授けるアポリア
4.
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・活劇(カツゲキ)…K
六星本丸の内、活劇アニメ準拠本丸とその審神者、刀剣を表す。
刀剣はすべてnot極。ただし練度上限無しのため、すべての刀剣が練度100オーバー。
審神者と刀剣の同時派遣や、6名編成の部隊に関して実験役を担った。
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・花丸(ハナマル)…H
六星本丸の内、花丸アニメ準拠本丸とその審神者、刀剣を表す。
刀剣は短刀を中心に極混じり。審神者が極度の引き篭もり。
刀剣がどこまで人間らしいのか、審神者の影響を受けるのか、刀剣たちの情緒関連を主に研究している。
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・明星(アカボシ)…A
六星本丸の内、リーダー役を務める本丸と審神者、その刀剣たちを表す。
一般審神者で実装されていない槍・太刀・大太刀まで、すべての刀剣が極となっている。
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・輪廻(リンネ)…R
六星本丸の内、もっとも神々に近い本丸と審神者、その刀剣たちを表す。
新選組の刀も含めすべての刀剣が霊力を内包、またそれの扱いに長ける。
その特性故に、御神刀(元も含め)たちが人ではなく神様寄り。
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・閃火(センカ)…S
六星本丸の内、もっとも戦闘に特化した本丸と審神者、その刀剣たちを表す。
審神者もガチの戦闘系であり、刀剣たちも重火器を扱う。
一般審神者で実装されているすべての刀剣が極のLv99であり、実質的戦力トップ。
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・技巧(ギコウ)…G
六星本丸の内、やたらと科学的芸術的な本丸と審神者、その刀剣たちを表す。
時間遡行装置やこんのすけシステム等、大体の機器はすべてこの本丸産。
閃火本丸の時間遡行で重火器持ち込みを可能にしたのもここ。
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*hexagram only log_22xx/10/xx_x5 No.(3221009)
K:大変です。うちの第二部隊が、異世界に行って帰ってきました。(time_23:03)
H:kwsk! (time_23:03)
A:おい…即レス過ぎんだろ。(time_23:07)
G:花丸は相変わらずネット警備してんねー。(time_23:08)
H:外野は放っといてkwsk!!! (time_23:08)
K:せっかくですし、集まりませんか?(time_23:10)
H:エッ (time_23:10)
S:賛成! 酒盛り! (time_23:11)
A:んじゃ日付決めるか。端末持ってきゃ部隊派遣はいけるだろ。(time_23:12)
R:了解しました。どこで集まります? (time_23:14)
K:…というわけで花丸さん、諦めて出てきてくださいね。(time_23:15)
H: (time_23:15)
H: (time_23:16)
H:………ハイ (time_23:20)
H:近侍の長谷部に「観念して行きましょうね」って良い笑顔された…(´・ω・`) (time_23:22)
G:www
A:www
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*hexagram only log_22xx/2/xx_x1 No.(2956559)
A:独り言だからレスはいらねえ。 (time_04:32)
A:どうも上の方で漏れてるっぽいぞ。 (time_04:32)
A:技巧、俺らの装置を全部切り離しておいてくれ。 (time_04:32)
G:了解。切り離した。 (time_05:01)
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*hexagram only log_22xx/2/xx_x7 No.(31510)
R:例の時間軸の隔離が完了したそうです。 (time_09:10)
R:パラレルワールドがどうなるか、私たちに知る術はありませんが。 (time_09:11)
A:そうか。了解した。(time_09:20)
H:…了解です。(time_09:20)
G:了解。(time_09:21)
K:了解しました。(time_09:22)
S:了解。(time_09:23)
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*hexagram only log_22xx/7/xx_x2 No.(2956329)
A:輪廻、全部遮断しろ。 (time_00:45)
A:俺の本丸は最後で良い、引き付けとく。 (time_00:45)
A:各位、迎撃。 (time_00:46)
S:迎撃完了した。部隊で援護送る。輪廻、出来るか? (time_01:30)
R:結界を結合しました。閃火さんのところから全部飛べます。 (time_01:34)
R:敵部隊を凍結捕縛しました。明星さん、例の担当を。 (time_02:22)
A:了解した。ひとまず三日月と髭切を行かせる。 (time_02:35)
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・秩序(チツジョ)…C
六星ではないが、活劇審神者の支援を受けて可動を開始した本丸とその審神者、刀剣を表す。
神様でも御使いでもないそうで、我が国の神々と相性が悪いとかそんなことはまったくなかったです。なんですかあれ。
※追記 羽のある人間ってほんとに居るんだな…(A)
※追記 ァアアアアア創作版に書いてきて良いですか?!(H)
※追記 花丸落ち着けよwwwていうかうちのが描きたいって騒がしいwww(G)
※追記 なあ、どうやったらこいつと手合わせできる?(S)
※追記 神々しく荘厳…ぜひうちに来て下さい。あと新結界開発しますから勝手に乗り込むのはいけませんよ。(R)
※追記 勧誘禁止です(K)
※追記 なぜ俺の名前が『秩序』なんだ?
