鏡  よ  鏡  、
  お  前  は  真  実  を  映  せ  る  か  い  ?








ある人物の帰還は、ブリタニア帝国の皇室に激震を走らせた。
それは1年前に始まり、今も強過ぎる震源地として存在し続けている。

第3皇妃マリアンヌが長男、第11皇子ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。
母である皇妃は8年前、テロリストの襲撃に遭い死亡。
妹である第6皇女ナナリー・ヴィ・ブリタニアは、歩行能力と視力を失う。
後見を失い兄妹揃って日本へ送られ、その翌年。
ブリタニアと日本の間で開戦、彼らは戦闘に巻き込まれ消息不明で鬼籍に入った。

その彼らが、エリア11となった日本で生きていた。
第11皇子はとある事情により1年前に皇室へ戻り、そして…。


「さて、そろそろ貴女の権力も終わりですね。"姉上"」


これは、どういうことだ。
枢木スザクは略式の礼を崩さぬまま、ぎりと奥歯を噛み締めた。

『ナイト・オブ・ラウンズ(円卓の騎士)』
帝国の、特に皇室の上位を護ることを許された、選ばれし騎士たち。
スザクは名誉ブリタニア人でありながらそれを拝命した、特例中の特例。
"殺戮の皇女"という汚名を着せられ殺害された、第3皇女ユーフェミア・リ・ブリタニアの筆頭騎士。
彼は主の殺害犯である世界的テロリスト『ゼロ』を捕らえた、ある意味での英雄であった。

テロリスト『ゼロ』がルルーシュ・ヴィ・ブリタニアであることを知るのは、当事者と皇帝のみ。
薄々感づいているのは、上位継承権保持者のすべてだろう。

ルルーシュはかつて、スザクの親友だった。
ユーフェミアを殺した彼を式根島で捕らえ、当時のエリア11総督コーネリアへ引き渡した。
…今になって、彼を殺さなかったことを悔やんでいる。
ナナリーをあの島へ捜しに来たと言った彼の言葉を思い出し、彼の妹を思い出してしまったことを悔やむ。

「ルルーシュ、貴様…っ!」
「俺は何もしていませんよ?これは貴女が俺を侮った、その結果だ」

皇帝の膝元で、継承順位の10位以上の降格を言い渡された第2皇女コーネリア。
彼女の継承順位は第2位だった。
実妹ユーフェミアの犯した、利益を生み出すための属国を破壊した罪。
それを自身の実力と周囲の支援でカバー出来る程、コーネリアは結果を積み重ねていた。
だが、いつしか積み木の土台は痩せ細り、自身の重さで呆気なく崩れた。

たった1年で、ガラガラと。

怒声を難なく受け流し、繰り上がりで第4位の継承権を得た皇子は皮肉に嗤う。
酷く蠱惑に、酷く愉しげに。


「さようなら。"ブリタニアの魔女"」


力を隠す理由も、必要もない。
あらゆる手段を使いながら、その左眼に宿った力だけは使われたことがない。
スザクはよく知っていた。
だからこそ、なぜこんなことになっているのかと、きつく拳を握り締める。

「悔しいか?苦しいか?俺からすべてを奪った、傲慢と自己愛の騎士」

愉悦に満ちた、透き通るようなテノール。
絶えることのない泉から湧き出る、憎悪と嫌悪に塗り潰された視線。
余すことなくすべてを計算し、"彼"は怨嗟を放つのだ。

「お前が撃たなかったのは、お前の自己愛。お前の偽善。
お前がここに立っているのは、お前の功績。周囲の庇護とお前の自己愛」

"彼"がここに居るのは、彼を殺さなかったから。
"彼"がここに居るのは、彼が皇族だったから。
"彼"がここに居るのは、

「精々、自分を責めることだ。なあ?愚かな偽善者」

『ラウンズ』の称号を得てしまった今、すべての条件が整うことは二度と無い。
『黒の皇子』という二つ名で呼ばれる程に恐れられる、黒を纏った"彼"。
母親譲りの美貌と培って来た知略で以て、美しく嗤いながら"彼"は獲物を嬲(なぶ)り続ける。


「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアである俺を、お前が殺すことは出来ない。
お前に出来ることは、皇族である俺を全力で護り抜くことだけ。お前が積み重ねて来た"正義"なのだから。
どうだ、間違っているか?『ラウンズ』の白き騎士よ」


絶望の果ては、未だ見える気配すら無い。


「…いいえ、殿下。間違ってなどおりません。
この身は貴方の剣となり、盾となり、御身を護る力となりましょう」

命じた彼に対して許されるのは、跪き頭を垂れることのみ。
今日もまた、異母姉を蹴落とし大貴族の家を2つ没落させて、"彼"は上機嫌で本宮を後にした。



"スザク"というファーストネームを誰からも呼ばれなくなって、久しい。
この身が皇帝とその子供たちの剣となり、盾となって久しい。

呼べる名前が無くなって、柔らかな"誰か"の笑顔を見なくなって、それから…。
世界  の  中枢  で

  さ  あ  、  第  2  幕  を  始  め  よ  う  。

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2007.12.30