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向 か う 先 は 崩 壊 と 再 生 の 0 。
『魔人復活』
踊る、文字が踊る。
世界中…そう、ある程度の経済力を持った国であれば、そのすべてで。
「本物だったのかよ、あのメール…!!」
玉城が雑誌を取り落とし、ソファに腰掛けていた扇は深く頭を垂れた。
「他に誰が、あんなことを可能に出来る…?」
記事のトップを飾る、闇ネットワークで流れた映像の一部。
…炎蛇の如く天へ伸びる炎と、朱に照らされた『ゼロ』。
復活という文字の隣に並ぶのは、覇者の道を駆け上がるブリタニアを墜とすもの。
『エリア11ヨコハマ基地、炎上』
ラクシャータが雑誌を拾い上げ、口元を吊り上げる。
「ディートハルトって、本当に良い仕事するわね〜。これで主役が現れてくれたら、最高なんだけど」
雑誌を閉じると、白衣に入れっぱなしだった携帯電話が着信を知らせた。
「あらカレン。ふんふん…、別に良いわよ?暇だし。あら、ご指名なわけ?私も?
藤堂と扇ね。四聖剣は?あら、そう。外で待ってればOK?」
通話を切ったラクシャータはここ1年見なかった、満面の笑みだった。
「副司令とぉ、軍事責任者〜『ゼロ』からのご指名!」
「なんだって…?」
「『ゼロ』が?」
地図を睨んでいた藤堂が、初めて顔を上げる。
ラクシャータは同じく扇を煙管で指し示し、次に外を示した。
「カレンが迎えに来るわ。復活した『魔人』に、ご対面しようじゃない」
カレンの運転するジープで連れて来られたのは、どこかの廃墟。
お次は一言も発さない彼女の後を付いて、自らの足で数分。
不意に通路が現れ、続いて周囲が屋敷であろう建物の内装に変わった。
「『ゼロ』、連れてきました」
大きな扉越しにカレンが声を掛けると、何か装置の動く音が聞こえた。
扉を開けたのはディートハルトで、やはり内装は屋敷らしい部屋。
扇、藤堂、ラクシャータ、そしてカレンを最後に、扉は電子ロックの音と共に閉じられる。
…中に広がる媚びない調度品の数々を見れば、この屋敷の主の品の良さが窺えた。
そして部屋の、連なるソファと中心に置かれた重厚なローテーブル、その向こう。
「お前たちに会うのも、久しぶりだな」
幾人か黒を纏った者を背後に従え、ソファでゆったりと足を組んだ『ゼロ』。
彼はひらりと片手を翻し、来訪者を迎えた。
「適当に掛けてくれ。ここは"私の"拠点だから、盗聴の心配は無い」
「私"の"?」
「そうだ。騎士団の拠点はすでに在る」
「それはどういう…?」
扇の問いを、ゼロは手を上げて制した。
「問いに答えることは容易い。だがお前たちを呼んだのは、お前たちの問いに答える為ではない。
私がお前たちに問いたいことが、そして確かめたいことがある」
カレンはソファには近づかず、扉の傍に立ったままだ。
その視線が『ゼロ』を避け、そして下に向いていることが扇には不思議だった。
(彼女はいつだって、まっすぐ前を向いていたのに)
「ね〜え、煙草吸っても良い?」
「構わない。君には、ディートハルトと同じく個人的に頼みごとをしたいだけだ。
扇、藤堂、カレンには…言いたいことも訊きたいこともあるがな」
「あら、そうなの?」
「ああ。だから、この先の話は無視してくれていい」
「興味がなかったら、有り難くそうするわ」
ラクシャータは、『ゼロ』を前にしても相変わらず。
一向に話が進められる気配はなく、藤堂は仕方なく口を開いた。
「…ゼロ。我々に確かめたいこととは?」
「ああ、そちらが先か?では問おう。藤堂、お前は『私が誰か知っている』だろう?」
「……確証は、ない」
「ではディートハルト。お前は?」
「確証はありませんが、確信を持っています」
「そうか。では扇、お前は?」
「え?いや、まったく…。今の2人の言葉に驚いてる。まさかカレンも?」
「シュタットフェルトは知っているよ。1年前の出来事の当事者だ」
「1年前…?」
「ラクシャータは、特に興味もないようだからな。だから"無視して良い"と言った」
「良く分かってんじゃないの。でも、今のでちょ〜っと気になって来たわ」
ねえ?とラクシャータがカレンを見遣る。
カレンは視線から逃げるように、あからさまに目線を外した。
『ゼロ』は集まった人間の返答に満足したらしく、頷く。
「ならば答え合わせといこう。ディートハルト、お前の知っている"私"は、誰だ?」
ディートハルトは自身が最初に指定されたことを考え、自らが最初に辿り着いた結論を言葉に替えた。
「私立アッシュフォード学園、高等部に在学する男子生徒。名は、『ルルーシュ・ランペルージ』」
扇は驚きの声を、口を塞ぐことで呑み込んだ。
「カレン。お前の知っている、私は?」
答えを即され、カレンはぐっと拳に力を込める。
「…同じクラスで、同じ生徒会に所属していました」
まさか、という呟きは、残念ながら呑み込めなかった。
『ゼロ』は再び頷き、藤堂へと話を移す。
「藤堂、今ので確信出来たろう?お前の知っている、私は」
問われた彼は組んだ腕を外しながら、ゆっくりと答えた。
「8年前、ブリタニアから妹と共にやって来た少年。名は、『ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア』」
今思えば、彼の友人となった枢木スザクと皇神楽耶は、その真名を知らなかったように思う。
素っ頓狂な声を上げたのは、ラクシャータだった。
「うっそぉ?!あんた、あの"閃光"のご子息だったの…?!]
そうか、だから生体医学なんて昔の話を出して来たわけだ。
彼女にしては珍しく、酷く真剣に言った。
「言ってくれたら、もっと真面目に協力したのに」
だが扇はそちらよりも、藤堂の言葉に目を剥いた。
「待ってくれ、"ブリタニア"だって?!」
「うそ…!皇族だったっていうの?!」
どうやら、カレンもこのことに関しては知らなかったらしい。
楽しげに肩を揺らすと、『ゼロ』はディートハルトを見上げた。
「ではディートハルト、仕上げだ。『ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア』は、私か?」
数秒の間を置いて、ディートハルトは首を横に振る。
「…あり得ません」
「はぁ?どういうことよ?」
ラクシャータの問いに、ディートハルトは明確に答えた。
「『ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア』は、1年前に鬼籍から皇族へ復帰しました。
それだけでも異例の処置ですが、与えられた継承権は破格の第5位。
つい先日、第2位のコーネリア・リ・ブリタニアが格下げされたので、現在は第4位」
"黒の皇子"と恐れられ、継承権第1位であるシュナイゼル・エル・ブリタニアと並ぶとも目される第11皇子。
コーネリアを罠に嵌めたのも彼だと、もっぱら事実として謳われている。
『ゼロ』の手が、自身の仮面に伸びた。
「そう。"あの方"は、お前たちのせいで連れ戻されてしまった。
だからボクは、お前たちに逃げ道など与えはしない。せいぜい後悔するが良いさ。
仮面は"あの方"がお前たちに与えた、逃げ道だったのだから。
…確証が欲しければ、3日後のテレビ中継を楽しみにしておけ。お前たちの良く知る者が、映る」
ボクの名はロロ・ランペルージ。
お前たちが裏切った、『ゼロ』の弟さ。
世界 に 復讐 を
裏 切 り 者 に は 、 生 き て 見 る 地 獄 を 。
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2008.2.11