Sympathizer001... はじまりの『マザー』

「…駄目だ。俺はこれ以上近づけない」

「なぜ?エクシアに君を選んだのは『ヴェーダ』だろう」

「分かってる、それでも駄目だ。拒絶されているから」

「拒絶…?まさか君は、」





やっと見つけた。

迎えに来たよ、『ラグナ』







「…いかに『ヴェーダ』といえど、機械だ。記憶は読めても心は読めない」

「『ラグナ』も同じ、か」





俺たちは『人間』だ、

それを忘れるな。







「うっわ、『ラグナ』の機嫌サイアク…」










誰かが【マザー】と呼び始めた、スーパーコンピュータ。
日を追うごとに、科学者が先を追うほどに、進化してゆく科学技術の神髄。
あるときを境に人工知能を越えた【マザー】は、『ヴェーダ』と名付けられた。


Project name『CELESTIAL BEING』


【マザー】である『ヴェーダ』を越えたいと、日々科学を追究する者たちが居た。
彼らの願いは、【マザー】を創造した者たちと変わらない。
だが過激だと忌避されてしまった彼らは、『ヴェーダ』を元に新たな【マザー】を造る。
多くの時間と犠牲を払った【マザー】はその日、『ラグナ』と名付けられた。


Project name『CELESTIAL BEING//THRONE』


【マザー】は非常に賢く聡明で、創り上げた人間の疑問にさえ答えてくれた。
けれど、誰もが【マザー】を完全無欠だと信じていた、ある日。
【マザー】が自身の核(コア)で自問を繰り返し、ショートしてしまった。
どうしたことだと驚いた科学者たちに、【マザー】は答えた。

【誰も私の問いに答えてはくれない】と。

いったいどんな問いなのかと、科学者たちは尋ねた。
科学の神髄を極めた我らが【マザー】の答えられぬ問いは、いったい何なのかと。
【マザー】は答えた。

【なぜ私はたった1人なのか】と。

哲学的な問いに、誰もが首を捻ってしまう。
すると【マザー】は答えを換えた。

【人は、より自分と"共鳴"出来る者を捜し、"共鳴"出来る者同士で理解を深め合う。
 けれど人ではない私には、"共鳴"出来る者などどこにも居ない。
 私を創り上げたあなた方でさえ、"共鳴率"はごく僅か】

【マザー】の言う"共鳴"が、【マザー】独特の個体識別方法だと気付くことは容易かった。
"共鳴者"を捜す方法も、【マザー】が答えを持っていた。
確かに、仲の良い者同士で調べれば"共鳴率"は50%に近づき、逆では0に近い。
極稀にだが、50%を越える者たちも居た。


しかし、【マザー】は人間ではない・・・










『ヴェーダ』の最深層で、ティエリアはそっと目を閉じる。
ここのところ、質問攻めにされてばかりだ。

「また、その話か。もう何度も答えたはずだろう」
【ーーー】
「そうだ。俺だって分からない。おそらくは、誰に訊いても同じ答えになる」
【ーーーー】
「待った、通信だ。…ミス・スメラギ?」

『ヴェーダ』との会話の途中で、オペレーションルームからの直通が入った。
眼前に現れたモニターには、実質的艦長であるスメラギが映る。

『ごめんなさい。今、良いかしら?』
「ええ」
『…スローネの介入行動。"彼"があちらへ戻った後の3つを、調べさせたわ。
確かに、以前よりも死傷者数が減ってる。劇的に、とはいかないけれどね』
「そうですか。ならば…」

画面向こうで、スメラギが頷く。

『ええ、まだ…大丈夫。何とか出来るかもしれない。
あちらの"ラグナ"を止めることも、"刹那"を取り戻すことも、出来るかもしれない』

いや、希望的観測では駄目なのだ。
やらなければ。

今まで刹那と共に戦って来た、すべての者たちのために。

諦めない、


ー 誰も諦めてはいない ー



08.2.11

ラグナ設定の始まりは、こんな感じ。
好きなように書いてるからとても楽しい(笑)

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