(どうして私は何も出来ん? 守るべきは私で、姫宮としての責務で、)
守られてばかりではないか。
過去も、未来も、現在も。
「葉風さん、お茶が入ったわよ」
フロイラインの声に、瞼を上げた。
「ああ、今行く」
ふらりと立ち上がりリビングへ出向けば、いつもの面々が顔を揃えている。
…吉野と真広の姿はない。
車座の空いた位置に座り、用意された茶菓子に葉風は目元を緩ませた。
「しかし…羽村が未だここに居るとは、人とは変わるものだな」
煎餅を手に取った羽村は、向かいからの言葉に眦を下げた。
「酷いなあ、葉風さん。そりゃあ、頼りないことは自覚してるよ。前々から」
吉野が絶園の力を引き受けたことで、羽村は只人(ただびと)へ戻った。
しかし丸3日を掛けて彼が出した答えは、このまま葉風らと共に奔走することだった。
「途中までとはいえ当事者だったし、ここまで知ってるのに逃げるのは何か違うと思うし。
それに…僕より年下の高校生に、全部任せるわけにはいかないよ」
彼の横でどら焼きをパクつき、潤一郎が笑った。
「いやあ、言うようになったねえ羽村くん。実質的に、一番成長したのは君なんじゃないかなあ」
葉風ちゃんはまだまだ子どもだし。
「潤兄さん!」
むくれた葉風に、座が和んだ。
湯のみを手にして、フロイラインはほぅと息を吐いた。
「5年…か。長いようで短いわね」
主語のない言葉であるが、このメンバーには得てして通じる。
「長くて5年。それが"はじまりの樹"が何もしない最後の期間だと、滝川くんは言ったな」
早川の返しに、左門は息を吐く。
「ああ。それが終われば"はじまりの樹"は本体を出現させ、文明破壊の準備に入る」
「本体を破壊すればこちらの勝ち、破壊できなければ…」
"はじまりの樹"を破壊できなければ、人類の文明がリセットされる。
夏村は言葉を濁した。
羊羹を飲み込み、葉風は茶のお代りを入れる。
「…とりあえず、私は魔具の作成と共に、富士山麓と鎖部の里の結界を強化しようと思う」
眼差しを寄越された左門は頷き、饅頭を手に取る。
「異論はありません。特に姫様の魔具は、幾らでも必要となるでしょう」
うんうんと同意を示した潤一郎が、ぽんと手を叩いた。
「よし、じゃあ羽村くん! フロイラインさんの手伝いに入れるように、もっぺん特訓しようか!」
「ええっ?!」
潤一郎さんに勝ってたじゃないですか! と嘆く羽村に、彼はチッチと指を振ってみせる。
「あれは"絶園の樹の力"じゃない、と言い切れるかい?」
「うっ…」
項垂れた羽村の肩をポンと叩いたフロイラインが、何かに気づきポケットを探った。
取り出されたのは彼女のスマートフォン。
着信内容を見たフロイラインは、にこりと葉風へ笑い掛けた。
「真広くんからよ。吉野くんと2人、今は香港に居るって」
力無く、けれど葉風はようやく明るい顔を見せた。
「そう…か。元気でやっているなら、もはや何も望むまい」
富士山麓で交わした言葉は、未来への礎だ。
他に何を望む?
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どうか良き終幕(フィナーレ)を