Sympathizer002... う ば わ れ た
「どうして…っ!どうしてどうしてどうして!!!」
「おいネーナ!良いから落ち着けって!!」
「いやっ!どうして…っ、出てってよ!にぃにぃも出てって!!!」
「ネーナ!…うわっ?!!」
壊し、投げ散らかされた部屋。
最後にこちらへ投げつけられたのは、砕けた鏡の破片。
危うく自身の腕を掠りかけたそれを避け、ミハエルはネーナの部屋を飛び出た。
「どうして刹那が居ないの…っ!」
叫び過ぎて嗄れた、それは慟哭と言っても良い。
ミハエルの背に響いた声を最後に、扉はピシリと空間を閉ざした。
「……」
防音もそれなりに機能している扉の向こうから、もう叫び声は聞こえない。
けれど微かに、すすり泣くような音が聞こえる。
ミハエルは、この行き場の無い怒りをどうしようかと表情を歪めた。
「兄貴!」
スローネガンダムを建造している格納庫へ向かい、ミハエルは目的の姿を見つける。
呼ばれたヨハンは振り返り、苦笑を浮かべた。
「ネーナはかなり荒れてるようだな」
「かなりってもんじゃねーって。…あんなの、初めてだ」
最初はクッション、次はぬいぐるみ。
その次はタオルで、ノートやらペンやら手当り次第。
コップも鏡も全部壊していて、鏡の破片まで投げつけてきた。
「あの様子じゃ、3日は確実に近寄れないね」
「…そうだろうな」
ヨハンは実際に自分が見たかのように、相槌を打つ。
しかしミハエルは気にしない。
「さっき、『ラグナ』の傍を通った。…昨日よりはマシだったけどな」
「ああ。俺は微かに"聞こえる"だけだ」
CB(ソレスタルビーイング)の派生組織、『Throne(スローネ)』。
その中核を成すマザーコンピュータ、『ラグナ』。
ヨハン、ミハエル、ネーナは、その共鳴者となるべく遺伝子操作で生を受けた。
しかし末のネーナでさえ、共鳴率は50%に届かない。
本家であるCBの【マザー】…『ヴェーダ』とその共鳴者の共鳴率は、90%超。
実質的にはヴェーダのコピーである『ラグナ』も、それだけの共鳴率を持つ共鳴者が必要だった。
「…せっかく見つけた"共鳴者"なのに、何で返すんだよ」
ぽつりと零したミハエルに、ヨハンもため息をついた。
ただでさえ『ラグナ』は、研究者たちとの折り合いが悪い。
「あの子は、『ヴェーダ』に選ばれたパイロット候補らしいからな」
刹那・F・セイエイ。
ネーナよりも年下の、少年兵であった子供。
彼が『ラグナ』の共鳴者であるということは、彼が連れて来られたその日に分かった。
例によって共鳴者について研究者と『ラグナ』が諍いを起こし、それがまた酷い日だった。
いつにも増して攻撃的であったラグナは、その研究者を感電死させようとしたのだ。
止めに入ろうとしたヨハンやミハエル、そして最も仲が良いはずのネーナでさえも撥ね除けて。
『バカ!やめろ!!』
そこへ駆け込んで来たのが、刹那だった。
他の人間に聞くと、この施設に足を踏み入れた途端に"煩い"と言って、『ラグナ』の居る場所へ駆けて行ったという。
…初めて足を踏み入れた場所であるのに。
ラグナの領域は高い電圧で火花が散っており、捕まっていた研究員は本当に死にかけていて。
ヨハンたちは領域へ入ろうとする子供を(まだ名前は知らなかった)止めようとした。
しかし彼が1歩領域へ入った瞬間、凄まじかったラグナの"声"と放電が止んだのだ。
「刹那が来てから、ほんっとラグナは性格変わったよな〜」
「…そうだな。研究員との諍いもなくなったからな」
あれは本当に驚いた。
つまり刹那は、本当の意味で『ラグナ』の共鳴者だったのだろう。
問題は、彼が既に『ヴェーダ』によって選ばれた存在であったこと。
「あいつ、やっと笑ってくれるようになったのに」
「…そうだな」
「ネーナもすっげぇ楽しそうで、それにラグナもずっとマシになったのに」
「……」
刹那は今、宇宙に居るのだろうか。
『ヴェーダ』に選ばれた、CBのガンダムパイロット候補として。
もう刹那には、このスローネに居た間の記憶はない。
スローネは、『ヴェーダ』に気付かれてはならない。
CBの監視者ともエージェントたちとも違う、まったくの別組織なのだから。
『ヴェーダ』だけでなく、本家の人間たちにも気付かれてはならない。
だから封じたと言っていた。
刹那の記憶を。
ひたすらに泣き続けたネーナは、ふらりと『ラグナ』の領域へ足を踏み入れた。
「ラグナ、」
《***》
「…ありがとう。心配してくれて」
《*****》
「うん、寂しい。哀しい。あたしは、刹那に会いたい」
《***》
「…分かってる。絶対に取り戻すわ。絶対に」
ヴェーダなんかに、渡さない。
諦めない、
ー 取り戻してみせる ー
08.8.9
時間軸がばらばらですが。書いた日も離れ過ぎて笑える。
目指せセカンドまでに準備完了!(無理だろう)
前の話へ戻る←/→閉じる