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*hexagram only log_22xx/4/xx_x7 No.(3221908)
A:おい、秩序居るか? (time_08:10)
C:呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん! 信濃藤四郎が承りますよ! (time_08:12)
A:……いや、お前、ほんとそのノリなんなの…? (time_08:13)
H:どちらかといえば物吉が言いそうな台詞だぁ…。 (time_08:13)
C:あ、花丸さん。前に編集頼まれてた水鉄砲大会の映像、編集終わりましたよ。 (time_08:14)
H:!!! ちなみに今回の編集はどんな…。 (time_08:14)
C:鶴丸さんプロデュースの伊達'sスタジオです! (time_08:14)
H:MAJIDEKA!!!! 超楽しみにしてる!!! (time_08:15)
A:…おい、本題に入らせろ。 (time_08:16)
C:あ、すみません今「すまない、明星。要件は何だ?」 (time_08:17)
A:? ああ、音声入力か。 (time_08:17)
C:そうだ。きーぱっど? に慣れるのに時間が喰われそうだからな。 (time_08:18)
A:そっちにはAIすら無いんだっけか。訊くだけだと不便そうなんだけどな…。 (time_08:19)
C:それで、要件は? (time_08:20)
A:ああ、すまん。お前のヴァーチャーズで通信網作れないかって話の続きだ。 (time_08:20)
C:俺にしか意味がないから他では使えない、という結論で終わったのでは?(time_08:21)
A:そうなんだが。発想をスタートに戻して、ヴァーチャーズにうちの式神をくっつければ良いんじゃねーかと思ってな。(time_08:22)
C:式神…。お前たちの使い魔のことか。(time_08:24)
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*hexagram only log_22xx/9/xx_x1 No.(3221967)
S:おい、あいつ早々にゲロったぞ。呆気なさすぎだろ。(time_22:21)
K:閃火さんが規格外なんですよ。自分でドンパチしたことないでしょうし。(time_22:23)
A:ま、権力持ってる点は一般じゃねーが。技巧、首尾は?(time_22:24)
G:上々。ホコリが出る出る。てか秩序クンとこの信濃と鯰尾ヤバイ。(time_22:24)
H:…技巧にヤバイって言われるの、相当ヤバイのでは。(time_22:25)
G:うちの槍組とタメ張るわ、アレ。(time_22:25)
H:技巧産スズメバチに張るの?!(time_22:25)
A:…やっぱ秩序、誰かに気に入られてんじゃねー?(time_22:27)
K:それはないですよ。私も気になって、輪廻さんに調べてもらいました。結果はシロ。(time_22:28)
G:おー、うちのスズメバチ共が煽られてらw(time_22:30)
G:あらかた抜いたから共有するぜ。(time_22:33)
。。。download...
