彩  り  の  炎  、
  汝  は  平  等  に  虚  偽  と  真  実  を  灼  く  。








天をも嘗めんと燃え上がる、紅蓮の炎。
煌々と照らし出された、エリア11サイタマ駐留基地。
勢い劣る気配もなく次々と上がる火柱の中で、その人間は嗤った。
情けないな、と嘲りも込めて。

「なるほど。これがエリア11の現状か」

音もなく集まった、配下の騎士たちへと声を掛ける。
「ご苦労だったな。次はどこが手頃だ?」
「は。ヨコハマを落とせば、シンジュクへの軍事補給路は数ヶ月途絶えるものと」
「フフ、"あの方"の仰った通りか。では5日後に、再び」
「「Yes,your Highness!」」
彼らを見送った人間は、赤々と吹き上げる焔へと呟く。

「"貴方"が最初に起こした行動も、炎を供にしていましたね」



ディートハルトは騎士団幹部が集まるトレーラーで、1通のメールをモニターに映してみせた。
「どうしますか?零番隊隊長」
カレンは画面を見つめたまま、拳を握る。

「…行くわ。いいえ、行かなくちゃならない」

『ゼロ』が消えて1年。
彼が創り上げた『黒の騎士団』は、表立って立ち回れるほどの組織力を失っていた。
キョウトの支援は続いており、エリア11でもっとも大きなテロ組織ということに変わりはない。
しかし『ゼロ』という絶対的なリーダーを失った代償は、予想を遥かに超えたものだった。
…騎士団幹部が原因だとすれば、なおのこと。
カレンは煙管の煙で遊んでいたラクシャータを見上げる。

「紅蓮弐式は、戦えますか?」
「それはアンタが一番良く分かってんじゃないの〜?輻射波動の連発が利かないだけよ」

『ゼロ』が居なくなってからというもの、団員であった主義者たちは半分以上が抜けていった。
同じく主義者であるラクシャータも、『ゼロ』が居なくなったことで急速に感心が薄れたらしい。
あまりやる気を出してくれない。
それは当然、『ゼロ』の革命を記録する、と公言していたディートハルトも同じだ。
カレンは目を閉じ、決意を固める。

「行きます。ヨコハマ基地へ」

騎士団の秘密回線へ送られて来た、1通のメール。
書かれていたのは、命令がただ1文。


『未だ求めるのなら、本日22時、ヨコハマ駐留基地へ来い。 Zero』


つい先日、何者かにより破壊されたサイタマ基地。
そのせいか、ヨコハマ基地の警備は通常の倍は厳重だった。
戦力の分散は難しく、結局ここへ来たのはカレンとディートハルトだけだ。

「紅蓮で乗り込むのは無理ね。地下から行きましょう」

あらかじめ用意させていたジープで、坑道を走る。
「ねえ、ディートハルト。あんたは…『ゼロ』が誰だったか、知ってる?」
ハンドルを握りながら、ディートハルトは肩を竦めた。
「確証を得られないままですが、確信は持っています。…どうやら、貴女はご存知のようだ」
「…ええ、知ってるわ。でも今回のことに関しては、分からない」
「それで良いでしょう、今は。あと数分もすれば判明…おや?」
ジープのヘッドランプに照らされた地面近くで、黒光りするものが動いた。
次には聞き慣れた音が響く。

「止まれ」

銃を構える音だ。
複数の銃口に囲まれ、カレンとディートハルトはジープを降りる。
「名乗れ」
ヘッドランプだけでは、銃を構える人間の上半身を照らし出せない。
「…紅月カレン。『黒の騎士団』零番隊隊長」
「同じく報道担当、ディートハルト・リートです」
複数の影が、逡巡するように気配を揺らした。

「…付いて来い。お前たちが必要だと思うものを持って」

大人しく道なりに歩き、5分は経っただろうか。
突然、瓦礫に囲まれてはいるが広い空間に出た。
誰かがランプを灯し、辺りが仄かに明るくなっていく。
照らされた空間の中心に立っていたのは、紛れもなく、文面の最後に記された記号の人。


「『ゼロ』…!!」


纏う装束も、仮面も、知っているものとは違う。
だがそこに居たのは『黒の騎士団』を率いていたリーダー、その人だった。
『ゼロ』は2人の姿を見て、愉快そうに嗤う。

「推測通りだな。トウキョウの戦力を分散したくないから、戦闘と情報のトップを寄越した」

カレンは堪らず1歩踏み出す。
「ゼロっ、貴方は…っ!」
続く言葉を、『ゼロ』は片手を上げることで制した。

「お前たちが求めるのは私の、この仮面の下ではない。
ブリタニアを破壊すると宣言した私の行動と、経過として生まれる"日本"の復活だ。
そうだろう?カレン・シュタットフェルト。私を裏切った騎士」

違う!と叫びそうになった自分の口を、カレンは咄嗟に塞いだ。
(そうよ、私はこの人を裏切った!誰であっても付いて行くと誓ったのに!!)
ギュッと唇を噛み締め、両の拳を爪が食い込むほどに固く握り締めた。
『ゼロ』は彼女をそれ以上気に留める様子もなく、フッと笑みを漏らす。

「まあ、来ただけでも上出来としよう。ディートハルト、機材は持って来たな?」
「はい。ただ、国際回線に繋ぐには少々時間が掛かります」
「よく分かっているじゃないか。…では、始めようか」


復活の序曲を。
極東  の  属国  で

  貴  方  の  望  み  を  、  叶  え  ま  し  ょ  う  。

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2008.1.12