穹(そら)の旅路より愛を込めて

2.ハッピーエンドメーカー!(コルワ+ルナール)




「やっぱりハッピーエンドでしょ!」
それはコルワの口癖だ。
すでに慣れたもので、ルナールはコルワの突然の言葉に驚いたりしない。
「今度は何事?」
彼女の服のデッサンは、絵師として参考にすべき手本だ。
ルナールは時折彼女の自室兼工房を訪れては、デッサンを見せてもらったりお茶をしたりと過ごしている。
「私が時々、団員の服の修繕をしていることは知ってるでしょ?」
「もちろん」
「それで、この間ルリアの服の修繕をしていたの。ついでに彼女と話をしていたのだけれど」
コルワは手にした羽ペンをずい、とルナールへ突き出した。
「サンダルフォンよ! まさか身近にバッドエンドが存在しているなんて、盲点だったわ…!」
「サンダルフォン?」
サンダルフォン、覇空戦争の遥か以前に生み出された原初の星晶獣たる『天司』。
空の島々を落とそうとした大罪人。
そして空の世界を滅亡させんとする『ルシファーの遺産』を破壊するために同乗する、仲間。
始めこそ敵意と怒りしか彼に向かなかったものの、天司の因縁に間近で関わったグランサイファーの面々にとっての彼は後者だ。
お人好し団長とその取り巻きであるグランサイファーの面々は、サンダルフォン本人が呆れるくらいにお人好しだ。
コルワもルナールも、絆されている自覚があるので否定はしない。
「もしかして、『天司長ルシフェル』の話?」
「そう! 盲点も盲点よ。そもそも彼らの思考と私たちの思考が、同様のラインにあるって考えが間違ってたんだわ」
「『空の民』と、『星の民による被造物』の違いね」
「ええ。しかもルリアの話を総合すると、サンダルフォンはその中でも異質なのよ」
「異質?」
「私たちの感情を置いて、事実だけを言うと。
天司とは役割ありきの存在で、役割がないイコール存在価値がないということよ」
サンダルフォンは、生み出されたものの役割がなかったという。
「…うっ、ちょっと待って、そこからすでに辛いわ…」
「待たないわよ。しかもサンダルフォンは、天司長ルシフェルに造られた天司。
他の天司はおそらく、全員がメイドイン星の民」
「メイッ…、いきなり笑いを入れないでくれる?!」
「聞けば天司長ルシフェルは、『進化を司り、見守る』役割だったそうじゃない。
この場合、『天司長』という役職と言うべきかしら」
「そうね」
「私、常々思ってたのよ。サンダルフォンって人間らしいなって」
ルナールは艇内で見掛ける彼を思い返す。
「確かに…」
「推測でしかないのだけど。進化を司る天司長が造ったから、サンダルフォンも進化する空の民に似たんじゃないかと思うのよ」
「あっ、なるほど」
「ここまで聞いて、どう? サンダルフォンは天司の中でたった一人、空の民に近い。
だから四大天司たちと比べても凄く感情豊かで、星の民の被造物である天司長は彼の感情の機微が解らなくて。
だからこそサンダルフォンの天司長への愛情は、憎悪に塗り替わって…」
「あああああ、ヤメテーっ! なにその同人誌展開! そんなの紙面上だから許されるシリアスよっ!!」
ルナールだって同人誌を描く身だ、シリアス展開だって描く。
けれどどちらかと言われたら、読み終わってホッと出来るものの方が好みだった。
「で、ここからが本題なのだけど」
「えっ。まさかここまでの推論をハッピーエンドに持っていくわけ??」
コルワは苦笑した。
「さすがにそれは無理かしら。さっきの推論、我ながら9割がた正解だと思うし」
何より、彼ら天司の感情と思考が、どうにも想定しにくいのだ。
「でもね。ここまで推測して、私思ったのよ。災厄が冒険活劇にされて、サンダルフォンの役どころって『邪神』でしょ?」
そういえばそうだった。
二度目の空の異変も、初めはまた彼の仕業かと思ったものだ。
「まあ、間違ってはいないと思うけど」
ルナールが答えると、コルワはちっちと指を振る。
「さっきの私の話を前提にしてみたら、どう?」

チッチッチッ、チーン。

「無理っ!!!」
全力で叫んだルナールは、両手で顔を覆った。
「無理、無理だわ! ていうか邪神はあの黒衣の男とベリアルというか、ルシファーって星の民だと思うけど!!」
「それよ!」
我が意を得たり、とコルワはビシリと羽ペンを掲げた。
「初めは邪神と言われても仕方ないことだったけれど、今のサンダルフォンは立派な『天司長』よ?
彼に何かあったらまた島々が落ちるし、何よりさっきの推論が正解なのに、それを知らずに『邪神』扱いも酷いと思わない?」
中々に勝手なことを言っているが、想像は誰にも自由である。
「ねえルナール、この話を題材にして同人誌作りましょ!
ハッピーエンドに出来ずとも、せめて希望のあるお話にして私は心を落ち着かせたいの!」
気持ちは分かる、分かるのだが。
「む、無理よ…! コルワ、分かってる?!
サンダルフォンだって相当な美形なのに、ルシフェルはその上を行く美形よ?!!」
描けるわけないじゃない! とルナールは叫ぶ。
「だって私、漫画も小説も書けないわ…!」
コルワも負けじと叫ぶ。

2人がわーわー言い合っていると、ノックの音が響いて我に返った。
「ど、どうぞ」
「お邪魔しまーす。どうしたの? 何か言い争ってたみたいだけど」
「ヒートアップしてたなぁ」
グランとビィだった。
コルワとルナールは顔を見合わせる。
「ねえグラン。漫画とか小説を書ける人、誰か知らないかしら?」
「え? ルナールじゃなくて?」
「私じゃ描けないの…」
「そうなの?」
詳細を聞いていないグランとビィは、顔を見合わせた。
「漫画や小説じゃなくて、ええと…脚本家とか」
「そうね。絵本作家とか、劇作家でも良いの」
何やら必死らしい。
グランは首を捻った。
「うーん……劇…脚本……あっ」
ビィも同時に声を上げた。
「あいつ、そんな知り合いが居るって言ってたな!」
「あいつ?」
「ロミオだよ。祖国に復興記念の劇場が出来たって言ってて。
えっと、そのこけら落とし公演の脚本を書いたのが、歳の離れた友人だって」
「それよ!」
「それだわ!」

かくして偶々グランサイファーに立ち寄っていたロミオが彼女らの談義に強制召喚されたわけだが、結果はいかに。


End.
(実際に上演されたら、女性に絶大な人気を誇ることでしょう)
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2018.6.20
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