この穹(ソラ)に願いを

2.幸と不幸の定義




ナナリーが謎のウイルスに侵された後、騎空艇に戻ったグランは真っ先にシャオとカリオストロを呼んだ。
「異世界で開発されたウイルスだぁ? ったく、異世界と繋がりやすい世界だぜ」
カリオストロと呼ばれた少女はなんと齢千年超え、錬金術の第一人者だという。
ナナリーの容態が落ち着いてから改めてそれを考えたルルーシュは、内心でうんざりとした。
(C.C.が2人ということか…?)
共犯者たるC.C.も、年齢は少なく見積もって500年以上だ。
『コード』の特性である不老不死によって、彼女は命を失っても生き返る。
「うーん…。治療薬の構成は分かりませんが、ひとまずこれで症状は抑制出来るはずです」
シャオと呼ばれた青年は、例えるならば東洋医学の者のようだ。
声がスザクによく似ているので、戦闘面についてからっきしのルルーシュでは気配を読み取れずに間違える。
ふむ、と頷いたカリオストロがグランとルルーシュを見上げた。
「すぐには分からんが、似たような成分の薬品・薬草・魔法薬を探す価値はある。ひとまずグラン、ジャスミンとウェルダーを借りるぞ」
「うん、分かった。お願いするよ!」
マイシェラは所用で出払っているので、戻ってきたときでも良いだろう。
「ありがとう。カリオストロ、シャオ」
「構わねぇよ。解決したら、美味いパンケーキでも作ってくれ」
「この世は持ちつ持たれつですよ。僕は…そうですねえ。一度、腰を据えてチェスをしましょう。ルルーシュさん」
2人はひらひらと手を振って退室し、ルルーシュはもうひとり、残ったグランへ視線を移す。
「グランも、ありがとう。俺たちを受け入れてくれただけじゃない。ナナリーを庇ってくれたことも」
「勝手に身体が動いちゃったんだ。それにもう何ともないし、気にしないで」
ベッド脇に置かれた丸椅子に座り、ルルーシュはナナリーの細い手を握る。
「…まだ、この事件は解決していない。また頼らせてもらうことになる」
眉を下げた彼に、グランは笑って胸を張った。
「任せて!」
だって、彼の作るご飯は美味しい。
ローアインたちが絶賛するほどの腕だし、グランやルリアにも彼はとても優しいのだ。
今回の作戦で、彼が敵に対して血も涙もないことは分かったけれど。
でもそういう団員は他にもごろごろ居るし、何より。
「グラン、ルルーシュ、今良いか?」
小さなノック音と共に扉が開き、カタリナが顔を覗かせる。
「どうしたの?」
扉を大きく開けたカタリナは、何かを引っ張り込んできた。
「折り畳み式の簡易ベッドだ。ルルーシュ、君はこの部屋に泊まり込む気だったろう?」
ぱちりと目を瞬いたルルーシュは、きっとなぜ解ったのかと問いたいのだろう。
でも、これはグランにだって解る。
カタリナが小さく笑った。
「私も、ルリアが倒れたら同じことをするからな」
だから解るさ、と告げたカタリナに、ルルーシュもようやく笑みを返した。

グランはカタリナと共に部屋を出る。
明日か明後日までは、彼の厨房担当を外してもらうように伝えなければ。
「目が見えず、歩けず、…か」
ポツリと零したカタリナは、きっとルリアがそうだったらと考えているのだろう。
ビィにとってはグランが、ルリアにとってはグランやカタリナが、そんな不自由を持っていたら。
「C.C.(シーツー)…と言ったか。彼女が言っていたんだ」

ーー不自由であることが、不幸であるわけではないぞ。

「私たちは五体満足であるからこそ、無茶をしながら旅をしている。だが五体満足であることが幸福なのかと問われると、難しいな」
「…そうだね」
グランはルリアと命が繋がっている。
2人共にあることに何の不自由もないが、それが不幸に見えることもあるのだろう。
「でもルルーシュにはナナリーが居て、C.C.が居て、それに友達も一緒に居るよ」
「そうだな。ああ、彼らにもナナリーちゃんの容態を伝えておかなければ」

グランはルルーシュたちを招き入れた。
己の騎空団に招き入れたのなら、グランには団長としての責務がある。
(絶対に、)
彼らを、彼らの不幸にはさせない。


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2019.7.29
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