これは、カティ・マネキンと刹那・F・セイエイの邂逅より、2年前の記録である。


*       *       *


『スメラギ、予定地点へ到達しました』
『船体を木星周回軌道に乗せます』

太陽系最大の巨体を誇る、第5惑星。
よもやこの目で見る日が来るなど、誰が予想したというのか。
クラウス・グラードはブリッジの指令席から、モニターに映る惑星を感慨深く見つめた。
かつて大赤斑と呼ばれた木星大気の渦は、黒々と渦を巻いたワームホールのままだ。
イオ、ガニメデを始めとした多くの衛星も、大部分が『あの日』に消滅している。

『ELS(エルス)』が襲来した、あの日に。

艦の状態を確認し、クラウスは新たな指示を出す。
「軌道修正が完了次第、木星の調査を開始する」
「了解」
これから地球時間で7日間、外宇宙探査艦スメラギは木星調査のため現宙域に留まる。
『ELS』の侵攻が止まってからここに至るまでに、どれだけの時間が過ぎたのだろうか。
(我々は、なぜこうも争ってしまうのか)
地球外生命体の脅威が収まったと思ったら、即座に人類同士の諍いが再発した。
何度繰り返せば良いのかと、諦めかけたことさえあった。
(…それでも、ここまで来たのだ)
50年という期間は短くはなかったが、それでも進歩しているのだ。

レーダーを担当する者が、不意に大声を上げた。
「木星大気圏に小型の熱源を感知!」
「なんだって?!」
最も大きなモニターに、座標と映像が表示される。
光り輝く一点が、明確な意思を持って一直線に飛翔していた。
クルーが固唾を飲んでモニターを見守っていると、不意に対象が動きを止める。
「止まった…?」
いや、こちらに気づいて足を止めたのだろう。
クラウスにはそう感じだ。
光学モニターが姿を捉えようと躍起になっている中、別の者が新たな発見に声を上げる。
「脳量子波を感知しました。かなり強力です!」
意思ある存在。
ならばこちらが取るべき手段は、"対話"だ。
クラウスが次なる指示を出そうとしたところへ、光学モニターが対象の映像を捉えた。
瞬間、ブリッジは無音の空間となる。
「これ、は…」
あの光点が『ELS』でないことは、解析結果から判明していた。
ゆえにあの熱源は、『ELS』が擬態したものではない。

ーーーガンダム、と発された声は、あまりにも掠れていた。



光を携えた若者へ、


ー next ー



11.1.3

この地での再会に、意味が在るなら


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