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*hexagram only log_22xx/2/xx_x8 No.(3222221)
C:後々証拠が必要そうだし、ここに記録しておく。(time_07:30)
C:六星の音信不通から60分が経った。こちらも同じ軸へ出陣する。(time_07:31)
C:出るのは審神者…サンダルフォンと、小竜景光、信濃藤四郎、物吉貞宗の4名だ。(time_07:32)
C:残りの刀剣3枠は、俺たちが音信不通になった場合に備えて空けておく。(time_07:32)
C:残り3枠の刀剣は、鶴丸国永、謙信景光、堀川国広だ。(time_07:33)
C:ああ、刀剣はみな練度99だ。(time_07:34)
C:六星それぞれの本丸に、ヴァーチャーズが居ると思う。何かあればそれに話し掛けてくれ。(time_07:34)
C:ヴァーチャーズは俺への一方通行だが、時間遡行しても通じるのは検証済みだ。(time_07:35)
C:…さて、行くか。(time_07:37)
%#$**@:明星本丸、鶴丸国永だ。六星を代表して、貴公にお願いする。…主たちを、頼む。(time_07:40)
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*hexagram only log_22xx/2/xx_x1 No.(3222296)
C:証拠としてここに記録しておく。(time_17:05)
C:時間遡行軍の大型拠点を1つ潰したのは周知の通り。(time_17:06)
C:少々やり過ぎたらしく壊滅させてしまったが、まあ、あれは不可抗力だな。(time_17:06)
C:無事そうな機器の解析は、うちの信濃と鯰尾、技巧の槍連中がやってる最中だ。(time_17:07)
C:それ以外の戦果は、息のある遡行軍の大太刀と打刀、苦無を1振りずつ。(time_17:08)
C:あと遡行軍じゃない人間が1人。(time_17:08)
C:どちらも明星のところで情報を吐かせようとしたんだが、すごく口が堅い。(time_17:09)
C:埒が明かないというので、俺のところで預かった。(time_17:10)
C:非常に有意義な情報が取れている。巴形が纏めてくれたから共有する。(time_17:11)
C:で、六星の者たちは回復したか? こちらでも人間は脆い造りなんだな。(time_17:12)
。。。download...
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*hexagram only log_22xx/2/xx_x3 No.(3222314)
C:秩序本丸、髭切だよ。明星君、居るかい? (time_14:05)
A:ああ。悪いな、主の外出時に。 (time_14:07)
C:構わないよ。主に直接訊きにくいんだろう? 何が訊きたいんだい? (time_14:08)
A:…そっちに、前に捕らえた奴らが居るだろう。 (time_14:10)
C:居るねえ。 (time_14:10)
A:どうやってあれだけの情報を吐かせたのか、気になってな。 (time_14:11)
C:なぜかな? 情報が手に入ったなら、それで良しとすれば良いじゃない。 (time_14:13)
A:そうはいかねえ。お前んとこの主は、言ってみりゃ部外者なんだ。 (time_14:14)
A:その部外者に敵陣本拠まで行かせて危険に晒した挙げ句、捕虜の管理まで任せちまってるんだ。 (time_14:14)
K:私も聞かせて下さい。この先ROMりますので。 (time_14:15)
H:同上。 (time_14:15)
R:同上。 (time_14:15)
S:同上。 (time_14:16)
G:同上。 (time_14:16)
C:ありゃ、みんな居るんだねえ。 (time_14:18)
