視界の隅で、白い煙が上がった。
(煙? いや、これは…)
蒸気だ。
発生源などひとつしか思い当たらない。
目を見開いたリヴァイの触れる先、エレンが閉じ籠る水晶。
驚くほどの速さで融けて消えていく水晶の殻、蒸気の内側から白い指先が伸びる。
息を呑み、リヴァイはその指先を確(しっか)と握った。
「エレン!」
瞬く間に水晶は消え、後にはエレンの身体だけが残る。
彼の身体を抱き起こせば、弱々しくも指先がリヴァイの手を掴むように震えた。
閉じられていた瞼が、ゆっくりと開かれる。
望んで止まない金色が、リヴァイの姿を静かに捉えた。

「リ、ヴァイ…へいちょう…」

拙い声が、己の名を呼ぶ。
(ああ、)
自覚した瞬間、リヴァイはエレンの身体を掻き抱いた。

体温が在る。
呼吸が在る。
心臓が、鼓動を刻んでいる。

「エレン…っ!!」

生きていた。
生きている。
エレンは、ここに居る。

ひたすらに自分の名を呼ぶリヴァイに、エレンはゆるりと微笑んだ。
「へいちょ…の、声が、きこえたんです」
呼んでいたから、呼ばれていたから。
そしたらそこに、あなたがいた。
ふわりと笑って告げたエレンに、口づけが与えられる。
地下牢に入れられ枯れてしまったエレンの心に、また溢れてしまう程の愛が惜しみなく注がれる。
「ねえ、へいちょう」
まだ、ねむっていても良いですか。
「なんか、すごくねむくて。あとでちゃんと、おきますから」
自分を抱き締める力が、強まった。
「…構わん。あんまり寝過ぎてるようなら叩き起こしてやる」
低くなった声は少し怖かったけれど、起こしてくれるなら大丈夫だ。
「ねえ、へいちょう」
でも眠る前に、ひとつだけ。
「何だ」
いつもの不機嫌そうな顔で、エレンを見下ろす愛しい人へ。

「ただいま、もどりました」

帰ってきたと伝えれば、一瞬だけ呆けた彼(か)の人は微かに笑った。
とても珍しいものを見たような気がする。
「…ああ。よく戻った」
彼の声音もとても優しかったので、エレンは安心してその目を閉じた。
(おやすみなさい、リヴァイ兵長)

「おやすみ、エレン」

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未来を、