあえず本人に聞いてみようかと。何故ザフトの機体に乗っているのかも気になりますしね」
「…だからって何で俺なの?」
「他人よりは知り合いの方が"機密"を引き出せるものでしょうからね」
「……」
第三勢力側もこの白い機体を捕らえられたことでしばらく動かないだろう、とのこと。
戦闘やら何やらのめんどう事はなさそうだ。
しかしシャニだけはここで一つ、それも随分と厄介そうな面倒ごとを背負った。
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