この穹(ソラ)に願いを

7.浜辺でランチタイムを




「すっげぇなあ、ルルーシュ。どうやってサンダルフォンのヤツ説得したんだよ?」
感心しきりのビィに、ルルーシュは苦笑する。
「簡単なことだ。TPOは弁えるべきだと言っただけさ」
今回の場合、リゾート地の流儀に従うのが、同じリゾート地で商売をする者の礼儀だと。
頑なに鎧姿を崩そうとしなかったサンダルフォンが水着姿となったのは、グランを始めグランサイファーの面々には祭りに等しかった。
ルルーシュとビィの視線の先では、グランたちがサンダルフォンを囲んでお祭り騒ぎをしている。
「はわわ〜! サンダルフォンさん、水着よく似合ってます! カッコイイです!」
「やっぱり、パーシヴァルみたいなタイプにして正解だったね! さすがコルワ!」
「でしょ? 素材はルシオに並んで最高級なんだから、最高級に着飾るのが一番よ!」
「………そろそろ、俺から離れてもらえないか」
海の家は他のメンバーに店番を頼んで、店主以下は休憩時間だ。
しかしはしゃぐのは良いが、そろそろ渦中の彼を助けるべきかとルルーシュは思案する。
だが意外な方向から救いの手がやって来た。

「サーンちゃーん! こっちでごはん食べようよ、ごはん!」

ファンシーなピンクのイルカの着ぐるみが、ぽーんと飛び込んできた。
「うわっ?! アズラエル?!」
あとからやって来た影も2つ。
「ごめんなさいね、団長。天司長をお借りしていくわね」
1人はエウロペだ。
「サンダルフォン。ユグドラシルとアテナがいろんな料理を手に入れてきたよ」
もう1人はサリエルで、聞くところによれば彼も天司の枠組みに入るらしい。
グランはそこで、昼休みはサンダルフォンを貸してくれとエウロペに言われていたことを思い出した。







「団長、ちょーっと訊いても良いかしら?」
浜辺の木陰でランチタイムと洒落込んでいたグランに、メーテラがそっと話し掛けてくる。
「え、どうかした?」
「何か起こってるわけじゃないのよ〜? でもねぇ、ちょーっと、あっちの浜辺が気になるっていうか…。ねえ?」
周りを見てみなさい、と言われて、ルリアと2人で首を巡らせる。
と、確かに。
「はわ…皆さん同じ方向を見てますね…?」
「お祭り会場の取り巻きみたいな…?」
そこでグランは思い出した。
やはりそちらを見ながらサンドイッチを食べているルルーシュたちに合流する。
「あら、団長にルリアにビィ! もうご飯食べたの?」
「はい! これ以上食べると、海で遊べなくなっちゃうので!」
ルルーシュが頬を緩めた。
「良い心掛けだ。どこかの魔女も見習うべきだな」
「何を言う。私は燃費が良いんだ」
彼とC.C.の嫌味の応酬は、どこか軽やかで安心感がある。
それが不思議だと思っていると、ナナリーがくすりと微笑んだ。
「C.C.さん、私が残してしまいそうなお料理を、先に取り分けて代わりに食べてくれるんです。とても優しい人なんですよ」
それはグランも知っている。
高慢でいて嫌味な物言いをするが、そこにはいつも慈愛があるのだから。
「団長も天然タラシなのね…」
カレンが誰を引っ張って比べているのか、ここで聞くのは止めておく。

グランはようやく本題を思い出した。
「ねえ、ルルーシュ。あそこの面々の料理って、もしかして君のかな?」
あそこの面々、というのは、メーテラの指した一団でもあった。
「…見てると目が焼かれるわ……」
「あはは…」
顔を振って目を逸したカレンに、スザクが苦笑する。
「まあ、一般人はそうなるだろうな」
肩を竦めたC.C.が、にやりとチェシャ猫のように笑った。

その浜辺にテーブルを広げて立食パーティーをしているのは、グランサイファーに関わる星晶獣たちだ。
アウギュステ・リゾートらしい、カラフルなドリンクに手軽に摘める軽食が並べられている。
聞けば、軽食はガブリエルたちへの礼代わりに、ルルーシュがヴェインに手伝ってもらって作ったらしい。
(めっちゃ美味しそう…)
なんかもう、プライベートビーチではないのにあまりにテーブル上がゴージャス。
何より、それらを囲う彼ら自身が綺羅びやかな容姿をしているため、何もなくても辺りに星が散っているように見える。
そしてサンダルフォンはその中心で、あれやこれやと構われまくっていた。

グランはつい視線を外した。
「ま、眩しい…」
いや、本当に。
基本的に来るもの拒まずなグランサイファーには、老いも若きも美男美女が多い。
しかしこうして見ると、彼ら『星晶獣』たちの持つ美しさや華やかさは違うのだと感じる。
というか、これはもう『顔面偏差値の暴力』と言って相違なかった。
「…ん? 顔が良い筆頭の人外はどうした?」
随分な呼び方だが、C.C.の呼ぶ誰かについてはすぐに解る。
「ルシオ? ルシオなら、海の家の代理店長やってるよ」
「ほう…良い心掛けじゃないか」
差し入れを持っていってやろう、とC.C.は立ち上がり、パレオの下のポーチから携帯端末を取り出した。
この『空』にはほとんど存在しない、『写真』を手軽に撮れる装置だ。
彼女はそれを星晶獣たちの宴へ向けてから、海の家へ行くと言って席を外した。

C.C.を見送ってから、グランはルルーシュへ尋ねる。
「なんか最近、ルシオとC.C.仲良いけど。何かあったの?」
「…団長。深入りは碌なことにならないぞ」
「えっ」
深刻な話でもないようだしな、と心底うんざりしたような顔で忠告を受けてしまった。


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2019.7.29
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