C:でも、訊いてどうするんだい? 君たちもよく知っているだろうけど、僕らは僕らの主を守るために刀を抜くよ? (time_14:19)
A:どうもしねえよ。何を訊いたとて、味方であることに感謝するだけだ。 (time_14:19)
C:強情だねえ。うーん…。 (time_14:20)
C:じゃあ、…捕らえた人の子からにしよう。 (time_14:23)
C:カレに自殺防止も含めた拘束をして、僕らの主はまずこう言ったよ。 (time_14:24)
C:『人間の生命活動は、心臓と脳で維持されているんだろう?』 (time_14:25)
C:『それなら、上半身が残っていれば問題ないんじゃないか?』ってね。 (time_14:25)
C:あはは、さすがの僕も驚いたなあ。 (time_14:26)
C:先にショックか出血多量で死んじゃうよって言ったら、主は感心していたねえ。 (time_14:27)
C:『そうなのか。なら〈空の民〉も同じなんだな』 (time_14:28)
C:『そういった加減は誰も教えてくれなかったからな。調べても良いか?』…だって。 (time_14:28)
C:…ねえ、これ以上訊きたいかい? (time_14:30)
C:……ふふ、止めておこうか。 (time_14:34)
C:遡行軍の方はねえ、打刀だったかな。 (time_14:35)
C:拘束した打刀を全身くまなく触診して、主はそいつに触れながらこう言ったよ。 (time_14:36)
C:『星晶獣の生命は核(コア)、刀剣男士の生命は刀、遡行軍は人間に似ている、と』 (time_14:37)
C:主の触れているところから遡行軍の姿が輝いて、主の手元は真っ白にしか見えなかった。 (time_14:37)
C:しばらくしたら突然光が収まって、遡行軍が一瞬で砕けちゃった。 (time_14:38)
A:砕けた? (time_14:39)
C:うん。造り換えようとして、上手くいかなかったみたい。 (time_14:39)
C:主のヴァーチャーズに、上位互換のドミニオンって居るだろう? (time_14:39)
C:あれって、元は他の星晶獣のコアを造り換えたものなんだってさ。 (time_14:40)
*
砕け散った遡行軍の打刀は、欠片も残さず消えてしまった。
「さすがに初回からは無理か…」
あと数回試せば、上手くいくような気がする。
「駄目だよ、主。貴重な捕虜なんだから、情報を全部吐かせるまでは生かしておかないと」
髭切に諭され、サンダルフォンは仕方がないと立ち上がった。
「分かった。遡行軍については、あとは輪廻と技巧に任せよう」
この遡行軍の製造方法や霊的なことに関して、サンダルフォンは完全に門外漢だ。
「信濃たちの進捗確認でもするか」
電子機器に関してはロボミとシロウの拠点である研究艇で使っていたため、困ってはいない。
地下蔵から出て、伸びをする。
「主、湯浴みしてきなよ。遡行軍のニオイが残ってる」
「ニオイ、ねえ」
それは例えば、『戦場の匂い』という形容と同じなのだろう。
サンダルフォンにはよく分からないが。
「なら、夕食までには済ませておこう」
そう答えて、髭切と別れる。
サンダルフォンが『こちら』の世界へ落ちてから、もう半年近くが経とうとしていた。
(我ながら順応したものだ…)
やるべきことがある、という状況は有り難いものだ。
まさか〈空の世界〉で面識のあった三日月宗近や和泉守兼定を、同じく顕現させることになるとは思わなかったが。
「主、地下の方は終わりかい?」
後ろから声を掛けられ、振り返る。
「小竜か。ああ、地下の輩はそろそろ輪廻たちに送る予定だ」
「了解、こんのすけに準備してもらうよ。…ところで」
小竜景光はサンダルフォンが顕現させた最初の刀であり、この本丸で固定されている近侍でもある。
彼は徐にサンダルフォンの片手を取ると、逆方向へと歩き出した。
「おい?」
「先に湯浴みだよ、主。遡行軍に直接触れるかしただろう?」
「…よく分かったな」
「そりゃあね。主の力で顕現した俺たちとは真逆の気配なんて、気分の良いものじゃないさ」
