Sympathizer003... 異なる『母』の異なる『子』

今後のミッションについて、それぞれが考えていたときだ。
誰も来ないはずの格納庫の入り口が、突然に開いた。

「誰だ?!」

ミハエルの声が飛ぶ。
現れたのは1人の青年で、ヨハンやネーナも眉を寄せた。
「…1人?」
『侵入者ダゼ!侵入者ダゼ!』
ネーナの足下で、紫色のハロが警戒音を発する。
けれど侵入者であるなら、なぜセキュリティが発動されていない?

「アフリカの奥地、レベルSの自然保護区…ですか。考えましたね。
本家CBの拠点と同程度の、人を介さないセキュリティだ」

現れた青年はぐるりと格納庫を見回し、軽く肩をすくめた。
ヨハンは注意深く口を開く。

「どうやら、素晴らしい腕の持ち主のようですね。
私はヨハン・トリニティ、こっちはミハエルとネーナ。名乗って頂けませんか?」
「失礼。僕はリボンズ・アルマーク。個人的な用件でスローネを捜していました」

薄い笑みを口元に敷き続ける、リボンズという名の青年。
彼は見るからに丸腰(いや、銃は持っていそうだ)で、他の連れは本当に居ないようだ。
にも関わらず、笑みの種類からして余裕を隠そうとはしていない。
今にも食って掛かりそうなミハエルを制しつつ、ヨハンは問うた。
「それではアルマークさん、ご用件はいったい?
…返答によっては、こちらも対処せねばなりませんが」
リボンズが口を開く前に、ハロが飛び跳ねた。

『アッタゼ!アッタゼ!リボンズ・アルマーク!
国連大使アレハンドロ・コーナーノ従者!監視者ノ仲間!
コイツ知ッテンゾ!知ッテンゾ!』
「知ってる?何を知ってるっていうのよ!」

身構えたネーナに、リボンズは答えた。

「知っているよ。ここに『刹那・F・セイエイ』が居ることを」
「「!!」」

危険だ、と即座に判断した。
この男は排除しなければ、自分たちにとって最も大事なものが危険に晒される。

「何しに来たんだ、テメェ!」

怒鳴ったミハエルに、リボンズはやはり笑みを崩さずに答える。

「個人的な用件で、と言いましたが」
「それを答えろってんだよ!」
「言えば会わせて頂けますか?『刹那・F・セイエイ』に」
「なんだと…?!」

誰が、と続けようとしたミハエルを、インカムからの音声が止めた。

【よせ、ミハエル】

ラグナの中枢に居る、刹那の声だ。
それは同じ周波数を設定している、ヨハンとネーナのインカムからも聞こえる。
ハッとインカムに手を当てた3人の様子に、リボンズはわずかに眉を寄せた。
(ラグナ…いや、刹那・F・セイエイ…か?)

【リボンズ・アルマーク、か。構わない、ここまで連れて来てくれ】
「なっ、」
「何言ってるの?!こんな危険なヤツに会わせるなんて…!!」
【…少し、心当たりがある】
「え?」
【ヨハン。ここの情報についてを、そいつに明示させてくれ】
「……分かった」
「兄貴?!」
「ヨハン兄?!」
「何か考えがあるんだろう、彼も。アルマークさん、1つだけ伺いたい」
「どうぞ」
「貴方はここ"スローネ"の情報を、どうするつもりですか?」
「何も。僕が用があるのは『刹那・F・セイエイ』だけ。
何も漏れないことをお約束しましょう」



スローネのマザーコンピュータ、『ラグナ』。
少しずつ薄暗くなっていく通路をひたすらに進むと、不意に先にあった暗闇に点々とあらゆる光が点った。
その中心、入り口である部分に刹那は立っていた。

「…お前が、リボンズ・アルマーク」
「そうです。君とは初めまして、かな。刹那・F・セイエイ…『ラグナ』の共鳴者」

刹那はリボンズの少し後ろで、警戒心を隠そうともしていない3人を見る。
「そんなに警戒しなくても、大丈夫だ」
「でも!」
「…少し、席を外してくれ。後でちゃんと話すから」
「刹那!」
抗議の声を上げたネーナとミハエルを、ヨハンは再び制した。
「分かった。…まったく、うちは我が侭な子どもばかりだな。本当に」
苦笑したヨハンに、ネーナは思ったほど重い事態ではないのだと悟る。
しかし、警戒心を解く理由にはならない。

「ラグナ!刹那に何かあったら絶対許さないんだからね!!」

ネーナの声に応えるように、ラグナから発せられる光が点滅した。
3人の姿が長い通路の扉向こうに消えてから、刹那はリボンズを見据える。


「…お前は、『ヴェーダ』の何だ?」


このリボンズという男から感じる"何か"は、ティエリアのそれと同一。
それが、刹那には気に食わない。

「気づくのが早いですね。でもその前に、ちょっと『ラグナ』を大人しくさせて頂けませんか。
これはさすがに…キツい」

刹那が『ヴェーダ』に拒絶を受けていたのと、同じ状況だ。
…リボンズという男を、『ラグナ』は全力で排除しようとしている。
『ラグナ』の拒絶の言葉は『ヴェーダ』のように言葉を選ばない分、過激だ。
それを知っているから、刹那は素直に実行してやった。

「ラグナ、少し静かにしてくれ」

ピタリ、とリボンズの脳に直接叩き込まれていた罵詈雑言(といっても差し支えない)が止まる。
(これは…凄いな)
その手懐け様は、『ヴェーダ』しか知らないリボンズでも分かる。
「ありがとう。…とんでもないですね、この【マザー】は」
「否定はしない。それで、質問の答えは?」
リボンズは笑みを深め、囁いた。

「僕は『ヴェーダ』の共鳴者。
ティエリア・アーデの後に生み出され、存在を秘匿された者」
「秘匿された…?」
「一度、直接話してみたかった。スローネの『ラグナ』と、その共鳴者に」
「……」
「『ヴェーダ』が君の内に隠された真実を知っていて尚、エクシアのパイロットに選んだこと。
未だに本家であるCBと繋がりがあること。…君自身にも、とても興味を惹かれる」
「…それで?」
「対価は、そちらでは手に入らない"情報"。
僕はスローネ…いや、君とラグナとの繋がりが欲しい」
「なぜ?」
「言ったでしょう?興味を惹かれる、と。
あのティエリア・アーデが、心を砕く存在に。君もそのようだけれど」
「……」
「言い方を変えようか。
今は誰もの目的、イオリア・シュヘンベルグの理念のために力を貸して頂きたい」
「…今は、か」

ティエリアはきっと、この男の存在を知らない。
だが刹那はしばしの沈黙の後、頷いた。

「お前で3人目だ。そんな言い方をして来たのは」

今は、まだ。
ティエリアとは、互いにそう誓った。
(…ティエリア)

リボンズは刹那の返答に満足したのか、作り笑いではない笑みを浮かべた。
そして刹那の前に跪き、彼を見上げる。

「いろいろ聞きたいこともあるけれど、今日はもう満足だ。
だから、感謝の印に"裏切り者の情報"を」

初めまして、


ー 人為ではない同志よ ー



08.3.2

中身が飛び飛びなことこの上ないですが(苦笑)
リボンズは黒幕か灰色か微妙なところが良い。

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