どうして、と彼女は消え入りそうな声で問うた。

どうして、そんなことが出来るの。
どうして、そんな風に立っていられるの。
どうして。

…どうして?

少女の言葉に、刹那は静かに答えた。
「俺は、独りではなかった」
「独りじゃ、なかった?」
鸚鵡返しにも、彼は静かに頷きを返す。

「俺にはティエリアが居た。だから、精神を蝕まれずに済んだ」

そうでなければ、地球圏へ戻って来ることすら出来なかった。
"無音の中の孤独"とは、それほどまでに恐ろしいものだ。

ティエリアは少女へ告げた刹那を、少し離れた位置から見つめていた。
己が笑みを浮かべていることを、自覚しながら。
(…刹那の言葉は、誰もの心に真っ直ぐに届く)
彼は、不確定要素を口にしようとしない。
だからこそ発された言の葉は、真実のみを語るのだ。
(僕も同じだった。刹那が居るからこそ生きることを諦めなかったし、自分は人間だと胸を張れる)
彼は強い。
そして、弱い。
矛盾を抱えて生き抜いて、今もこうして生きている。
彼も、自分も。
(生きていることが最大の幸福であることを、知っている)
2人の視線の先で、少女がずるずると踞った。

【むり、だよ。わたしには、できない。わたしには、ゆるせない…!】

この身体に取り憑いた、『ELS(エルス)』を。
自分を、両親を不幸にした『ELS』を、赦せない。
甲高く消えた少女の叫びは、少なくともマネキンの心情を代弁した。
(それは当然だ。我々とて、受け入れられずにいる)
人類側に攻撃性がなければ、彼らも攻撃はしてこない。
それを利用して人類が"宇宙花(うちゅうか)"を新たな宇宙拠点にしたことも、否定はしないが。
…あの戦いに参加した者たちは皆、散って逝った者たちを忘れない。
忘れないからこそ、赦せぬままに共存しようとしている。
(だが彼女は、我々とは違う…)
少女は否応なく、共存させられてしまった。
それも彼女の身体に。

「赦す必要は無い」

え? と思わず顔を上げたのは、少女だけではなかった。
マネキンもカタギリも、彼らに背を向けている刹那を凝視する。
刹那は、少女へと1歩踏み出した。
「『彼ら』に赦しは要らない。『彼ら』はただ、生を全うしたいだけだ」
そういえば刹那とティエリアが手にしてきた情報を、自分たちはまだ手に入れていない。
マネキンは今更ながらに思い出した。
後で目を通さなければ。
また1歩、刹那は少女へと近づくが、彼女は立ち上がろうとしない。
さらに数歩を歩んだ刹那は、少女の目の前に片膝を付いてしゃがみ込んだ。

「だが、目覚めなければならない理由がある。目を逸らすには、時間が経ち過ぎた」

ビクリ、と少女の肩が震える。
「聴こえているんだろう? 両親の声が」
確信を含んだ問い掛けに、答えは返らない。
それでも刹那は、ただじっと待った。


【…きこえてるよ】


そうして返った少女の声は、泣いていた。



光を携えた若者へ、


ー next ー



10.10.3

めをあける、ゆうきがないの。


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