世界 は
壊 れる
万
華
鏡 【1】
『お前に力をくれてやろう。その代わり、私の願いを1つだけ叶えてもらう』
あの日に死んだはずの、軍に拘束されていた少女が目の前に居た。
それも自分の家であるクラブハウスに、だ。
ルルーシュは問答無用で彼女を自分の部屋へ連れて行き、問う。
「なぜお前がここに居る?あのとき死んだはずだろう」
ブリタニアの軍人に見つかり、彼女は自分を庇って眉間を撃たれた。
少女は口の端を吊り上げ、にやりと笑う。
「ああ、死んださ。だが私は、人の摂理から外れているからな」
「どういう意味だ?」
「そのままさ。私は正真正銘の『魔女』。お前に与えた力は、その欠片だ」
「魔女だと…?」
いきなり人外へ飛んだ話に、ルルーシュは眉を寄せる。
少女は心外だな、と笑った。
「なんだ、私の与えた力は気に入らなかったか?"お前"と随分違うんだな。…なあ?」
彼女はいきなり、あさっての方向へ話を向けた。
腰掛けているベッドの向こうにある、開け放たれた窓へ向けて。
その視線の先を追ったルルーシュは、ぎょっと目を見開く。
「『俺』…?!」
ふわりと窓辺に現れたのは、紛うことなくルルーシュ自身だった。
真っ黒なローブに身を包んでいる以外は、鏡のように瓜二つ。
…まるで、鏡の中から抜け出て来たかのように。
例えようのない寒気に襲われ、ルルーシュの背筋を冷たい汗が伝う。
後から現れた相手が、少女へ向けて言葉を発した。
「お前たちに育てられた私と比べることが、間違っているんじゃないか?」
ひやりと冷たい笑みを浮かべ、ルルーシュを見る。
声も同じ、姿も同じ。
そう、すべてが。
言葉も出ないルルーシュに、彼はこう言った。
「初めまして。時を同じくして生を受けた、我が弟」
彼は今、なんと言った?
ルルーシュの疑問を読み取ったように、瓜二つの相手は続ける。
「私の名は"ゼロ"。お前と同じく、故第3皇妃マリアンヌを母として生を受けた」
知らなくて当然だ、と言葉を継いだのは、あの得体の知れぬ少女。
彼女は何が面白いのか、クスクスと笑う。
「そう、こいつはお前の双子の兄。産まれてすぐに、我が一族が引き取った。
お前たちの母、マリアンヌと交わした契約の元に」
「どういう意味だ…?母さんとの、契約?」
「お前と結んだ契約とは違うがな。お前はそれを知る権利を持っているが…どうする?」
どうすると問われても、ルルーシュにはどうすれば良いのか分からない。
何もかもが非常識で、頭の回転が追い付かないのだ。
だが権利があるというのなら、聞かなければ後悔するだろうと思った。
「話せ。俺が理解出来るように」
少女は満足げに頷き、話し始めた。
「ブリタニアの皇宮が最悪な場所だということは、お前も身を以て知っているだろう。
お前の母は、自分に子が出来たと知ったときに望んだ。『我が子を守るための力』を」
まっすぐにルルーシュを指差し、告げる。
「お前の右目に宿った力。それを与えることの出来る私が、彼女と契約を交わした。
『力を与える代わりに、お前が産む最初の子を我らが貰い受ける』と。
私の名はC.C.。ゼロの名も、本来はL.L.だ。『ゼロ』という名は、未だ記号でしかない」
双子の皇子として産まれるはずだった、ゼロとルルーシュ。
母が我が子を守る力を望み、先に産まれたゼロは最初から"居なくなった"。
マリアンヌ以外は、双子であったことさえ知らない。
ややこしい上に非常識なことばかりだが、元々一般以上に頭の回るルルーシュだ。
とりあえず表面上だけは納得して、自分と瓜二つのゼロを見遣った。
ゼロは笑みを浮かべたまま、静かに言葉を落とす。
「私の年齢は、お前と同じ17だ。
しかしそこの魔女の『記憶という名の歴史』を、たったの17年足らずで理解させられたからな。
…こういう場合、どうなるんだ?どの年齢がお前と同じになる?」
C.C.へ問いかけ、問われた彼女は首を傾げた。
「そうだな…。差し詰め、『魂の年齢』といったところか」
どうやら、理解することを一時放棄した方が良さそうだ。
額を押さえ息を吐いたルルーシュを見て、ゼロは話を変える。
「ルルーシュ。お前はその力を使って、幾人もの軍人を自決させたな。
そしてクロヴィスの部隊を敗北させた。フフ、どうやら中身は過激らしいじゃないか」
「…何が言いたい」
にやりと笑って、ゼロは問う。
「ブリタニアを、壊したいか?」
鏡と鏡を合わせたら
無限に続く回廊が。
閉じる
2007.10.31
閉じる