黄金絡繰夢紡

(自由を奪われた鬼が図った、壮大な復讐劇)




幾度にも渡り、繁栄と衰退を繰り返してきた都。
それなりに位の高い者の暮らす通りの中に、人の気配がそう感じられない屋敷が在る。
出入りをするのは何名かの使用人、そして主の男がひとり。
素性の詳しいところは誰も知らぬが、腕も知識も十分過ぎる討伐師であるらしい。

表から居間、寝所と通り過ぎた屋敷の奥の奥。
もっとも清潔に、もっとも頑丈に、そして屋敷の主たる青年が、もっとも頻繁に訪れる部屋がある。
部屋の中央には清潔で上等な寝具が敷かれ、少年がひとり眠っていた。
…いや、正確には"横たわって"いた。
少年は息をしていない、心臓も鼓動を打ちはしない。
「ただいま、エレン」
青年は少年の枕傍に腰を下ろし、声掛ける。
どう見ても死んでいる少年の顔立ちは、かつて青年が執心し、愛し、失った"鬼"の彼であった。

青年の手に遺ったものは、物言わぬ彼の首ひとつ。
ゆえに身体は青年が具合の良い部位を探し出し、時に生きている者から奪い取り組立てた。
そして新たに学び始めた術を用いて、腐らぬように細心の注意を払う。
ゆえに彼の身体は腐らない、朽ちもしない。

「エレン、俺のエレン。早く戻って来てくれ」

死体に話し掛ける様は、誰が見ても狂乱した者としか見えぬ。
しかしこの屋敷に居るのは青年と青年の式、その他は誰ひとりとして此処には入れぬ。
誰が咎めようというのか。
「身体は直した。だからさっさと戻って来い」
標が無いと云うのなら、黄泉から戻る道筋を照らしてやろう。
死者が道を通さぬというのなら、その骸をすべて蹴散らしてやろう。

「エレン」

御仏も閻魔も、男には何の意味も無い。
浄土も黄泉も、男には何の意味もない。










これは、鬼を愛した男の哀れの噺。



---おうごんからくりゆめつむぎ end.

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2014.1.5
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