拝啓、蒼穹の彼方より

2.年齢の話(サンダルフォン+みかつる+α)




珈琲を飲み終わり、そろそろ他の者も来る頃だ。
使ったものを手早く片付けたサンダルフォンは甲板へ出る。
とはいえ現在は寄港中のため、空はあまり見えない。
「なあサンダルフォン。まだ時間はあるかい?」
自室へ戻らないことを見て取った鶴丸が、声を掛けてきた。
彼は自分自身だと言った刀を掲げてみせる。
「きみ、剣士だろう? 俺と手合わせしてくれないか?」

騎空挺グランサイファーを駆る騎空団は、乗組員が思っている以上に名が売れている。
そのため、メンバーが艇を降り始めるとひょいひょいと依頼が舞い込んでいた。
ある程度パーティは固定されているため、グランが決めずとも各々で依頼を受けてしまうこともしばしばだ。
そうして勝手に依頼を請け負い遂行し最初に艇へ戻ってきたのは、パーシヴァルとヘルエスの貴族コンビ(命名:グラン。片方は王族だが)だった。
「なんだ?」
グランサイファーの周りに、まだ早朝だというのに人が集まっている。
「良いぞー! 白い兄ちゃん!」
「黒い兄さんも負けるなァ!」
どうやら、グランサイファーの甲板で誰かが手合わせをしているらしい。
「どなたでしょうか。団長殿ではないようですが」
2人は顔を見合わせ、グランサイファーへと乗り込んだ。

百余名を抱えるグランサイファーは、造り主である星晶獣ノアが一行に加わったことで幾度も改良を加えられている。
甲板の一部は手合わせをしても船体が傷つかぬよう、補強が施されていた。
その部分はちょうど港側に寄せられており、観客がつく要因になったようだ。
パーシヴァルとヘルエスが足早にそちらへ向かうと、小気味良い剣の音が響いてくる。

「後ろだぜ!」
「甘い!」

キィンッ、ガキンッ! と剣と刀がぶつかっていた。
刀は白い男が。
刃の長い剣は黒い男が。
「あれは、鶴丸殿と…」
「サンダルフォンだな」
ひらりひらりと、鳥のように鶴丸の白の装束が舞う。
サンダルフォンの剣が、時折手元で驚くような動きを見せる。
パーティが違うためにパーシヴァルもヘルエスも両名の戦いを間近で見たことがなく、ただ魅入っていた。
「あの細い腕であれだけの力が出るのか…」
「光の剣でなくても、サンダルフォン殿の剣の腕前は相当なのですね…」
彼らの呟きが聞こえたのだろう、脇で同じく見学していた青い装束の男が2人に気がついた。
「おや、そなたらも見物か?」
このやたらと美しい男は、確か。
「三日月宗近殿、でしたね」
「さよう、ヘルエス殿。そちらは…」
「パーシヴァルだ」
覚えていないのも無理はない、言葉を交わしたのは初めてだ。
三日月はにこにこと笑った。
「そうかそうか。ここは人が多いからなあ、爺は覚えるのが大変だ」
「…その見た目で爺だと?」
訝しく問い返したパーシヴァルに、三日月はにまりと口角を上げた。
「ここに5人、人が居るな。俺と鶴丸、サンダルフォン殿、ヘルエス殿、そしてパーシヴァル殿だ。
さて、5人の平均年齢は幾つかな?」
唐突だ。
しかしただの戯れだ、手合わせを見ながら思考を飛ばす。
「…およそ30ではないのか?」
「いいえ、パーシヴァル殿。サンダルフォン殿は二千年前に創られたと話していたはずです」
「原初の星晶獣か、そうだったな。となると、プラス2000で2120…」
「平均値は424年ですね」
なんという数字だ。
三日月を見ると、彼はクスクスと笑い声を漏らした。
「不正解だなあ」
どういう意味だろう。

2人から視線を外した三日月は、優雅な所作でパン、と柏手を鳴らした。
それは手合わせ中の2人の気を惹くに十分な音。
「鶴丸」
「何だい? 三日月」
間を取って剣を止めた鶴丸へ、三日月は尋ねた。
「そなたは何年前に打たれた刀だったかな」
彼を見、隣に居るパーシヴァルとヘルエスを見、大体の事を察したらしい。
鶴丸はにやりと愉しげな笑みで返した。

「四捨五入して千と百だ」

は、とパーシヴァルとヘルエスの口が開く。
三日月はそんな彼らを見返り、さらに続けた。
「俺もおよそ千と百年前に打たれた刀だ。さて、この場の平均年齢は幾つだ?」
開いた口が塞がらない。
「…852だ」
そんな馬鹿な。

気が削がれ、サンダルフォンは剣を納めた。
「終わりか。俺は部屋へ戻るぞ」
「楽しかったぜ! また俺と手合わせしてくれ」
「…気が向いたらな」
まあ、それなりに楽しかったことは否定しない。
港側になぜか人が集まっていて、騒がしくなっている。
「待て、サンダルフォン」
違う声に名を呼ばれ、今度は何だと振り返った。
「俺と手合わせしろ」
パーシヴァルと名乗った男は、断るとどうにも面倒そうな気配がする。
サンダルフォンは小さく溜め息を吐いた。


End.
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2018.4.28
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