それは髭切が『ニオイ』と表現したものだろう。
やはりサンダルフォンには理解し難いが、遡行軍それ自体が『良くないもの』である感覚は解るつもりだ。
活劇たちは、それらを纏めて『穢れ』と呼んでいたか。
「あっれー? 主、どうしたんだ?」
「小竜、なにかあったのか?」
風呂場へ強制送還される間に、畑仕事から戻ってきたらしい太鼓鐘貞宗と謙信景光に見つかってしまった。
彼らは小竜の次にそれぞれ顕現した短刀で、小竜同様にサンダルフォンとの付き合いがもっとも長い。
「地下で遡行軍を直接弄ったみたいだ。君たち、畑仕事が終わりなら念入りに洗ってきてくれよ」
“遡行軍を直接”の下りで視線が鋭くなった短刀二振りに、サンダルフォンは観念した。
(逃げられないな、これは)
案の定、太鼓鐘はにかりと笑みを浮かべるも、目が笑っていない。
「オーケーオーケー、俺たちで念入りに清めてくるぜ!」
謙信も早々にサンダルフォンの片手を掴み、引っ張る。
「こんかいは、つばさもだしてもらうぞ」
「…分かった。分かったから、逃げないからそう引っ張るな」
もっとも気のおけない短刀たちにサンダルフォンを預け、小竜は満足して踵を返した。
(地下蔵…か。1人ではなかったはず…)
一緒に居たのは誰かと推理しながら、検分担当のこんのすけの元へ向かう。
と、呆気なく疑問は解消された。
「ああ、竜君。主はちゃんと湯浴みに向かった?」
髭切だ。
検分のこんのすけが『ただいま輪廻本丸に繋げております』と言うので、地下蔵での供は彼だったようだ。
「さっき掴まえてね。太鼓鐘と謙信に預けてきたよ」
「なるほど。それは安心だ」
髭切も早くに顕現した刀で、思考が年若いサンダルフォンを宥め諭すことが多い。
「竜君、六星とのチャットは見たかい?」
「主が見ていないときのもの?」
「そう」
人ではないサンダルフォンの思考と知識には、人外であることを考慮しても歪な稚さがある。
『目論見が外れたな。俺は清廉潔白などではない』
清廉潔白な主を、が信条の小竜が顕現したとき、サンダルフォンはそう皮肉げに嗤った。
けれど自身の見解は間違っていないと、小竜は結論づけている。
サンダルフォンの『大罪を犯した』という告白が真実としても、彼が罪とイコールとなる程に無垢であることは変わらない。
(いっそ罪のような無垢さは、主を育てるべき人物の明白な『罪』だ)
教えるべきことを教えず、叱るべきことを叱らなかった。
被造物であるなら創造主が居るはずで、その創造主は己の責務を怠ったのだ。
そうでなければ、小竜は顕現しない。
いわゆる『ブラック本丸』に小竜景光が顕現した例は、今までに一度もないのだから。
「時の政府が六星との約定を破って、主に手を出そうとしているんだってね」
髭切は常と変わらぬ笑みの中、目に鋭さを宿した。
小竜は首肯するに留める。
「隠れようとしてるわけじゃないしね。演練でもよく目立ってるよ」
サンダルフォンは目立とうとはしていない。
ただ、彼の存在そのものが『目立つように出来ている』だけだ。
「主が元の世界に帰る方法について、技巧はなんて言ってるんだい?」
「目処は立ちそうって言ってたよ。でも条件が厳しい」
「条件…空間に穴を空ける条件?」
「いや。空けた穴を、主の世界と繋ぐ条件」
それは、と訊きかけた髭切を、呼ぶ声が止めた。
「小竜さーん! 活劇さんがお見えになりましたよー!」
物吉が母屋から手を振っている。
「遡行軍は僕が輪廻君に送っておくよ」
「じゃあ頼もうか」
小竜はやって来たその足で、再び母屋へ戻る。
この本丸へ直接足を運んでくる者は活劇審神者くらいなので、出迎えも慣れたものだ。
小竜と物吉は、揃って応接間へ向かう。
「主様と小竜さんが話しているのを小耳に挟みましたけど、活劇さんはその件ですか?」
「念のために訊くけど、どの話かな?」
物吉は右の人差し指を立てた。
「時の政府が神々に隔離された時間軸を使おうとしている、という話ですね」
正解だ。
小竜は何も言わなかったが、沈黙こそが答えでもある。
物吉はクスリと笑った。
