アロウズは、瓦解した。
そしてソレスタルビーイングは、自らが生み出した歪みを破壊し、再び姿を消した。
* * *
太陽は容赦なく照り付けるというのに、人々は集まった。
アザディスタンという名の、新たな中東の礎となるべき国の誕生を祝いに。
中東の復興は即ち、アロウズを筆頭とした『戦争』からの復興を意味する。
マリナ・イスマイールは、真っ先に再建された王城より宣言した。
かつて己の国が滅ぼしたクルジスも、先の戦いで滅ぼされたスイールも、祖国であったアザディスタンも。
すべての国を1つとして、平和への道を共に歩もうと。
集まったすべての人々から祝福と期待の拍手を受けながら、マリナは応えるように観衆へ手を振った。
(…刹那)
彼は、世界のどこかで聞いてくれただろうか。
どんな時も真っ直ぐに未来を見据え、世界を憶っていた彼は。
控え室へ戻ると、子供たちが駆け寄って来た。
「マリナ様!」
「マリナさま、これ!!」
「え?」
その内の1人から手渡されたのは、真っ白な封筒。
「これは…?」
「さっき、マリナさまにわたしてくれってもらったの!」
「誰に?」
子供たちが、口を揃えた。
「青いガンダムのお兄ちゃんに!」
* * *
舞い上がる砂が酷い。
ジープのハンドルを握りながら、リヴァイヴは隣に座る人物へ声を投げた。
「直接手渡せば良かったのに」
不意にそっちじゃないと言われ、ハンドルを切る。
ややあって、助手席の人物はリヴァイヴの問いに答えた。
「俺がマリナに出来ることは、感謝を伝えることだけだ」
「そういうものかい?彼女、明らかに逢いたがってたと思うけど」
まあ、僕はどちらでも良いけどね。
軽く笑って前方に目を細めれば、砂模様の景色に廃墟が見えて来た。
「あれ?」
「…ああ」
その場所は、他の表現など必要なく廃墟だった。
すでに年単位で廃墟であり、かろうじて残る建物も半分近くが砂に埋もれている。
「……」
ジープから降りれば、胸には懐かしさよりも空虚な思いが過った。
寄せられるように、刹那は当ても無く廃墟の町へ足を踏み入れる。
「刹那」
付いてくる気はないようだ。
リヴァイヴの呼びかけに、刹那はゆるりと振り返る。
彼はやはり、笑んだままだ。
「君の声は、すべての『イノベイド』に届く。彼らは…いや、『僕たち』は。
君の言葉を導(しるべ)として世界に存在するんだ」
連合軍による戦争終結宣言、そして国連による平和宣言が発表された後。
刹那はソレスタルビーイングの旗艦、プトレマイオス2を降りた。
今世界に必要なのは国連と人々の努力であり、ガンダムという"力"ではない。
けれどリヴァイヴは、刹那が単独で行動することを良しとしなかった。
理由は1つではないが、もっとも大きな理由は彼の一存ではない。
だがその辺りの事情を刹那が気にすることは一切無く、だからだろうかとリヴァイヴは思う。
(彼は真っ直ぐだ。だから、その背に誰もが憧れを抱く)
過去を抱き、未来を思い、そのために努力する。
ずっと先の見えぬ未来の為に努力し続けることは、とても難しいというのに。
瓦礫の町は、どこまで行っても瓦礫のまま。
この荒れ果てた地に、再び人が集う日は来るのだろうか。
刹那は周囲より隔絶されたその場所で、1人空を見上げた。
("イノベイター"だとか"イノベイド"だとか、俺にはどうでも良い)
だがリヴァイヴの言葉が真実であるなら、己には責務がある。
(もしも本当に、俺の言葉が導となってしまうと言うのなら)
ならば、語らなければならない。
未来を。
刹那の赤褐色の眼が、金色に輝いた。
それは紛うことなく、
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09.11.15/up 13.4.28
完全にアップ忘れです。書き途中なのを忘れてました…。