ダブルオークアンタ。
かつてCB(ソレスタルビーイング)と呼ばれた組織が、最後に建造したガンダム。

建造時のデータは、CBに所属していた戦術予報士より提供されている。
だがそれも、もう50年以上も前のこと。
データとは違う形と色をした、同じであるはずの機体。
巨大な花を象る『ELS(エルス)』から分離された何万もの個体が、そのガンダムを歓迎するかのように取り巻いていた。



連邦軍特別顧問カティ・マネキンは、懐かしい思いでモニターを見つめる。
「…あれが、クジョウの言っていたガンダムか」
データと異なる形状と色彩は、『ELS』と同化した故のものだろう。
"対話"に成功したからこそ、他の『ELS』があのような動きをしているのだと。
「マネキン顧問! ガンダムが現れたというのは…?!」
慌てた様子で駆けてくる、白衣の青年が居た。
マネキンはクスリと笑みを零す。
「これはカタギリ博士、お早いお越しだ」
彼は、かつて連邦の技術顧問をしていたビリー・カタギリ、宇宙物理学者であったミーナ・カーマインの息子だ。
父母譲りの聡明さと大胆な発想の持ち主で、30代という異例の若さで技術部の者たちを纏めていた。
カタギリは食い入るようにモニターを見上げる。
「父母とクジョウ叔母が言っていた、ガンダム。これが…っ!」
もうこのコロニーにも、『ELS』との戦いを経験した者は多くない。
大抵の者が退役と共に地上へ降り、マネキン自身も年に数回の割合でしか宇宙には来ていなかった。
(このような出会いを、運命と呼ぶのかもしれないな)
彼女はその場を離れそうにないカタギリを、苦笑も併せて外へと連れ出した。
「さあ、貴公も会いに行こう。あのガンダムのパイロットに」
このコロニーの指令クラスの者たちは、すでに格納庫へ向かっている。

「…ここは随分と進化したな。こんなにも粒子量が増大しているとは」
マネキンとカタギリが格納庫に辿り着くと、美しい容姿をした青年が周囲そっちのけで辺りを観察していた。
他の軍人や技術者たちは、困惑して彼を見遣るのみだ。
「貴公が、ガンダムのパイロットか?」
マネキンの声に青年が振り向き、ふっと笑みを浮かべた。
「いいや。僕はティエリア・アーデ。かつてガンダムのパイロットだった者だ」
「なに…?」
ティエリアと名乗った青年は、集まっている内の何名かを軽く指差す。
「彼らは、僕のことを知っているはずだ。今の僕は、『ヴェーダ』の中に在る」
示された者たちは皆、イノベイドと呼ばれる者たちだ。
それはつまり。
「あなた方に見えているこの肉体も、ここに在る高濃度の粒子で構築したものに過ぎない」
彼もイノベイドであるということか。
ティエリアは『ELS』と同化しているガンダムを見上げた。
「僕は"彼"の支援のために、ダブルオークアンタへ意識を移していた。『ヴェーダ』のリンクシステムと共に」
「"彼"…?」
呟いたマネキンは、ティエリアの視線を追う。
ガンダムのハッチが開き、青いパイロットスーツの人物が降りてくる。
「僕が思っていた以上の時間が、掛かった。だが『ELS』との対話には、それだけの時間が必要だった」
どこか遠くを見つめた視線の先には、ただ1人だけが映る。
「ティエリアが居なければ、もっと掛かっていたかもしれない」
答えた青いパイロットスーツの人物が、ティエリアの横へ降り立った。
「では、貴公が…」
誰もが息を殺してしまうほどの緊張の中、同じく青いヘルメットに手が掛かる。

「刹那・F・セイエイ。俺が、ダブルオークアンタのパイロットだ」

誰もが、驚愕に息を呑んだ。
『ELS』と同化し金属化した、顔と髪。
眼だけが金色に輝き、彼がイノベイターであるのだと告げている。
「…驚かせてすまない。脳量子波だけでは、『彼ら』との真の理解は不可能だった」
喉の奥で、言葉が霧散する。
彼を見た誰もが、あらゆる感傷という感傷を、吹き飛ばされた。

(『対話』とは、これ程までに…)

なんという、覚悟であろう。
なんという、強さであろう。

なんという…。

感激や感動といった言葉は、飛び越えた。
ただ…そう、『心を動かされた』としか、この思いを表現しようが無く。

マネキンは自身が涙を流していることに気付き、慌てて拭った。
「…すまない。年を取ると、すぐに感傷的になってしまって」
彼女だけではない。
思わず涙を零した者、堪える者、それぞれに何らかの強い思いを抱えた。
言葉に、出来ずに。
けれど刹那とティエリアが、それを指摘することは無かった。
「僕たちが見てきたもの、感じたもの、その他のあらゆる情報は、『ヴェーダ』を通して行う。
僕たちがここへ立ち寄ったことには、他に理由がある」
ティエリアの言葉に頷いた刹那が、マネキンの隣に立つカタギリを見た。
「ここに、『ELS』に取り込まれたままの少女が居るだろう」
金色の不思議な揺らめきから目を逸らせないまま、カタギリは頷く。

『ELS』と同化した最初の人類であり、すべての人類への警鐘となった少女。
彼女はあの日からずっと、メディカル・ルームの特別室で眠っている。
いつ目覚めるとも、知れぬまま。

「彼女に、会わせてくれ」

カタギリも、そしてマネキンも悟った。
彼が、何をしようとしているのか。



光を携えた若者へ、


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10.9.24

身の内から溢れ零れる、感謝を。


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