「面白いですよねえ、人の子って。鶴丸さんじゃないですけど、観察してれば確かに驚きを得られます」
「ははっ、あの刀(ひと)たちとは驚く部分が違いそうだけどね」
だけど、と小竜は続ける。
「もし『それ』が実現されるなら、検証にはちょうど良いよ」
時間遡行装置を応用した、サンダルフォンの空間移動の検証に。
ふと、物吉が押し黙る。
「…小竜さん」
「うん?」
彼が足を止めたので、小竜も足を止めた。
じっと見上げてくる眼差しは、幾度も受け止めてきたものだ。
「主様が戻られるとき、小竜さんは意地でも着いていってくださいね」
まだ、サンダルフォンには告げていない。
けれど彼に顕現された刀剣たちの間では、ひとつの決めごとがあった。
それはサンダルフォンが〈空の世界〉に戻る際、近侍たる小竜景光が付き従うこと。
いざ元の世界へ帰るとなったとき、サンダルフォンはこちらで得たものすべてを『置いていく』だろう。
予想ではなく、確信だ。
だがこの本丸の刀剣たちの誰一人として、彼を放っておけようはずもなかった。
「ボクらの主様の『普通』は、刀のボクらから見てもあまりに乾き過ぎてます」
温もりも安堵も無いことが普通だなんて、そんなことを許せようか。
人に創られ、人の傍に在り続ける刀であるからこそ。
「…ずっとこちらに居てくれたら良いのに」
物吉の呟きは、戦争が続けば良いという意味ではない。
判っているから、小竜は肩を竦める。
「そうするには、主は真面目過ぎるさ」
『役割』があると言っていた。
しばらくは自分が不在でも何とかなるが、必ず帰還しなければならないと。
「本当は、護り刀として謙信か太鼓鐘を連れて行きたいけれどね」
加州の話では、サンダルフォンがこちらの世界に現れたのは一瞬のことだったそうだ。
時間遡行と同様、『ゲート』が開くには3秒ほど掛かるだろう。
つまり、それだけの猶予しかない。
「…でもまあ、勝算はあるさ」
真剣必殺時の笑みを閃かせた小竜に、物吉はホッと肩の力を抜いた。
「小竜さんがそう云うなら、お任せ出来ますね」
渡殿の先から、活劇の声が聴こえてくる。
どうやらこちらの三日月宗近と話しているらしい。
「太鼓鐘のことだから、主の羽の1枚に至るまでブラッシングしないと戻って来ないだろうなあ」
「ふふっ、そうでしょうね」
サンダルフォンは審神者ではない。
けれど小竜たちは彼に顕現され、彼を己の持ち主として戦ってきた。
彼が部外者であることも、そう遠くない内に去るであろうことも本人から聞いている。
(生憎と俺たちは、『自分』を振るい動き回るための肉体を手に入れている)
そして前例があった。
活劇本丸の刀剣6振りとこんのすけが、〈空の世界〉へ行って帰ってきた事実が。
おまけに彼らは〈空の世界〉で世話になった騎空団において、戦力的には上位に分類されたという。
(戦いが隣人であるなら、邪魔になることはない)
ーーたとえ、肉体の顕現叶わずとも。
「肉体の顕現を解く方法は、すでに輪廻さんから訊いたし。後は『そのとき』、如何に主を説き伏せるかだねえ」
困ったような口調ながら、小竜は楽しげに笑っていた。
(…さすがです)
だから物吉も他の刀剣たちも、彼にサンダルフォンのことを任せることが出来る。
「ああ、小竜景光さんに物吉貞宗さん。サンダルフォンさんはご在宅ですよね?」
活劇の連れは、今日は膝丸だった。
小竜は問い掛けにひらりと手を振る。
「ごめんごめん。遡行軍で実験してたみたいでね。今風呂に放り込んでるんだ」
「なるほど、禊は大事ですからね。先に別件を済ませましょうか」
この本丸の刀剣は、サンダルフォンが居なくなれば活劇預かりとなる。
彼が1分1秒でも長くこちらに留まってくれることを、得難い友人を見送ることになる活劇も密やかに願っていた。
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2018.11.11
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