授けるアポリア

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たまに、それは本当に極稀に、目撃することがある。
何かを思い出すように遠くを見て、穏やかな笑みを浮かべるサンダルフォンの姿を。
(『向こう』はきっと、)
過ごしやすかったのだろう。
心穏やかでいられたのだろう。
いつも、張り詰めた糸のような彼しか見ていないから。
だからグランもルリアも、それが判ってしまう。
(言ってくれれば、良いのに)
天司長という大きな役割を受け継ぐ彼が、穏やかでいてはいけないのだろうか。
心安らいではいけないのだろうか。
(僕らの声では、届かないんだろうか)
『向こう』の人たちの声なら、届くのだろうか。

だから彼らも、サンダルフォンを放っておけなかったのだろうか。

彼は出会った初めから、ひと振りの剣を帯刀していた。
『向こう』から戻ってきた彼はもうひと振り、刀を帯刀するようになった。
誰が見ても上等なその太刀を、彼は時々こう呼んでいる。

『    』


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2018.11.11
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