穹(そら)の旅路より愛を込めて

3.もっと!ともだちの話(ルナ+みかつる+フェリ)




フェリが彼女を見掛けたのは、その日が初めてだった。
「ん? あの子は…」
犬のようなぬいぐるみを抱いた少女は、この艇に乗るメンバーの中では新参の。

「なあ、君」

甲板には自分以外に誰も居ないので、ルナは声の方を振り返った。
「お姉さん、誰?」
獣耳をした青と白の服の女性は、膝に手をついて身を屈める。
「私はフェリだ。話すのは初めてだな」
確かに、初めてだ。
「私ルナっていうの。何か用?」
「ああ。ちょっと聞きたいんだが」
彼女はルナの頭の後ろを見ていた。
「そこの2人は、君の友達なのか?」
ルナは大きく目を見開く。
「パパとママが分かるの?!」
「へえ、君のご両親なのか。私もな、幽霊の友達が居るんだ。ほら!」
犬の姿の悪霊と、丸っこい小さな悪霊がフェリの後ろから顔を出す。
「こっちがモモで、こっちがニコラだ」
それに目をキラキラと輝かせたルナは、ちょうど船室へ繋がる扉から出てきた人物を目の端に捕らえ、咄嗟に足が動いた。

「ちょっと待ってて!」

パッと彼女が駆け出していった先には、白い髪に白い装束の青年。
「鶴丸!」
「おわっ?!」
後ろから突進され、鶴丸国永は体制を崩した。
「おっと…。大事ないか?」
彼と共に外へ出てきていた三日月宗近が横から支え、倒れることは免れる。
「すまん、三日月。ルナじゃないか、どうした?」
足にしがみついている彼女を見下ろすと、やけにキラキラした笑顔が鶴丸を見上げていた。
「あのね! あのお姉さん、パパとママが見えるって!」
ルナの指差した方向に居るのは。
「おや、フェリ殿」
三日月の反応の方が早かった。
「三日月じゃないか。…そうか、そっちの彼が『鶴丸』か」
「うむ」
さすがの鶴丸も、状況が分からない。
「えーと…?」
とりあえず、こちらの服を掴んだままのルナを見下ろす。
「ルナ。俺以外にも、きみのご両親が見える人が見つかったのか?」
「うん、あのお姉さんが!」
え、と思わずフェリと三日月を等分に見遣るが、鶴丸はフェリと初対面だ。
彼女は連れている半透明の獣の頭をぽんと撫でた。
「私はフェリ。ちょっと前まで三日月と同じパーティで出撃していたんだ。でも、『鶴丸』の話は三日月からよく聞いてる」
「そうだったのか。きみ、いったい何を話したんだ…」
「うん? 鶴丸が如何に格好良くて美しい刀か、という話だなぁ」
言葉が出てこなかった。
だが反論しようにも、鶴丸も最近知り合ったサルナーンに似たような話をしているので、お相子というやつだろう。
「まあいいか…。俺は鶴丸国永だ。フェリは幽霊が視えるのかい?」
問えば、彼女は苦笑した。
「視えるというか…私が幽霊なんだ」
「……足があるぞ?」
「そうなんだけどな…」
至極当然の疑問を出した鶴丸に、フェリが答えたことを要約すると。
星晶獣セレストに取り憑かれた島では、死を迎えても魂も肉体も昇天出来なかったという。
中でも強くセレストの影響を受けていたフェリは、肉体の時間経過すら無いものにされた。
グランサイファー一行がセレストを鎮めたとき、島の住人たちと共に彼女も遅い昇天を迎えるはずだった。
「セレスト以外にもたくさんの星晶獣の力を抱えたルリアが居て、それから…推測なんだが、私をよく知っている人が居て。
それに団長たちが居て。私が外の世界へ行きたいと願っていたことを皆が知っていたから、私は皆から奇跡を授かったんだ」
奇跡。
まさにそのとおりだろう。
「なるほど…。そしてきみは幽霊だから、幽霊が視えるのは道理か」
フェリのことは分かった。
ならば次は、と鶴丸は再びルナに目線を合わせた。
「それで? ルナはどうしたいんだい?」
彼女はやはりキラキラとした表情で鶴丸を見て、フェリを見る。
「パパとママがね、鶴丸と同じならお友達になれるって!」
それに、とルナはフェリへと尋ねる。
「幽霊なら、殺さなくても良いよね?」
なぜ彼女の口から『殺す』という物騒な単語が出てくるのかは分からないが。
「…まあ、私はもう死んでいるからな」
フェリは仕方のないような苦笑しか返せない。

「ねえ、お姉さん。ルナとお友達になって!」

可愛らしい少女の可愛らしいお願いに、フェリはもちろん、と破顔した。
ルナの前に難儀した団長その他の苦労は、彼女には総スルーである。
「団長が悔しがりそうだなあ」
「ははっ! そう言ってやるなよ」
鶴丸はフェリの連れる使い魔たちが気になるらしく、ちょっと触らせてくれ! と早速構いにいった。
「よきかな、よきかな」
仲良きことは美しきかな。
三日月も鶴丸に倣って、フェリの使い魔に手を伸ばした。


End.
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2018.6.20
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